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ワールド・セネカ  作者: FRIDAY
壱 物語は校門からやって来る
6/51

主人公そっちのけのまま宣戦布告

「――ようやく出て来ましたか。いやはや待ちくたびれました。待ちくたびれて、こちらからもう一度御挨拶させていただこうかと思いましたよ」


 アパートを出た三人の先、瓦礫以外で立ち姿を見せている影は十。

「ふん。これはまたバリエーション豊かなこと。人形遣いが六人と、ホムンクルスが六体。伏兵もなし、な」


 前面に堂々と胸を張って立ち、周囲を睥睨へいげいした真柴ましばは鼻で笑った。そう、対峙たいじする者たちのうち、人間の姿は六。残る六は、それぞれ全く別の姿をしていた。それぞれを確認するように、真柴はとっくりと眺める。

「二式獣型が一体、三式ヒト型が一体、四式武装型が二体、そして五式異形型が一体と、六式天使型が一体――ほぼ勢ぞろいだな。いやこれは具合がいい。実に都合がいい」


 何だからよくわからないが、真柴ひとりだけがご満悦まんえつな様子だ。その態度にやや眉をひそめつつも、口火を切った、有翼の真っ白な人のようなものを従えた男が真柴の傍らに立つ少女に目を付けた。


「――成程。それが例のホムンクルス、七式ですか。見たところ、ほとんど三式と違いなさそうな様子ですが。しかし先程の戦闘は見させていただきましたからね――五式『ガルガリン』は異形型の中でも上位。それを独力で打倒したのですから、持つべき者が所有すれば、噂にたがわず世界を手に入れることも可能でしょうね。――さすがは『至高の三師さんし』と呼ばれるだけはありますよ、真柴・鈴沙れいさ

「へえ、なんだ、私を知っているのか。こりゃあ、私も有名になったもんだねえ」

「ええ、そりゃあ知っていますとも。知らない者などいません」


 わざとらしく頭を掻く真柴に対し、男は軽く笑う。好意的からは程遠い笑いだが。

「真柴・鈴沙。世界で最も優れた人形師、『至高の三師』のひとりにして、東洋史上最高の魔女。血筋もなく、師をもつこともなく独学で大成した天才――人形師にも、人形遣いにも、知らない者はいません」

「あら、そんな感じの評判なんだ? 何だか随分と好意的だねえ……間違っちゃあいないんだけど」


 ふんふん頷く真柴の後ろで、ふと吉野は疑問を持った。

「――ん、なあ、あんた」

「おねーさんと呼びなさい。美人で素敵なおねーさんでも可」

 長い。いちいちそんな呼び方できるか。


「……真柴さん。人形師ってなんだ。人形遣い、とは違うのか?」

「ん、説明してなかったか? 人形師っていうのはつまり、錬金術師だ。草創期はともかく、今となっちゃあ人形を創る以外に対したことができないから、もう人形師って呼称の方が一般的だ。で、人形遣いっていうのは人形師の創った人形と契約して使役する人間。ま、ほぼ一般人だな」


 ふむふむと頷きながら訊いていた吉野だったが、ふと考えると結構好き勝手な説明ではないだろうか。そう思って見てみれば案の定、天使を従えた男は口角をひくつかせている。


「……確かに、我々人形遣いは人形を創ることはできません。ですが、どうなのでしょうね。創るだけ創りながら、人形を一切遣わない人形師と並べれば、どちらの方が、」

「優れている、とか言うのなら大爆笑する準備をするんだが、合ってるか? はいどうぞ」

「……つくづく、人を喰ったような物言いですね。それも世評通り、というわけですか」


 まともな会話を諦めたらしく、男は気を取り直すように軽く首を振った。


「どのみち、我々が欲するのはあなたではなく、あなたが創り、あなたの傍らに立つその七式です」

「だろうさ。他に私のところに来る用事なんかないだろ。私は弟子は取らない主義だし」

「それも聞いていますよ。――ところで、これはただの興味で、余談なのですが、あなたの後ろに立つその少年は何者ですか?」

「うん?」

 振り返って、未だ状況を呑み込めていない吉野を一瞥し、ああ、と再び向き直る。


「――私の弟子だ」


「弟子は取らない主義って十秒前に言ったばかりだよな……? それに、何となくだけど、あんたの弟子は嫌だな」

「何でだよ」

「いや、なんか、こき使われそうで」

「まあそうなんだけどな。察しがいいじゃないか、その通り。――つまりは奴隷だな」

「やっぱりそうなのかよ! 奴隷だなんてあんまりだ!」

「いい加減にしてもらえますかね」


 吉野と真柴の漫才めいた掛け合いにとうとう業を煮やしたらしい男は、苛立ちを隠すことなく顔に出している。いや、男だけではない。周囲に並ぶ全員が、既にかなり苛立っている。そういうものに全く触れたことのない吉野ですらわかる。


 殺気だ。

 青筋立ってる。


「私は雑談を楽しみに来たのではありません。先程も言いましたが、我々の目的はその七式。早急に手に入れた後は、我々の間でどのようにして取るかを決めなければなりませんし、他の人形遣いが集まってくる前に片を付けなければなりませんから――そういうわけで、穏便に済ませましょう。その七式、こちらへ渡してください」

「嫌だ」


 即答。真柴のその返答に、男は視線をさらに鋭くしたが、対して視線を受ける真柴は一度険しくした相好を再び崩して、

「――と言ったら?」

「……力づく、ですよ。よくある話です。わかりやすいでしょう?」

 男の言葉に真柴は、そうだな、と頷く。

「確かにわかりやすい。わかりやすいのは私は好きだね」

「お気に召していただけたのであれば幸いです。それで、答えは?」

「嫌だ」

 先と同じ返答をして、しかし今度は笑わない。


「――本気ですか?」

「本気も本気さ。私は、お前らに、セネカを、渡すのは、イ、ヤ、だ」

 噛んで含めるように、もう一度言おうか、とまで言い、笑った。

 にかっと、凄惨せいさんに。


 それを見て、男の反応は希薄だった。ただ見据えて、ひとつ吐息する。

「――そうですか。では宣言通り、実力行使といきましょう。勿論、無抵抗というわけではないのでしょうね。七式の契約者は、ではまさか、その後ろの少年ですか?」

「御明察。――初戦だから、私がサポートするけどな」

「サポート……では、まさか、あなた自身が遣うのですか? 人形を?」

「そんな感じだ。私のことをそれくらいに知っているのなら、これも聞いたことくらいあるんだろう? 『極東の人形師は変人だ』っていう話は」

「ええ、聞いていますが」

「じゃあ驚くなよ。人形師が人形を遣っても。――ま、正確には遣うわけじゃないんだけどな。今だけさ。予行練習、チュートリアルだ。後ろのそいつにキーの入力方法、もといホムンクルスでの戦い方ってのを見せてやるための」

 く、と親指で後ろに立つ吉野を示す。対峙する人形遣いたちの視線を一心に受けて、吉野は一歩を引いた。


「……それはつまり、我々を踏み台にでもしようと言うのですか」

「喜べ。土台になれるんだぜ。物語の完結した暁には、こう言ってやろう。『あいつらのお陰で今の私たちがあるんだ』、とな。勿論、お前らのことを覚えていたら、だが」

「甘く見られたものですね。全くもって。ただでさえこの人数差で、さらにこれだけのこちらの陣形を見て。よくそれだけの自信を持てたものですよ」

「傲岸不遜が私の生き方でね。大体、戦力差なんて全くないぞ? むしろ、私に有利過ぎるくらいだ。なにせ、こっちにいるのは――お前らの欲しがってたまらない、ホムンクルス七式セネカ、なんだからな」


 こっちもいい加減飽きた、と真柴は一方的に言った。


「一斉に来てくれて構わないぞ。というか来てくれ。一斉に来ないのなら、こっちから一斉に仕掛ける。――なに、名乗りはいらない。お前らの役割はここで終わるんだ。気に病むな。さっさと来い」

 満身に殺気を纏う六人と正面から対峙しながら、胸を張って、一歩も臆することなく真柴は宣戦する。


「――お前らに魔法を見せてやろう」


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