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ワールド・セネカ  作者: FRIDAY
壱 物語は校門からやって来る
5/51

チュートリアルを始めます

 突然の、足元から突き上げられるような、座った尻が十センチは浮くような突然の激震だった。がたがたと、積んであった本が崩れ落ちる。


「な、なんだ!?」

「襲撃だよ。鍵を欲しがっている連中が、今の所有者から奪い取ろうってさ」

 あれだけの衝撃の直後だというのに、腕も脚も組んだ尊大な態度をまるで崩さず平然としている。


「おー、これはまた、一度に雑魚がまとめて来たな。反応が速いがまあ、あれだけあからさまに跡を残していたんじゃそうなるか……」

 片目を閉じ、中空を眺めながら真柴ましばは何かつぶやく。それに対して、床に這いつくばったままの吉野が何かを言う前に、真柴は勢いをつけて立ち上がった。


「よし。それじゃあ吉野。チュートリアルといこう。ホムンクルスとの戦い方を始めよう」


 すたすたと歩いて、真柴は玄関へと向かっていく。あっけに取られる吉野に着いてくるよう肩越しに手招きしつつ、横たわるセネカへも手を振る。

「そら、起きろセネカ。連戦で無理させて悪いが、もう一発立ち回りだ」

「起きろって言っても、その子気を失って……」

 気絶しているものがそんなあっさりと起きるものかと思いきや、


「――ん」

「うわ起きた!?」


 予備動作なしにむくっと起き上がった。驚く吉野をよそに、少女はぐるりと首を巡らせて真柴を追う。そして淡々と、

「戦うのは構わない。けれど、私はもうテッペーと契約している」

「ああ、だから吉野少年と一緒に戦うんだ。既に一度やってるし、できるな?」

「――ん」


 少女は頷いて立ち上がり、迷いなく真柴の後を追った。あっけにとられ取り残された吉野も慌てて続く。

「な、何がどうなってるんだよ! 説明が説明になってないんだよ!」

「ああ、途中だったな。人間は魔術しか使えない。魔法を使えるのは人形、ホムンクルスだけだ。だが、ホムンクルス単体では魔法は使えない。魔力は人間と契約することによって、契約者から供給されるんだ。――まあ、言わば人形の単独行動を防ぐセーフティだな」


 戸を開ける。開け放った先は、

「なっ――」

 崩れていた。吉野の住むアパートは住宅地にあって、だから周囲には区画整理されて民家が立ち並んでいる、はずなのだが。


 何もない。なくなっている。

 荒れ地になっている。学校でのときよりも、さらに酷く。


「何で……」

「ん? ああ、さっきの衝撃波だな。ここは結界を張っていたからあの程度で済んだんだが」

「いや、でも」


 時間は昼間だ。多くの人間は外出しているかもしれないが、

「でも、人はいたはずだろ!?」

「それも心配ないさ。そっちはそっちで連中が別の結界を展開している。さっきお前が学校で出くわしたのと同じ、ズラす結界だな。結界の外じゃあ太平楽な日常が続いてるよ。まあ辻褄合わせはセルフサービスだが……で、だ」


 説明の続きだ、と真柴は言う。


「時間がないから手短にな。ホムンクルスは魔法を行使するための源、魔力を契約者の人間に頼っている。だから、契約者がいないホムンクルスは魔法を使えない」

「え、でも、さっきその子は魔法を」

「基本的には、だ」

 ふん、と軽く鼻を鳴らし、真柴は少女の頭に手を置く。

「無理を通せば道理も引っ込む。強引に行使すれば魔法を使うことはできる。契約者なしでもな」

「でも、魔力がなくても魔法は使えるのか?」

「使えない。だから強引に絞り出すのさ。人形の存在からな。言ってみれば、自分の血液を燃料にするようなものだ。だが魔法に必要な魔力は膨大だ。いくら血を絞ってもふたつか三つで限度だな。するとどうなるか? ――貧血になるわな」

「だから……今まで気を失っていた、のか?」

「御明察」

 ぽんぽんと少女の頭を叩きながら真柴は頷いた。その少女は、ちゃんと自分の足で立っている。


「じゃあ、もう大丈夫なのか」

「いいや全然。そんなすぐに復帰できるものではない。だから『無理をさせる』のさ。まだ契約したばかりだし、セネカにとっても初の契約だから、お前とセネカの供給ラインは完全には確立していない。それでもセネカの契約者はお前で、私らの中で戦えるのもセネカだけだ」

「そ、そんなので大丈夫なのか」

「弱っても七式だ。上手くやれるさ――説明はここまでだ。さっさと出ないと外の連中がれてまた攻撃仕掛けてくるぞ。それに言っただろう? これはチュートリアルだ。ホムンクルスでの戦い方をお前に見せなきゃいけないんだから。サービスなんだぞ? 錬金術師、人形師は手解てほどきなんてしないんだからな」

 言って、実に気安く、実に軽い調子で、真柴は少女の手を引いて外に出た。


「外はもう戦場だ。だから戦場に出るまでに言っておく。――選んでもらうぞ吉野少年。これからどうしていくか。どのみち、もう今までのような『どこにでもあるような』、『物語にならない』日常は終わったんだ。セネカと一緒に物語を続けていくか、それとも、だ――どうするか、考えておけ」


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