表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空海戦物語 魔法機環と少女と  作者: 天菜 真祭
クッキーとガス燈の灯る街角と
4/27

銀杏金枝寮で

#星歴 684年11月 4日

  ティンティウム市朱鷺ヶ丘16番地


 芸術学院前駅でトラムを降りた。門限を過ぎていたけど、守衛さんにお願いして通してもらった。

 先生方や他の生徒に出くわすと、気まずいので、なるべく目立たない倉庫棟の近くを抜けて銀杏金枝寮へ向かった。

 晩秋の夕闇は、少し肌寒かった。

 学内も銀杏の木があって、銀杏の実も所々に転がって、あの匂いがする。銀杏の落ち葉で金色の絨毯のようになった通路もある。


 腕の中に抱いた鈴猫のクッキーの紙袋を見つめた。しっぽにリボン付きの鈴を結んだイラストが印刷されている。いつ見ても美味しそう。もしも、太古の漆黒妖魔が置き忘れた魔法機械が、このティンティウム市へ現れたりしたら、この学校も、鈴猫焼菓子店も全部、消えて無くなっしまう。

 それだけは、絶対に防ぎ切らなきゃいけないって思う。

 だけど、怖い。

 私、二年前に妖魔と戦って、大怪我をしているから。

 だから、みんなに私の本当のことを話して、この大切な私の居場所を守るんだって、声にしたい。

 もちろん、こんなこと、全部、怖がりな私のわがままだと、分かっているけど。

 だけど、さあって思うと腰が引けてしまう。今まで銀杏金枝寮のみんなと一緒に過ごして楽しかったから……この穏やかな関係を壊すのは嫌だった。


  ◇  ◇


 焼きたてクッキーの大袋を抱いて、銀杏金枝寮へ戻ったら、寮にいる女の子全員に取り囲まれた。寮のみんなは談話室に集まって、私たちの帰りを待っていた。

「沙夜、心配したよ」

「急に泣きながら出て行っちゃうんだもの、どうしたの」

「三人とも、夕食も、お風呂もまだでしょ、風邪ひくよ」

 口々に心配したって言われる。嬉しいけど、恥かしい。だから、言わなきゃいけないって、自身を励ました。そのために、こんなにいっぱいクッキーを買ったんだから。

「あの、みんなに、言わなきゃいけないことがあるのっ!」

 声をあげたら、視線が集まった。半歩後ろでユカが控えている様子を、背中越しに感じた。

 深呼吸した。

「ずっと、隠していて、ごめんなさい。私、天空帝国の法印皇女なの」

 誰からともなく拍手が沸いた。

「やっと、言えたね」

「もう、そんなことで悩んでいたの?」

「夕食、沙夜の大好きなコーンシチューだよ。ちゃんと残してあるから」

 私は、きっと、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていたはず。何事もなく受け入れてくれるみんなが嬉しかった。


 甘い匂いの中に立って、深く頭を下げた。

 今日、みんなに心配させたことを詫びた。

 それから、少し長くなるはずのお話に付き合って欲しいと願い出た。

 私の小さな決心は、拍手で迎えられた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ