なんかの再放送で見たような
それから先も私は久慈君の説明を受けて、ようやくカーテンという存在の重要性が理解出来てきた。
「例えば、久慈君が私の知らない所で誰かに私が魔法少女だって告げても、それは意味がないのよね?」
「はい。どんなに先生と魔法少女アメジストとの接点を証拠で示しても……そんな事がある筈はないと、ボクの方が嘘吐き呼ばわりされる事になると思います」
「久慈君を嘘吐き呼ばわりするんて、酷い子ねっ」
「例え話。例え話ですよ? 先生。それに、先生は最初ボクの事……」
「……過去は水に流していきましょう?」
因みにこの魔法少女アメジストというのが、私の魔法少女としての名前らしい。これもコンソール画面に書いてあった。この名前とは別に、自分で考えた名前を名乗る魔法少女もいるそうだが、よほどの拘りがなければ変える必要はない。勿論、私も名前を変更する気はなかった。
「……となると、ごー君に軽はずみに自白しちゃったのは、間違いだったかも」
私は眉根を寄せながら、チラリとごー君の顔を覗き込んだ。彼は余り話の内容に興味も無さそうに、スマホを弄りながら聞き流している。
『ごー君、聞いてくれる? 私……魔法少女になったみたいなんだけど』『あっ……それ、言っちゃうと……』
少し前の会話を思い出すと、確かに久慈君は私を止めようとしてくれていたが、私の面白半分の自白を予見しようもなく、未遂に終わっている。まぁ、自白してしまったのは仕方がない。そもそも私1人での活動は難しそうだったし、そうなればまず初めに頼るのはごー君だ。大して結果に変わりはないだろう。
それよりも、今は衣装が重要であるという事実。その事実を知ったからには、今度は衣装をどうやって着るかを教えてもらう必要があった。
「まぁ終わった事は仕方ないよね。それで、どうやったら久慈君みたいに変身出来るようになるの? 先生でもすぐに出来るようになる?」
「そんなに難しくはないですから、先生なら大丈夫ですよ。大切なのは、イメージを具体的にする事なんですけど……まずは魔法道具を出す所から始めましょうか」
「魔法道具。久慈君が持ってるステッキとか、動画の赤い子が乗っていた箒とか……そういう感じの奴?」
「そうです。これは余り分かってないんですけど、本人が魔法少女に持つイメージで変わるんで、どんな形の魔法道具が出るか、出してみないと分からないんです」
「へぇ~……それで、どう出すのかしら? さっきの画面と同じように、こう魔力を集めて、サッとする感じかな?」
「慣れればそれでも出来るんですが……」
言いながら、久慈君は眼前に手を伸ばす。すると光の輝きが棒状に集まって、短剣サイズ……生活用品で例えるなら、2Lのペットボトル2本分ぐらい? の長さのステッキを象って、形として顕現される。それを見てちょっとワクワクし始めてる、24歳私。いや……ね? これでも、ゲームとかしちゃう人だし、やっぱりね? この段階に来るとなんかねっ!?
「最初はコンソール画面をタッチして出した方がやりやすいと思いますよ」
「えっ? そんな項目があるの?」
そう言われて見てみると、ウィンドウ上に確かに魔法道具って項目があった。私はゲームはどれもエンジョイ勢なのでこういう事が多い。この機能、邪魔だな~って思いつつエンディングを迎えて、ふと友達と会話している時にその愚痴を零すと、「環境画面で外せるから、それ」って言われるタイプだ。因みにごー君は私とは逆に、先に環境画面を確認するタイプ。
余談は置いておいて言われた通りに確認すると、確かに魔法道具って項目があった。項目の移動もスマホやタブレットを操作する感覚に似ていて、久慈君の言った通り実に容易である。期待に胸を膨らませつつボタンを押した。
どんなのが出るのだろう? やっぱり先端にハート型のアクセサリーとか着いた感じの……なんて想像している間に、現実として光の輝きが形を成していって、ボトッと私の目の前に落ちた。優美な曲線を描いた本体からホース状の管が伸びている。管の先には筒が取り付けられており、更にその先端にはT字の口……まぁ必死に色々と説明を連ねてみたけど、この魔法道具を例えるなら1言で足りるのだが。
「掃除機じゃんっ。これっ!」
「ぶっはっ!w 紫水さん、魔法少女にどんなイメージ持ってんだよっ。ハハハッ」
「しかも、ダイソ〇って書いてあるっ」
「吸引力の変わらないただ1つの掃除機を生み出す程度の魔力ww」
「そ……その、元気出してください。ほらっ、この花柄のワッペンとか、少女っぽくて可愛いですし」
「慰めないでっ、久慈君。慰めてないで、なんとかする方法を教えてっ!?」
「いいじゃん、紫水さん。掃除機が武器のキャラって大体強キャラだよ」
「思いつかない程母集団が少ない統計を持ち出すの、止めてくれないっ!?」
「そもそもなんで掃除機なんだよ、いやマジで。なんか思い当たる事あるの?」
「潜在意識がそうさせてるのかな? ……魔力は科学的に証明できない力だから、曖昧な部分が多くて」
「掃除機と魔法少女? ちょっと待ってくれる? うーん……ここまで出かかってるんだけど、なんかの再放送で見たような……」
なんか掃除機に乗った魔法少女がいたような気がするのだが、余り言及して思い出したら危険な事になりそうなので、ここまでにしておこう。そもそも、これ決定稿じゃないからっ。すぐ、この掃除機はナイナイするんだからっ。
「とにかく、それ仕舞ってください先生。それでもう1度挑戦してみましょう。実はボクも最初は、出す度にステッキの細かい形状がコロコロ変わってたんですよ。大切なのはイメージを具現化するって事なんで、イメージが纏まれば安定して同じ魔法道具が出せるようになります」
「わ、分かったわ。先生、やってみるね」
魔法道具を仕舞うのは割と簡単に出来た。大切なのはイメージ、イメージ……そう心で念じながらコンソール画面の魔法道具の項目を押さえる。再び光が降り注いでくる、それが集まって、形になって……
「洗濯機じゃん、これっ!」
「ドラム式洗濯乾燥機とは、たまげたなぁ~w」「ま、魔法少女じゃなくて、掃除機の方にイメージを引っ張られてますね、これ」
「しかも、パナソニッ〇って書いてあるっ」
「なんでもないふだんが宝物になってしまう程度の魔力ww」
「いいわっ。こうなったら出るまで回してやるんだからっ」
「出す度に魔力を消費してるんで、気を付けてくださいね?」「魔力を払えば無料で回せるんだから、本当に良心設計だよな?」
そこから私は廃課金者特有の死んだ魚のような目をしながら魔法道具の項目を押しまくっていく。洗濯機から空気乾燥器からエアコンから扇風機から団扇になった辺りで妥協しかけるのだが、もう1度勇気の倍プッシュで回したら物干し竿(刀じゃない方)が出て来て思いっきり後悔して、適当に押したら私の身長と同サイズの白い杖が出て来た。先端にはなんかそれっぽい星型の装飾がされてあるので、割りと魔法少女らしい。まぁこれでいいか……と、人心地着くのだった。