私もそれが言いたかった
「ぐずっ……ずすぅっ! ひっくっ……ぅうっ…………もう、やだぁ……むりぃ。本当だめだってぇ……ひぃんっ」
「悪かったよ、紫水さん。俺が悪かったから……許してよ」
「やだぁ~……絶対、許さないっ……許さないぃ。むりぃ~……じゅるっ、あぁ~、うぇぇん~」
それからタブレットを壊されてごー君が悲鳴を上げたり、久慈君が立ち上がってオロオロとしたり、何事かと1階から春さんが駆け上がって来たりと色々あって……今、私はごー君の膝に顔を埋めて泣き続けている。生徒の前でみっともないとか、年下相手に甘えて恥ずかしいとか、もうそんなのモノは些細な事で……無理なものは無理なんだから仕方がない。
「あの……大丈夫ですか」
「あぁ、悪いな、久慈。紫水さん、実はホラーとかグロがマジで苦手でこうなっちゃうんだよ。暫くしてたら落ち着くから、もう少し待ってやってくれないか?」
「国中君、それを分かってさっきのを……」
「いや、まぁ……割りと行けるからなと。現実を見せる意味でも」
「酷い。か、可哀想だよ……」そうだよ(便乗)後、もっと頭を撫でろっ。
ごー君は余り反省して無さそうな、軽い笑いで誤魔化していた。私はそれから10数分後に正気を取り戻す。目元は腫れ上がってるし、鼻は真っ赤だし、声もまだ鼻声だけども……私は大人で、先生なんだから、生徒の前ではしっかりしないと。
「久慈君。先生、ああいう危険な事はしない方がいいと思うの」
「今更、取り澄ましても意味ないよ? 紫水さん」
「全部、ごー君の所為なんだからね? 後で覚えてなさいよ?」
「……元気出して? ねっ?」
「それっ……真似をするなぁっ!」
「で、でも先生。ボクが魔法生物を放って置く事で、先生のような犠牲者が増えたらボクは……」
「うっ……それを言われると弱いなぁ~」
なんかごー君は外面だけはなんて酷い事言うけれども、私だって人の助けになる事が出来るのならしたい。それが赤の他人であれ、少しでも犠牲を救えるのなら……やってあげたいじゃないか。それって間違いなく良い事でしょう?
「他にもあるだろう? 久慈。魔法少女が戦う理由。教えてやれよ」
「なんでごー君がそんな事情通みたいに……」
「最初に言いましたよね? 先生。命を留める為には、魔力の補給が必要なんです。その方法は幾つかあるんですが……」
「まさか、その1つが魔法生物を倒す事なの?」
「はい」
私が露骨に嫌な顔をしていたのだろう。久慈君は罪悪感と憐憫を複雑に混ぜたような表情を浮かべた。確かに面倒くさい事になったなぁ、とは思うが、憐れむ程の状況じゃないと思うんだけど……生き返っただけ幸運だったし、そもそも記憶が曖昧なので死んだ感覚が全くないし。それよりもだ……
「ほ、他の方法っていうのを教えてもらえないかしら?」
「魔法少女同士で、魔力を譲渡するという方法があります。元々魔力がなかった先生が魔法少女になったのも、ボクが魔力を譲渡した結果です」
私は、死んだ私の身体がピカーッてなんか自然発光して魔法少女に突然覚醒したってのを想像してたんだが、どうやらもう少し地味な結果なようだ。あれ、待ってよ? でも、それって……
「でも、それってまさか……久慈君の命を削って私に与えてくれたって事?」
「…………そうなりますね」
「えぇ、やだ……だって、そんなの。本当に命の恩人じゃないっ」
「でも、あの時ボクがもう少し早くあの場所に辿り着いていれば……だから、先生が気にする事なんてないんですよ」
「そんな事ない。そんな事ないんだよ、久慈君。貴方、いつから魔法少女になったの?」
「えっ? えっと……中学の1年になり立てぐらいの時だから、3年前ぐらいかな?」
「3年間、頑張って来たんだよね? 魔法少女として。魔法生物と戦って……それは自分の為にもなるからって理由もあるけど、君はちゃんと瘴気に晒される人の事も考えてあげて、私の事を見捨てる事も出来たのに、自分の魔力を分け与えてまで救ってくれて……君は間違いなく良い事をしてるから。だからもっと自信を持ってもいいんだよ?」
きっと誰にも言えずに1人で頑張ってきたんだろうな……と、私は勝手な想像力を働かせて、思わず久慈君の頭をよしよしと撫でていた。彼は気恥ずかしそうに顔を赤らめて、少し嬉しそうな笑顔を浮かべて、小さく、はいと返事をしてくれた。私はそれを見て、魔法少女より控えめに言って、天使と呼ぶ方が相応しい性格の男の子だなぁ……と、しみじみ思う。そして決意した。
「今度こそ本当に決めたわ。先生も戦う。久慈君に魔力を貰ったままじゃ申し訳ないもの。せめて久慈君に魔力を返して、自分が生きていくだけの魔力を手に入れて……そうしないと、胸を張ってこの先を生きていけないわ」
「あーぁ。まぁ紫水さんがいいならいいけど」
「ボクの魔力の事なんか気にしなくていいのに……でも、先生が一緒ならボク、心強いです」
さて、そうだとすれば色々確認したい事が山ほどある。手始めに何から聞こうか……駄目だ。分からない事が多すぎて、こういう時どんな質問をすればいいのか分からない。
「それで? 紫水さんは現状何年ぐらい生きられるんだ?」
「そう、それっ。それ大事っ。私もそれが言いたかった!」(再び便乗)
「ええっと、それは……コンソール画面みたいなものがあって、そこを開く事によって魔力の残量を確認できるんです。まずはそれを教えますね?」
そう言った久慈君の言葉に従って同じように動く。魔力を掌に集中させて……と言われても、もともと魔力なんて持ってないのだからこれがかなり困難だった。力を入れてみる……駄目。リラックスしたらどうだ? ……駄目。カモンフォース、フォースッ……駄目。Don't think! Feel……が……やはり駄目っ!(ざわ……ざわ……)いい加減にしろーってな感じて適当に顔の前で手を上下に振っていたら、突然ゲームのウィンドゥそのもののようなコンソール画面が開いた。
「出たっ! 出たわっ。あれ? どうやってやったんだろう、私。でも、とりあえず出たからこれはこれでいいのよね?」
「感覚さえ掴めれば、手を使わなくても自然に出来るようになりますから……色々項目があると思いますけど、その1番上の数字、見えますか?」
「ええっと、待ってちょうだい。どれの事かしら……あぁ、もしかしてこの14,996ってのかしら?」
「それです。魔力を渡した直後は15,000だった筈なので、それで間違いないでしょう」
「つまり……もう私は4も使ったって事なのね。そ、それで……これで一体どれだけ生きられるの?」
「体調を整えたり、コンソール画面を開くにも魔力を使うのでちょっと多めに消費されてますね。本当に何も魔力を使わないで1日を過ごしたとすると、自然に失われる魔力量は平均すると10ぐらいですね」
ええっと……つまりそれって今から1,500日後。1年365日だから……
「4年そこそこしか生きられないって事か」
「そ、そう。け、結構差し迫っているのね。いや、4年もあれば私にだって久慈君と同じぐらいの魔力が……ところで、久慈君は一体どれくらいの魔力があるの?」
「ボクの魔力は53万です」
「53万っ!?」
絶望の味を知りました。