全くの無名な最強の魔法少女
「アメジストさん、大丈夫ですの?」
「……なんだ。白川か」
久慈達と解散した後の帰り道。空から舞い降りてきた魔法少女ルビーに対して、俺は気のない返事を返した。そして、背中にオンブする紫水さんを少し持ち直す。なんというか……本当に色々な部分が慎ましやかで助かるなぁ。
「大丈夫だろ、多分。ていうか、素人の俺じゃ詳しいところまでは分かんねぇから、起きるまで待つしかねーよ」
「よろしければ、信頼できる医者を紹介しますが?」
「……具合が悪いようだったら頼むよ」
「珍しく素直ですこと。やはりアメジストさんの事……だからですか?」
「別に……いつも素直だろ? 俺は」
「無自覚はこれだから厄介ですわね」
なんの事だよ? と、すぐに俺は言い返したが、白川からの答えは返ってこなかった。相変わらず、ツンケンしていて、偉そうで……その上、彼女に対しては色々と負い目があるので、余り強く出れないのが腹立たしい。あの夜の屋台でも、彼女の魔力が近づいてくるのに気付いたので、とっとと姿を消したぐらいには、苦手な奴だった。
「でも、今回の事で貴方も気付いたのではありませんか? 魔法少女の活動の重要性が」
「…………」
「男が魔法少女なんて恥ずかしいだとか、こんな年で魔法少女なんて有り得ないだとか……貴方がそんな、お子様みたいな言い訳をしている内に、こうやって大切な人達が危険に晒されるんですよ。1度ならず2度までもそれを繰り返して、まだそれが分からないとでも?」
「はぁ? なんでお前がその事を知ってんだよ」
「屋台でアメジストさんと話した後に、アンバーさんに直接聞きました。私、気になった事をはそのままで出来ない体質ですの。いずれあの屋台の謎も……ってその件は置いておいて、貴方の話でしたわね」
「ストーカーかよ。それに久慈の奴、余計な事を……」
「男性だとしてもアンバーさんは活躍なさってます。アメジストさんだって、まだまだ未熟で足りない所は多いですが、大人の女性として魔法少女の役割に向き合っています。貴方だけですわよ? そうやって、役割から逃げているのは」
「本当に口煩い奴だなぁ……俺は絶対に嫌なんだよっ。ネットに晒されて好き勝手言われるのも、アイドルの真似事をするのも、ファンに媚びうるのも、全部全部耐えれる気がしねぇのっ。お前とは違うんだよっ!」
「本当にお子様ですわねっ! 伺いましたわよ? アメジストさんが最初に亡くなった時は、それこそ子供のように泣いたんですって? お子様ですら、それだけ泣けば反省するでしょうに、貴方は子供以下ですわっ」
「あの野郎……そんな事までペラペラと。俺だって魔法生物の危うさぐらい理解してるっつうの。でもなぁ、人には向き不向きがあるんだよ。俺は裏方向きで、そっち方面でお前や久慈や紫水さんに……つか、魔法少女全体に対して貢献してんだろうがっ。こちとら、”あのサイト”を作る為に進路まで変えたんだぞ? いい加減十分だろ。なんでもかんでも押し付けられて、都合よくこき使われるのが、お前の言う大人になれって事かよ? ふざけんなっ……それなら俺は、いっそ子供のまま、高校1年のあの日に死んだままで良かったんだっ」
「…………そんなに迷惑、でしたか? わ、私は貴方が事故で亡くなって、とても悲しくて……でも、魔法少女の器を宿しているのを見つけて、本当に、心の底から嬉しかったですわ。もう1度やり直せるって。魔法少女として一緒に戦う事が出来るなんて……とても、とても心強かったですわっ。私のこの想いは……貴方と力を合わせて助け合い、一緒に戦って生きたいと想うのは……そんなに迷惑ですか?」
紫水さんがこんな状態になって、俺も色々ストレスが溜まっていたようだ。ここまで激しく彼女と口論したのは初めだったので、白川は予想外の反撃を食らってシュンと肩を落としてしまっていた。クソ……卑怯だろ、これ。言いたい事言い出したのは、白川が先だってのに俺が悪いみたいじゃないか。これだから女は……
「悪かったよ。魔法少女としてでも、生き返して貰ったの事には、まぁ感謝してる……魔法少女ちゃんねるがあれだけ大手になって、会社として維持出来るようになったもの、半分はお前のお陰だしな。久慈も含めて3人で色々やって……死んでたら、こうして紫水さんも助けられなかったしな」
「当然ですわっ。私の魔力と……く……く、唇まで奪っておいてっ。感謝するのは当然の事ですわっ」
「えぇ~……真面目な話をしてんのに、今それを言う必要ある?」
「……んぅ……あぅっ」
一気に脱力してしまった俺の背中で、紫水さんがもぞもぞと動きながら声を上げる。そろそろ起きるのだろうか?
「紫水さんが、そろそろ起きるかもしんねーから、もうどっか行っててくれよ」
「どうして、私が遠慮する必要がありますの? それにまだ話はっ……」
「お前がいると色々今の状況説明するのが面倒だろうがっ。話はまた聞くよ。それに……まぁ……その、気が向いたら少しぐらいは手を貸す」
「……本当ですのっ!? 二言はないですわよねっ?」
「本当だよ、えぇ~い、腕を引っ張るなっ、揺らすなっ。紫水さんが起きるだろうが。それに、気が向いたらっての聞いてるか? 後、紫水さんだけには、俺が魔法少女だって事を絶対バラさないのが条件だからな?」
「イチイチ細かい男性ですこと。まぁいいですわ。ではまた近く、お会いしましょう。ごきげんよう」
俺はそれを無言で見送る。立場上、彼女は社長で俺はただのイチ社員。余り機嫌を損なうような事はするべきではないのだが、性格の相性が相当悪いのか、小さな喧嘩が絶えない関係だった。では、彼女がなんの社長で俺がなんの社員か……魔法少女ちゃんねるの運営、維持、そしてさらなる魔法少女達の宣伝を目的とした、会社の事であった。
俺が久慈と出会ったのは中学1年生の頃。紆余曲折あったものの彼は、アッサリと俺の前で自分が魔法少女だと正体を明かした。それを知った俺は面白半分に、久慈を応援する事になるのだが……知名度がそのまま魔力に反映されるのを知って、若者らしくインターネットの存在に気付いて動画投稿を始める。
まぁこれが、あまり伸びない。素材はいいのだが、なにせ魔法少女自体の知名度がまだまだ低かったので検索の対象にならないし、例え目に留まっても、特撮ややらせに見られる事が多かったのだ。じゃあどうしようと俺は考えた結果、もう魔法少女専門のまとめブログや投稿サイトを作ってしまえと、そういう勉強を始めたのだ。
もちろん、久慈や庄川先輩を助ける為という意味合いもあったが、どうすれば多くの人に目に留まるか、どうすれば興味を持ってもらえるか、色々試行錯誤するのが楽しくて、夢中になって俺はサイト作りにいそしんだ。高校もそういう事を学びたいが為に、情報科のある学校を選んだぐらいだ。
でも、個人ではどうしても限界が来る。サーバー10数台の維持費で月々数百万とか高校生に払えるかよってな訳で、泣き付いた先が同じ高校の芸能科で知り合った白川……というか、その父親であった。幾つもの子会社を従える大企業の会長である彼は、小さな頃から娘が魔法少女として活躍する事に対して肯定的で、それが彼女の為になるのならと、すぐに会社を立ち上げて月々億単位のサーバーを用意するという親バカっぷりであった。
まぁそれでも、そんな両親の期待に応えて、広告塔の役割を見事にこなし、全国ネットでのゲストで本名を明かし、遂には会社としての利益まで上げて、他の魔法少女達が集うイベントまで回し、魔法少女全体の為に八面六臂の活躍を見せた、白川深紅こそが最大の功労者として相応しいだろう。
そんな体制になって……そろそろ俺の役目は終わりだなって時に、俺は白川と魔法生物との戦いに巻き込まれて、1度死んでしまう。彼女はそれを自分の責任だと気にしている節があるが、俺からすれば俺自身がトチッた自己責任でしかない。
そうして魔法少女として息を吹き返した俺は、何故か最初っから白川さえも足元にすら及ばない程の、圧倒的な魔力を有していた。魔法少女ちゃんねるの運営、維持は白川家のモノだが、基礎を作ったのは俺なので、魔法少女ちゃんねるの知名度がそのまま、俺の魔力になってしまうのだ。
付け加えると俺が魔法少女に変身したのは過去数回、数えるほど。当然、知り合い以外には誰もその姿を見せていない。男があんな恥ずかしい格好を見られる訳にはいかないだろ? 普通。(久慈はまぁ素で似合ってるからなぁ。本人ノリノリだし)そうやってここに、全くの無名な最強の魔法少女が誕生してしまったのである。
次回、エピローグは今夜の投稿になります。




