始めての魔法少女らしい展開
「ちょっと私達じゃ手に負えないわね」
「だから、言ったぞっ」「はやく、逃げるぞっ」
「こういう半端に賢い子達が、限界突破どころか全力も出さずに大きくなっていくのねぇ……」
まだまだ若いのにお年寄りみたいな台詞を零してしまった。あれから、私達は校舎内を身を隠しながら移動して合流。これからの作戦を考えている最中だ。
「アンバー(久慈君)を電話で呼んでもいいんだけど、もしアイツがアンバーより強かったら、危険な目に合わせる事になるし……そうだっ。君達の親分さん……ガーネットさんだっけ? 彼女ならアイツだってやっつけられるんじゃないの?」
「ガーネット様なら楽勝だぞっ」「ガーネット様ならイチコロだぞっ」
「大した信頼ね。でも、それなら何とかなるかも。今から呼び出せる? スマホとかでさ」
「スマホは持ってないぞ」「直接呼びに行くしかないぞ」
「えぇ~……今時の小学生なんだから、それぐらい持ってなさいよ。まぁ言っても仕方ないか。つまりそういう事は、もう1回外へ出ないと駄目って事よねぇ~」
そうして窓の外の様子を、顔半分で覗き込みながら伺うと、例の骨っ子恐竜が宙を駆けるように巡回を続けていた。私達を諦める気はサラサラないらしい。
「あれを振り切って助けを呼びに行ける?」
「「……」」
2人はお互いの顔を見詰めて、無言のままにしばらくの意見交換をした後、私に向かって視線を上げてきた。その表情は、本当にそれをやるしかないの? といった感じの、今にも泣きそうな不安いっぱいの表情だった。
流石にこんな顔をした子供達を自分だけ安全な場所に隠れながら送り出す訳にはいかないか。久慈君に助けを求める案は最後にしておきたいし、こうしている間にも魔法生物は瘴気になっちゃうかもだし……まぁ、これしかないのかな?
「よしっ、私がもう1度オトリになるから、2人はその隙に違う場所からこっそり抜け出して、ガーネットさんを呼びに言ってくれる?」
気合を入れる為に両頬を両手で何度か叩く。叩きすぎて少し両頬が赤くなった私の顔を、正気を疑うような眼差しで、ベリルとトパーズが見上げてきた。
「だ、大丈夫っ?」「し、死んじゃうぞ?」
「死なないわよっ。物騒な事言わないでっ。まぁ、君たち次第みたいな所はあるんだけど……ここに戻ってくるまでに何分ぐらいかかりそう?」
「30分……」「が、頑張れば20分ぐらいにはなるぞっ」
「じゃあ、思いっきり頑張って。もし間に合わなかったら、またゲンコツだからね?」
まるで死に逝く者を見送るような不安に満ちた表情で見上げる2人。本当に失礼な子達ね、と思いつつも、子供らしい表情を取り戻して欲しくて、2人の頭をグシャグシャッと強く乱暴に撫でつける。そうしてもう1度、作戦の確認を始めた。
作戦の確認を終えた私は、もう1度、魔法道具に腰掛けながら、屋上よりも高く上空まで舞い上がる。どうせオトリの為に、しばらくは空中戦をする事になるんだ。それならば、魔法生物よりも上の位置を取りたかった。魔法生物はすぐに私の存在に気付いて見上げて来る。だが、まだだ。もっと私に注意を割いてもらわないと……
「こっちよっ!」
夜だから飛んでるだけで怖いし、魔法生物の見た目も怖いし、その上に死ぬかもしれないのだからもっと怖いけども、不思議と私は気合が入っていた。開き直ったっていうのか、結構な期間、魔法少女をやっていて、始めての魔法少女らしい展開にちょっとアツくなっているのかもしれない。もうっ、何も怖くないっ!
魔法生物は私に気付きながらも続けて周囲を警戒している。散々背後から攻撃されたのが効いたのだろう。学習能力まであるなんて、驚きだ。
「どうした、魔法生物っ。怖いのぉ? 私を殺したいんでしょう? 銃なんて置いてかかって来いっ!」
「カタタタタァァァ~ッ!!」
とりあえずパッと思いついた挑発がこれな辺り私も色々毒されていると思うが……野郎っ、ぶっ殺してやるぅっ!! ぐらいの勢いでベネッ〇じゃなかった、魔法生物が突っ込んで来てくれたので、まぁ良しとする。
その隙に校舎1階の別口からベリルとトパーズが脱出したのを見送りながら、私は急反転して魔法生物の突進を回避。右後ろ脚の付け根辺りを狙って、魔力をミサイルのようにして何発も打ち込んだ。魔法生物が宙に浮くのではなく、宙を駆けるように四肢を動かしているのをみて、足の1つでも奪えればと思っての攻撃だったが、奴は微動だにしなかった。
「まぁ、これぐらいで倒せるなんて思っちゃいないけどねっ!」
魔法生物の突進を回避し続ける為に全力で飛んでいるから、横殴りのような風を全身に浴びながらも、なんとか魔法道具上で姿勢制御を繰り返して、私は同じ場所にチクチクと攻撃を繰り返した。だが、何度も入れ代わり立ち代わりと回避している内に、私が追い回されている時間の方が多くなる。
「ふぐぐぅ~っ!!」
高速で飛び交い続けているので、口を開く余裕どころか呼吸するのも困難だ。今の私の顔はへしゃげてるし、髪もボサボサで見せられたモノではないだろう。中庭の並木道に逃げ込んでスラロームで惑わせば、木々をへし折りながら直接突進してくるし、校舎に追突するように見せかけて、垂直に急浮上して引き離そうとしても、校舎を蹴りつけて、風圧で窓が揺れる程の勢いで駆け上がってくる。
そして私は回避の仕方に失敗して、校舎からグランドの方角へ誘い込まれてしまった。障害物もなにもないこの場所では、純粋に早い魔法生物の方が有利だ。それでもなんとか、背後にピッタリ付きまとわれながら、フレアの要領魔法生物に魔法のミサイルをばら撒いて、目眩ましをして誤魔化し続ける。
(キツイキツイキツイッ)
だが、そろそろ持久戦にも限界が見え始める。息継ぎもそうだが、身体が鉛のように重い。これは、魔力が枯渇して始めているサインなのだが、こんなにも魔力を連続で大量に行使する事がなかったので私は知らなかったのだ。そして、更に予想外の事態が重なる。
「紫水さんっ!」
「っ!?」
グランドの校門付近から掛けられる、突然の聞き覚えのある声。確認せずとも分かるが、思わず視線がそちらへと向けられる。間違いない、ごー君だ。どうしてここへ? あぁ、そうか私が遅いから迎えに来てくれて……って今はそれどころじゃなかった。私は直前まで迫ってきた魔法生物を、咄嗟に魔力をぶつけて突進先を反らすのだが、反らした突進先が最悪だった。魔法生物は真っすぐごー君へと向かっていったのだ。
「ごー君っ!!」
その時の私はごー君を守らなければと、それだけしか考えていなかった。身体の負担の事なんか考えずに急反転させて、魔力の残量なんか考えずに全ての魔力を全身に纏って、後の事も考えずに魔法生物の横顔に体当たりをした。
魔法生物の突進はごー君から反れて、私と一緒にもんどりうつようにして地面に叩き付けられて、私の意識はそこで失われた。




