どうだ? やったか!?
「あれかぁ……」
私達3人は並んで空を飛びながら、屋上の下から顔を覗かせて目標の魔法生物の姿を確認した。
奴の姿は、簡単に言ってしまえば動く骸骨だった。ただ骸骨と言っても人の形ではなく、恐竜の形をした骸骨だ。恐竜と言っても沢山種類があるじゃないか、と言われれば返す言葉もないんだが、犬のように4足歩行をした……多分、草とかをもしゃってそうな部類のなにかとしか、表現できない。だって私、恐竜詳しくないし。そもそもあれは、恐竜じゃなくて魔法生物なんだし、多少はね?
「ちょっとデカいワンっ」「ちょっと強そうワンっ」
ベリル妹、トパーズ姉の両姉妹が、それぞれの感想をこぼす。声は弾んでいるようにも聞こえるが、頭の上の耳も、お尻から生えている尻尾も垂れ下がっている所を見るに、やはり少し怖いらしい。全長10m前後って所だろうか? 大きさだけで迫力あるもんねぇ。もちろん、私もあの魔法生物の強さは肌で感じている。余り近寄っちゃいけない部類の敵だと分かるのだが、それ以上に私はその見た目が気になっていた。
「まっ……まぁまぁまぁ……かな?」
私は恐竜の骸骨って所で、なんとかこの場に踏みとどまっているって具合だ。見ようによっては、博物館に展示されている標本が動いているようなもんなのだから、そう怖がる必要はないんじゃない?(いや、本当に動いたら怖いんだけども、そこら辺の理論は超越して)と、無理矢理自分を鼓舞する。あれが人骨じゃなかっただけマシ……あれが人骨じゃなかっただけマシ……
「それで……どうするワンっ?」「それで……勝てるワンっ?」
「どうするって言われてもねぇ……とりあえず、この距離でも私達の事に気付いてないみたいだし、背後に回り込んで奇襲してみるのはどうかな?」
「ほうほうほう」「ふむふむふむ」
「それで、3人で別方向から取り囲んで……皆で逃げ隠れしながら、チクチク攻撃しましょう」
「う~んっ、地味な作戦だワンっ」「う~んっ、平凡な作戦だワンっ」
「堅実で手堅いって言いなさいよ。ほらっ、私が最初に後ろから攻撃してオトリになるから……トパーズお姉ちゃんはあっち、ベリルちゃんはこっちね。ほら、行った行った」
その場から散開した私達は、作戦通りに3方向から取り囲むように近づく。校舎の下に隠れているとはいえ、まだ誰も見つかってない辺り、結構相手は鈍いらしい。たしか、共通で反応を示す距離が10mって久慈君が言っていたような……その距離には近づかないように気を付けよう。
恐竜の背後に回り込んだ私は魔法道具を構える。それに応じて、こそこそと隠れて私に合図を送ってくる、2人の姉妹。よし、後は私のタイミングだ。折角の奇襲なのだから、全力で魔力をぶつけてやろうと誓い、思いっきり右手に力を込めて、時間を掛けながら魔力を矢の形に練り上げる。まだ、魔法生物に反応はない。よし……このまま、きづかれない内にっ。私は体全体を使うような全力投球で、右手から矢を放った。
「……あれ?」
私の矢が魔法生物の骨を貫く……普通はここで、どうだ? やったか!?(やってない)みたいな反応をするべきなんだろうけど、そうするまでもなく、骨の一部を貫かれながらも魔法生物はピンピンとしていて、ゆっくり振り返り、その虚空の両眼を私に対して向けてきた。
「カタカタカタタタタッ」
それは鳴き声というよりは、骨と骨がぶつかり合うだけの騒音だった。(まぁ、声帯なんてないから仕方ないんだろうけど、そこだけ現実的にならなくてもねぇ)歯と歯を何度も嚙み合わせ、全身を揺らして、体全てを使ったそれは、私には敵意を持った相手への威嚇に見えた。
「ワオォォンッ!」「アオォォンッ!」
子供のモノとは思えない、本物の獣のような咆哮と共に両姉妹の魔力で編み出された火炎弾が魔法生物の背後からぶつかる。いいぞっ! 火炎弾っ。アンデット相手には最高に効きそうじゃない? ガーネットさんに教えてもらったのかな? 私も習いたいものだ。
だが、私のそんな期待もむなしく、火炎弾は少々大きな爆発を起こして、魔法生物をよろめかせたものの、ぶつかった部分が少し黒く焦げたぐらいで、大した被害になってないようだった。つまり、私達が魔力をたっぷり練り上げた遠距離攻撃では、あの魔法生物にはダメージを与えられないという事である。
「カタカタカタカタッ」
「た、体勢を立て直し……きゃあっ!?」
2人に対して支持を出そうと声を出した私に、魔法生物は真っすぐ突っ込んできた。全体重を使ったぶちかましを、私は魔法道具に腰掛けて宙に舞い上がる事でなんとか回避する。魔法生物の突進は、フェンスを体半分突き破ってようやく止まる。こ、怖~っ。あんなのマトモに受けたら普通に死んじゃう。コメディーにあるまじき破壊力。
「アオォォォンッ!」「ワォォオオンッ!」
身体がフェンスにハマって、動きが鈍っている魔法生物のお尻に、ベリルとトパーズの全力キックが放たれる。助走たっぷりな上に魔力までも全力で込めた2人のキックに、魔法生物はフェンスの外まで飛ばされて、そのまま落下していく。
「やったっ。私がオトリになって後ろから攻撃する。予定通りじゃないっ!」
私が笑顔を浮かべてピースしながら2人に近づいていくと、2人も無邪気な笑顔でピースを返してくれる。
「自分達より強い相手を、頭を使って協力してやっつける。人間の勝利ってところね? 君達も本当に……ってどうしたの?」
「そ、そんなぁ……」「ど、どうすれば……」
私が一緒になって勝利の喜びに浸ろうとしているのに、2人は一瞬朗らかに笑っていたにもかかわらず、青ざめた顔になって私を見上げている……と、思ったのだが、私の背後を見上げているようだ。一体何を? と、振り向いたところで、私は宙に足を着くようにして浮かぶ魔法生物と再び目が合った。
「と、とにかく、一旦非難~っ!」
驚きと絶望で動けなくなっていたベリルとトパーズは、私の声に反応して弾けたように飛び立つ。それに少し遅れて私が飛び立ってその直後、私の影へと魔法生物が突っ込んできた。魔法生物の下顎が屋上のコンクリートを抉っていく。その威力たるや数m程の轍を作る程だ。明らかに、最初より怒ってるよねぇ……これ。
「正面から戦っても無理だから、一先ず身を隠しましょ……おうっ!?」
私が言い終わる前に大口を開けて近づいてきた魔法生物が迫る。それを回避して、体勢を立て直す事も出来ずにいた私に、魔法生物は続けざまに前脚を振り下ろそうとするが、小さな火炎弾が魔法生物の横腹(腹に骨があるのかどうかは知らないけれども、そこら付近)に直撃して、それを阻止してくれた。トパーズとベリルの2人だ。
苛立たし気に火炎弾の飛来先を確認する魔法生物だが、既に彼女達は姿を隠している。そうして視線を外した隙を狙って、私も校舎の中へと身を隠した。蜘蛛の子を散らすとはこの事だろう。そうして、息遣いすら聞かれぬように両手で口元を隠しながら、冷たい廊下にへたり込む私。
な、なんとか生き延びたぁ~と、ようやくにして生を実感するのだった。




