最近のこんぴゅーたーって凄すぎない?
私がシャワーと着替えを終えて部屋へと戻って来た時、2人は仲良く談笑していた。同じ中学だったとはいえ、すでに2年間別々の高校に通っている筈の2任。そんなに接点は無さそうだけども、意外にも親密な関係のようだ。
「久慈君。話を進めたいのだけれど……いい?」
「はい、先生」
「これって私の血なのよね?」
テーブルの上に自身が着ていたワイシャツを置く。暗い色のスーツの下で気づきにくかったのだが、こうしてワイシャツだけで見ると、横腹に穴が開いていて(勿論、スーツにも)、全体にベッタリと赤い痕が広がっている。もし、これが本当に私の血なのであれば、私は重症またはそれ以上の状態になっていなくてはおかしいのだが……しかし、シャワー中に全身を確認した限りは、腹部には傷1つなかったし、普段通りのちょっとヤバくなり始めたお腹だった。な……な、夏までには戻るから。(震え声)
「はい、そうです。でも、魔法少女として再生した時に傷も治っている筈なんで……えっと、大丈夫でしたよね?」
「いや、うん。傷は自分で確認したから大丈夫よ。健康そのもの。少し、お腹が減っているくらいかしらね」
これは、こんな時間まで晩御飯を食べていないので仕方がない。て言うか私、こんな時間までご飯も食べずに何をしていたのかしら? 確か……そうして思い出そうとした時、19時ぐらいに学校を出てからの記憶がサッパリ抜け落ちている事に気付いた。思い出そうとすると、酷い頭痛に晒される。
「大丈夫ですか? 先生。どこか痛みますか?」
「えっ、あぁ。大丈夫よ、ありがとう。ただ、どうして死んだのかを思い出そうとすると、頭痛がして上手くいかないの」
「ボクが知っている部分だけなら教える事は出来ますけど……」
「お願い、久慈君。教えてくれる? 私、何をして死んじゃったの?」
「先生は、魔法生物が撒き散らした瘴気によって起きた事故に、巻き込まれたんです」
久慈君の説明を割愛すると、魔法生物というのは何処にでも突然発生する魔物のような存在らしい。彼等は普段、一般人には目にする事が出来ず、魔法少女が接近しないと肉眼でも確認できないそうだ。魔法生物自体は人を襲ったり暴れたりはしないのだが、気まぐれに瘴気と呼ばれる物を散布するらしく、これを放置しているとその付近で事故や犯罪など、悪い事が起きやすくなるらしい。
「魔法生物が発生したら、自動的に魔法少女であるボク達には察知出来るようになっているんだけど……今回は皆都合がつかなったみたいで、ボクが着いた時にはもう瘴気に満ちていて……それでっ」
「それで、私は瘴気が起こした事故に巻き込まれて、死んじゃったって事か……どうしよう。なんか色々頭が追い付かないんだけど」
「ごめんなさい。ボクがもう少し早くに駆けつけていれば……」
そこで私は気付いた。久慈君がとても申し訳なさそうな、泣きだしてしまいそうな表情を浮かべている事に。あぁ、彼は責任を感じているのだ。だから、公園で1人私の事を見てくれて、こんな時間まで付き合ってくれて……それにしても、泣きそうな顔可愛いな。天使か。
「そ、そんなに気にする必要はないわ。久慈君はその魔法生物を倒してくれたんでしょう?」
「はい。でも、被害が出た後じゃやっぱり遅くて……」
「大丈夫、大丈夫よっ。久慈君は仇を取ってくれた訳だし、私だってこの通り……なんか、元気? みたいだし。だから、そんなに気にしないで? ねっ?」
「でもそれは、先生に偶然魔法少女としての器があったからで……そうじゃなかったら、ボクが遅れた所為で、先生はっ……」
遂には肩を震わせながら、俯いてしまった。久慈君は……優しい子なのだろう。瘴気は悪い事が起きやすくなるだけで、本当に起こるかどうかは不確かなのだそうだ。そんな曖昧な物を払う為に、男の子なのに魔法少女になって、赤の他人の為に危険を犯して魔法生物と戦って……やっぱり天使か。こんないい子、守ってやらねばなるまい。
「ちょ、ちょっと、ごー君。貴方も黙ってないでなんか言ってあげてよ。ええっと、そっかー、もしかしてごー君、信じられなくて話に着いて来れてないんでしょっ?」
「いや、ここまでは結構出回ってる話だし、そんな驚く事でもないんじゃね?」
「うんうん。魔法生物って言っても私は実際見たことないし、あんまりピンと……えっ? なんですって?」
「そんな突然、難聴系になられてもな。実際に見た事ないんだったら、今見てみる? ネットにいくらでも転がってるぞ」
「えぇ~……最近のこんぴゅーたーって凄すぎない?」
「なんで急に機械弱い系女子演じてるんだよ」
そう言ってごー君が自分のタブレットを慣れた様子で操作しながら開いたページは、”魔法少女ちゃんねる”という動画投稿サイトだった。サイト自体はごく普通の……どこにでもあるような動画投稿サイトだ。タグがあって、検索があって、ジャンル別にランキングがあって、動画中に文字が流れるような……1つ他の動画投稿サイトと違うのは、このサイトは魔法少女に関連した動画に限定されている所である。あぁ、静画も投稿出来るようになってるみたいね。
その動画の1つをパッと開く。画面の中では赤毛の高校生ぐらいの女の子が魔法生物と戦っている所だった。彼女は三角帽子を被っているし、箒に横座りで腰掛けてるしで、魔法少女というよりは魔女のような姿だけども、時折カメラ目線に向けられる笑顔はアイドル張りの可愛さで、久慈君しかり魔法少女の層の厚さに別の意味で私を戦慄させた。
そんなお陰で魔法少女の方にすっかり意識を持って行かれていたので、魔法生物の姿を見た時の驚きは私の中では微妙なモノになっていた。魔法少女に対して余りにも見慣れた姿だったからだ。(いや、見慣れてはいないのだが)全身を濃い体毛に覆われて、2本足で立ち、両手を振り回している姿は……
「これ、熊よね……」「……熊だな」
「しかも着ぐるみっぽい……」「……人体着用ぬいぐるみとも言うな」
「て言うか、熊本辺りに生息してそうな……」「……それ以上はやめとこーぜ」
魔法生物の上空付近を翻弄するように何度も飛び交いながら、魔法生物の届かない上空からキラキラ光り輝いた何かで倒す姿は、真剣な戦闘というよりは、遊園地で繰り広げられるヒーローショーのようだった。私には少なくとも命が掛かってそうには見えなくて、ちょっと脱力してしまった。
「わっ、わぁ~。よ~しっ、これなら先生も手伝えそうだなぁ~。久慈君と一緒に魔法少女して、平和を守っちゃおうかなぁ~……なんてっ」
「ほ、本当ですか? でも、先生にこれ以上危険な事をさせるのは……」
「大丈夫。余裕よ余裕。さっきも話が出たけれど、先生だって小さい頃は魔法少女のアニメを見て、憧れたりもしてたのよ? まさかこんな年になってやらされるとは夢にも思わなかったし?(小声)正直、久慈君と同じような格好はキツイけど(ゴニョゴニョ)、だから……その、元気出して? ね?」
「ありがとう……ございますっ」
なんだか、今度は感動して涙しているらしい。ま、まぁとんでもない約束をしてしまったような気はするが、こんなに可愛くて優しい生徒を目の前にして、放っておくのは教師として気が引けるわよね。だから、うん……後悔はない。
「はい。じゃあ外面だけは完璧な紫水さんに、現実を見て頂きましょう。どうぞ」
そう言いながらごー君が開いた動画では、いきなり魔法生物が画面一杯に広がった。エイリアンのような質感の肌に引き裂かれた口に無機質な瞳、どこが胴かどこが首かも分からない軟体動物を思わせる体から無数の触手を生やして、ギトギトした溶解液を撒き散らして…………
「いやぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ! キモイキモイキモイッ!! 無理無理、絶対無理っ! ごー君消して、消してっ! ひぃっぃいぃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そんな触手が魔法少女を捉えて、その衣装を徐々に溶かしていくので、私は咄嗟に隣にいるごー君にしがみついてそれを見せないようにして、あばばば&ばおじょ%ヴぁじんgvsjlj
「見ちゃだめぇぇ!! 消してっ!! 早く、早くぅ!! ムリ、無理だからぁ!! ないっ! 絶対ないっ!! いやぁやぁああっぁぁぁぁあっ!!!!」
「いやっ、見えないからっ、消せないしっ! つか、落ち着てっ。紫水さん、落ち着こう? なぁっ!?」
タブレットを蹴っ飛ばして事なきを得ました。
明日からは、終わりまで毎日1部更新です。