ねぇ? 美味しかったでしょ?
「核を放置していたら、魔法生物を呼び寄せちゃうの?」
「そうですわ。そんな事も知らずに魔法少女をやっているだなんて……アメジストさん。貴女、真剣さが足らないのではなくて?」
ルビーちゃんの説明を聞く所によると、魔法生物は魔法少女の魔力を付け狙う存在。つまり、魔力の結晶である魔法生物の核にも、当然引き寄せられるのだそうだ。真剣さが足らなと言われましても……この年齢に達すると色々と柵がありまして。
とにかく、これを聞いた私は、少し心苦しかったが魔法生物が残した核を取り込むことした。だがその前に、親父さんに1言だけ断りを入れておく事にする。だって、魔法生物は親父さんにお礼をしたかったんだと思うし、結局消える前まで悪い事をしなかった訳だし。
「……そいつは俺にとっては無用の長物。それに、アイツだって一緒に語らったお前さんの力になるなら、悔いはねぇだろうよ」
「あったけぇーっす、親父さん」
親父さんのお許しを受けた私は、大切に空き皿の上に残された核を手に取って咀嚼した。その核は私にとって、今までで1番味わい深かったような気がする。その様子を横から冷めた眼差しで見詰めていたルビーちゃんは、話は終わりだとばかりに席を立とうとするので、私は彼女の腕に縋りついてそれを止める。
「ちょっと、何をなさいますの? 私は多忙なんですから離してくださいましっ」
「えぇ~……もうすぐ、私のお迎えも来る筈だからさぁ~。それまで一緒に飲もうよ~っ」
「なんで私が貴女に付き合わなければなりませんのっ?」
「魔法少女の先輩として、他にも教えて欲しい事があるし、どうやってそんなに人気になったのとか聞いてみたいし~……ねっ? ほら、せめてその卵酒を飲む間ぐらいいいじゃん。お姉さんが奢るからさっ。それに、ここの親父さんの串焼き美味しいんだよ? 魔法生物も成仏しちゃうくらいなんだから」
「…………はぁ~。確かに、店主の御好意を無下にするのも申し訳ないですし、魔法生物が成仏なんて話は私も聞いた事ありまえんから、少しは気になりますわね。では、この一杯だけですわよ?」
「えっへっへ。じゃあ決まりだね~。親父さん、ルビーちゃんにモモ焼いてあげてよ。私には、う~ん。砂ズリとまた、つくねが欲しいかなぁ~」
「本当に話に聞いていた通り、強引な方なのですね……」
「えぇ? なにか言った?」
「なんでもありませんわ。それより、貴女の話を聞かせてくださいませんか?」
私はごー君を待つ間の飲み友達を得る事が出来て再び上機嫌になる。因みに、私がこんなにも馴れ馴れしくなっているのはお酒が入っているからであって、普段通りならルビーちゃんを引き留めたりはしないだろう。名前も、しっかりと”さん”と敬称を付ける所だ。現状は悪い方向には転がってないので、今はお酒の力とルビーちゃんの優しさに感謝しておこう。
「改めて聞いても、俄かに信じ難いですわね」
「そう言われても、私はあった事をそのまま話しているだけなんだけどなぁ?」
「魔法生物が成仏という話もそうですが、私が言いたいのは魔法生物と一緒に肩を並べて食事をするという、貴女の神経の方ですわ。アンバーさんに指導してもらっているのでしょう?」
「そんな言い方しなくてもいいじゃない。でも、久慈……じゃなくてっ、アンバー君の事を知っているんだねぇ。確かに色々教わってるけども、ルビーちゃんはどういう関係なの?」
「どういう関係もなにも、ともに戦った事もある仲間ですわ。私達魔法少女は皆、力を合わせて魔法生物達からこの世界を守る為に、特別な力を与えられた同志なのですから……もっと互いに助け合わねばなりません。アンバーさんはそれを理解してくださる、貴重な人材です」
「へぇ~。評価してるって事でいいのよね? なんか嬉しいなぁ」
彼女には久慈君がいい子で、魔法生物退治に対して真摯に向き合っている事が伝わっているようだ。それに彼女が、イベントとか写真集とか歌とかそういう活動を多くしているのは、自身の魔力を上げる為だけではなく、彼女自身が広告塔になる事で魔法少女全体の為になると考えての事だというのも伝わってきて、私は2人の力になってあげたいなぁ~と、好意的な感想を抱いた。
「私は貴女にもそうなって欲しいからこうしてお話したのですが。そもそも、貴女のようにこう……少し……がさつ? 杜撰? だらしない? 残念……少し残念な方が、アンバーさんと一緒にいるんですの?」
「言葉を選んでくれたのは伝わったけど、どんどん内容が酷くなってるからねっ?」
いい子にこういう事言われると、自分の価値が揺らいで色々辛くなるわね。これでも、先生としては結構頑張ってるんだけどなぁ~。まぁ、それをこの場で長々と語っても仕方ないので、私と久慈君の馴れ初め? を簡単に説明する。(馴れ初めっていうと、誤解させるような言い方だけれども)
「魔力の譲渡ですか。それで……あらっ? これはどうやって食べますの?」
「そう。だから、アンバー君は私の命の恩人になるの。だから彼には……えっと、そのまま串から食べるんだよ。こう……ね?」
「事情は分かりましたが……えぇ? 手で掴んでそのままだなんて、下品ではありませんの? それに今、彼っておっしゃいましたか?」
「あぁ~、彼女っ! 彼女だよっ? そのアハハッ、少しお酒飲みすぎちゃったかなぁ~……ほら、それより串を食べちゃいなよ。大丈夫、大丈夫っ。アツアツの串をそうやって食べるのが1番美味しいんだからさっ」
私は失言を誤魔化す為に、無理矢理に話題を串焼きの方に戻す。ルビーちゃんは、彼女の言葉通り、下品さや不衛生さが気になって仕方がない様子だったが、やがて観念したように恐る恐る串焼きのモモ肉に噛り付いた。やがて、彼女の表情は一変。驚きに目を見開いて、自らが手にする串焼きを凝視した。
「ねぇ? 美味しかったでしょ? 残って食べて良かったでしょ?」
「確かに美味しいですが……それは店主の腕前であって、貴女の功績ではないでしょう?」
図星を指摘されたのは気恥ずかしいのか、ルビーちゃんは指摘されて口元を片手で抑えながら、顔を隠すように私から視線を反らす。まぁその後すぐに、こっそりともう1口追加してたりするので、その小さな抵抗は無意味だったりするのだが。ほれほれ、素直になりなよ? もっと食べていいんだぞ? お姉さんの奢りだぞ~?
「いいのよ、いいのよっ。私が引き止めなかったら、ルビーちゃんはこの味を一生知る事はなかったんだし? ほら、そう考えれば半分は私の功績みたいなものじゃない?」
「なんとも都合のいい。アンバーさんもいくら長い付き合いとはいえ、魔法少女になってまで貴女に振り回されるのは大変でしょうね。心中お察ししますわ」
「な、なによ~。そんな言い方しなくてもいいじゃないよ~。確かに、魔法少女ではよく足を引っ張ったりしてるけど、私生活では全然迷惑かけてないんだからねっ? そもそも、知り合ったのも魔法少女になってからだし……」
「そんな訳ないでしょう?」
「そこまで信用ないのっ!? 私の信用ってば、いつの間にか地の底まで落ちてたりする? 友達にもよく言われるんだけど、やっぱり話せば話すほど信用がなくなるタイプなのかな? 私……」
「いえ、私生活の方を疑ったのではなくてですね……私が言いたいのは、知り合ったのが魔法少女になってから、という点ですわ」
「……それこそ、本当の事だもん。まぁ、アンバー君は私の事を少しは知っていたみたいだけども」
「あり得ませんわ。なぜなら魔力の譲渡は、長く付き合いのある、互いを信頼しあった間柄でないと出来ませんもの」
「んっ? ん~っ?」
なにその設定、初耳なんですけど。




