はぁ~……羨ましいなぁ~
「えっ、これを作ったの久慈君なの?」
「はい」
「ちょ、ちょっと見せてくれる? 庄川さん」
石英館でのとある昼休憩中。私と久慈君と庄川さんは3人でベンチに腰掛けながら食事をしていた。別段約束をしてここに集まった訳ではなく、私がいい天気だからちょっと気分転換に外で食べようなぁと足を延ばした折に、偶然彼等と出会って流れで食事をとる事になっただけだ。
「……っ」
庄川さんは相変わらずなにを言っているのかは分からないが、髪を束ねていたシュシュを手渡してくれた。白いフリルとビーズで手が込んだ装飾された市販品と言われても疑いようのない出来だ。て言うか、これぐらいいい出来だと、1,000円ぐらいって言われてもなんの疑いもなく買っちゃうかも。
「へぇ~……いいなぁ~……すご~い……」
人間、本当に凄いモノを目の前にすると、語彙なんかに気を回す余裕なんてなくなるわよね。舐めまわすように観察したり、自分の手首に着けたりしながら、頭の悪い小学生並みの感想を零す私。
「……っ」
「あの、先生。そろそろ返して欲しいって言ってるんで」
「あぁ、ごめんなさい」
久慈君に話し掛けられてようやく私は、不安そうに手をこまねいている庄川さんの事に気付いた。余程落ち着かなかったのか、私がシュシュを手渡した途端、彼女はそれを使って髪を1つに束ねる。瓶底眼鏡に化粧っ気1つない地味な彼女だが、そのシュシュだけは女の子らしいワンポイントとして機能しており、すごく目を惹く力があった。
「ええっと、なんの話だったっけ。あ、そうそう。これをアンバーの名前でネット販売してるの?」
「はい。名前もそのままアンバーファクトリーって名前で。と言っても、手作りで勉強の合間に1人で作ってるんで、週に1つ。よくて2つぐらいしか作れないんですけどね」
「他にはどんな物を作ってるの?」
「他には……アンクレットやブレスレッド、刺繍が出来るのでハンカチやスカーフとかも作ったりしますし、冬なんかには編み物でマフラーとかニット帽とかも作ったりしますね」
「はぁ……そういえば久慈君、いつかに自分が作ったものの知名度が上がっても、そのまま魔力に繋がるって言ってたわよね」
「そうです。だから、これがボクの貴重な魔力源で、ちょっとした資金源で……あと息抜きも兼ねてるんで、1石3鳥ですっ」
そう言って照れた笑顔を浮かべる久慈君は、彼にしては珍しくちょっと自慢めいた雰囲気だ。気持ち胸を反らしている気がしないでもないし。でも、そうなってしまう気持ちも分かる。それ程の出来だったし、多分人気もあるんじゃなかろうか? それにしても……
「はぁ~……羨ましいなぁ~」
「良かったら、今度先生にも作りしましょうか?」
「えっ? えぇ~? いいの? いやぁ、催促したみたいになっちゃったわねぇ~。なんか悪いなぁ。先生そんなつもり全く、これっぽっちもなかったのになぁ~、うぇへへっ」
おっと望外の展開に思わず涎が……なんか久慈君の笑顔が引き攣っているし、庄川さんの顔がちょっと怖くなっちゃってるけど、まぁ多くの収穫があった。今晩は、作戦会議だ。
という訳で、私は帰ったその足でごー君の部屋に駆けつけた。
「助けて~、ごーえもん~っ。私も魔法少女らしいモノなんか作って、そんでネット販売して、お金がっぽがっぽしたいよ~っ!」
「色々待てや、コラ。ツッコミ追いつかねー事ヤメろ」
「実は昼休憩中にかくかくしかじかで……」
「これこれこういう訳で協力して欲しいという事か。まぁ動機も発想も不純だけども、確かに魔法生物退治だけだと魔力の上昇は頭打ちだからな。上にいる魔法少女達は様々な活動で、自分をアピールしているし」
そう言いながら、新しいタブレットを取り出して私に動画を見せてくれる。(金持ちかよっ)久慈君のように手先の器用さで物を作る子がいる中で、歌ってみたり、踊ってみたり、もう既に知名度がある子はオフ会なんてモノを開いて、魔法少女の活動内容を広める為の講演したりもしてるそうだ。
「どうよ? ……意識高そうなモノから、風紀の乱れを感じるモノまで、より取り見取りだろ?」
「言い方ぁっ! それをこれから私がやるんだからね、もう少し言葉を選びなさいよ、この魔法少女オタクがっ」
「協力者に向かってその言い草の方がどうなんだよ」
「なら、魔法少女博士でいいわよ。実際、なんでこんな色々知ってるのか……あっ? ファンなんでしょ? この子? このランキング1位のルビーちゃんとかでしょ? 可愛いもんね~」
「久慈と紫水さんの動画を、エンコして編集して上げてんのは俺だぞ。そりゃ嫌でも詳しくなるっつーの。それともなに? 紫水さん、明日から代わりに自分でする? もしくは、紫水さんがトチッた所だけ集めて編集してやってもいいんだけど?」
「……うぐぅっ」
この件に関しては私の方が分が悪いか。普段のように力づくでねじ伏せて、機嫌を損ねられても困るし、ここは私が折れてやるか。覚えてなさいよ、こんちくしょーめっ。
「それで、紫水さんなんか作れるの?」
「家庭科の授業で、カレーとかエプロンぐらいなら作った記憶があるわっ」(カレーは主に盛り付け、エプロンは持ち帰って春さんに手伝って貰ったわっ!)
「……なんか踊れたりする?」
「もし、するとしたら高校の時の創作ダンス以来の挑戦になるわね。あっ……毎年盆踊りには参加させられてるから、それなら結構いけるっ」(みんな適当に踊っているから、サボってもバレないのが魅力よね)
「…………なんか歌えたりする?」
「カラオケは、精密採点機能の平均は70点くらいねっ」(微低音から微高音ぐらいまでの、七色の音域に酔いしれなさいっ!)
「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」
「そんなにっ!?」
五体投地するかのように崩れ落ちるごー君。彼に諦められたら困る。なぜなら、私1人では何も出来ないのだからっ。
「諦めたらそこで試合終了でしょっ。私、それでもごー君ならなんとかしてくれるって信じてるから」
「なんで、そんな前向きっぽくクズ発言が出来るだよっ。一種の才能だわ、アンタのそれっ」
「ごー君こそ……本人も気付かなかった私の才能を見出せるなんて。その才能を活かした素敵なアイデアで私に楽をさせてくれるのね?」
「させねーよっ? 地道に魔法生物を倒して地力を上げるのが1番だからなっ」
「今更そんな事を頑張ったって芸人のレッテルを貼られた私じゃ……そうだっ! 芸能人が焼き肉店をFC化させる話があるじゃない? あれを真似て、魔法少女初の焼き肉店オーナーなんてどう? これは売れるわよ? あっ、お寿司の方がいいかも。私、お寿司の方が好きだし」
「ケーキが好きだからケーキ屋さんになるって言い出す、小学生並みの発想やめろやっ。大体、また自分から美味しいネタ振り撒いてどうすんの? 寿司屋だけにってか? 馬鹿野郎っ!」
「そもそも、魔法少女名義でお金って受け取れるの? 私名義だと、公務員だからこういう副業って許されないし」
「稼げる前提で話し進めるあたり、無駄に前向きで紫水さんらしいけども。そもそも金欠の紫水さんに開業資金なんてないでしょ? 素直に諦めようぜ」
「こう、リボ払い的な感じでなんとか……」
「出来る訳ねーし、真っすぐ破滅に向かって突き進むスタイル自重してよ、ホントッ!」
「私の細やかな夢なんて、お金が沢山あるだけで叶うのに……世知辛い世の中よね」
ごー君は私の独り言に対して、世知辛いってなんだ? と、独り言を漏らすと同時に大きく溜め息を零した。




