表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女ちゃんねる  作者: くるー
天塚紫水の場合
20/34

事前に打ち合わせしときなさいよ

「とりあえず落ち着いてよ。私はどこも怪我なんてしてないんだから」


「じゃあせん……アメジストさん。それはさっきあの魔法生物ラストにかけられていた奴ですか?」


「そうなんだけど……なんなんだろ? やだっ。なんかこれ、全体的に酸っぱい臭いがするっ。なにこれっ。いやっ……」


「ほうほうほう」「どれどれどれ」


 久慈君がアメジストと言い直したのは、他の魔法少女がいるからか。この子達もさっき、ガーネット様だとだの、トパーズ姉だの呼び合っていたし、基本的にこういうのは実名は晒さないのがルールなのかしらね? 


 そんな事を考えながら私が体全体に飛び散った赤い液体に触れて、服にこびり付いた酷い臭いに気付いて悶絶していると、小悪魔姉妹が私に近寄ってくる。トパーズ姉と呼ばれた方がカメラを片手に持ち、もう片方の妹であろう女の子がクンクンと鼻を鳴らしながら私から漂う臭いを嗅いだ。


「ちょっ、ちょっとやめてよねっ。なんか恥ずかしいからっ」


「トパーズ姉。この匂い、紅ショウガだワンっ」「ペロリ。ガーネット様、間違いありません。紅ショウガですワンっ」


「ハンッ。ちょっとだけ心配しちまったじゃねぇかっ。全く世話の焼ける女だよっ、魔法少女紅ショウガ」


「私の名前はアメジストよ、アメジストッ! 定着しているかどうか結構不安なんだから、あんまり間違えないでよねっ」


 私が大した怪我をしてないと分かるや否や、調子を取り戻す3人。それにしても、話していたら肩の力が抜ける子達ね。私なんかよりよっぽどこの子達の方が芸人枠だと思うのだけれど、そこんとこどうなのよ?


「危ない所を助けてもらってありがとうございます。あの、用事がないんだったらボク達そろそろ帰ろうかなって考えてるんですけど……」


「へへっ、とっとと帰るワンっ」「へへっ、当然コアは私達のものなんだワンっ」


「おっと、待ちなっ。まだ話は終わっちゃいないよ」


「そうだワンっ、ガーネット様が待てって言ってるんだぞっ」「そうだワンっ、ガーネット様の話を聞くんだぞっ」


「……事前に打ち合わせしときなさいよ。グダグダじゃないの」


「話っていうのはなんですか? 以前に言っていた勧誘の件ならお断りした筈ですけど」


「その話はもういいっ。考えてみれば私も妬きが回ったもんさ。アンタとはやっぱりライバルであった方がいいしねっ」


 自分の発言に陶酔とうすいするように1人でウンウンと深く頷く動作を繰り返すガーネット。前に立つ2人の姉妹は少し遅れてからガーネットの様子に気付いたようで、慌ててそれを真似て何度もコクコクと深く。一応、したっているのかしら? 彼女達の詳細が分からない私は、横に立つ久慈君にコソコソと小声で尋ねた。


「ねぇねぇ、久慈君とライバルって事は、結構上の人なの?」


「背の高い彼女がガーネットって言って、魔力ランキング5位の人ですよ。4傑に今もっとも近い人って事で、ボクなんかより全然強いですし、魔法少女としても大先輩です。確か以前見た時は80万を越えていたような……」


「へぇ~、案外凄い人なのね。前の2人は?」


「あの2人は姉のトパーズさんと、妹のベリルさん……本当の姉妹って話だけど、詳しい事まではボクにも分かりません」


「なにをコソコソと話してるんだいっ?」


「こっちの話よ。気にしないで。それより、く……久慈君アンバーだったよね? 彼女に用事があるなら、どうぞ?」


「用事があるのはアンタの方だよ、アメジスト。アンタ、アタシの仲間になりなっ」


「えぇっ? 私? ごめんなさい、遠慮します」


「どうしてだって顔をしているね? 実はアンタの事は結構前から……って、言わせてよっ! 少しは遠慮してよっ!!」


「そうだワンっ、ガーネット様は原稿まで用意してたんだぞっ」「そうだワンっ、なんて残酷な女なんだ。畜生めっ」


 妹のベリルの方が原稿を片手に意見してくる。ガーネットは慌ててそれを取り上げて、ビリビリと破り捨てて同時にベリルの頭を殴りつけた。少し顔を赤らめて仕切り直すように咳払いする辺り、根は真面目でいい子なのかもしれない。私の事も評価してくれてるみたいなのは、少し嬉しいしね。まぁ、そうだとしても私の意思は変わらないのだが。


「話を聞いても一緒よ。私はアンバーに返しきれない恩があるし、彼女の力になってあげたい。だからそっちのお仲間にはなれないわ」


「そうかい? 今日だって足を引っ張ってたみたいじゃないかっ」


「ぐぅっ……それは……」


「アンタはアタシの所で働いた方が強くなれるよ。今のアンタの実力じゃ、アンバーとサファイア……2人の足を引っ張るだけじゃないかい?」


 そんな会話をしていると、トンネルの方角から庄川さん……魔法少女サファイアが飛んでくる。彼女はそつなく仕事をこなしたようで、右手には2つの魔法生物のコアが輝いていた。確かに、優秀な彼女や久慈君に助けてもらってばかりでは、私が伸び悩むっていうのはあるかもしれないなぁ。


 久慈君の目の前、ガーネットに立ち塞がるように地面へと降り立った庄川さんは、キッと鋭い視線をガーネットへと送っていた。私にとっては、庄川さんがこんなに露骨な敵意ある眼差しを送るなんて事が初めてだったので、少し意外だった。魔法生物にすら向けた所を見た事がないぞ。


「っ……っ!」


「相変わらずなに言ってるのか分からねぇが、安心しな。別に今日はアンバーに用はない」


「そ、そうだぞっ、だから睨んだって怖くないぞっ」「そ、そうだぞっ、それ以上近づいたら駄目だぞっ」


 ガーネットの前にふんぞり返りながら立っていた小悪魔姉妹だったが、庄川さんが降り立った途端にガーネットの後ろに隠れてしまった。まぁ確かに今の彼女には静かな迫力がある。真正面から睨み返すガーネットは中々の胆力の持ち主だ。それにしも、庄川さんがなに言ってるのか分からないのは私だけじゃないのね。少し安心したわ。


「……っ?」


「えっと、うん。ガーネットさんの言っている事は本当だよ。今日の彼女はアメジストさんに用があるんだって」


「そういう事さ。そこをどきな。どかないっていうんなら、別に相手になってやってもいいんだぜっ?」


 見た目通り好戦的な性格なのね。それにしても、このシチュエーション……人生の中で言ってみたい言葉ランキングで5本の指に入る、私の為に争わないでっ……が、使える場面よね。冗談はさておき、実際に魔法少女同士での争いなんてやめて欲しいし、どう仲裁したものかを考えていると、突然その音が響き渡った。


「ようやく追いついた。全く、あんなに市街を飛び回ってるのにずっと追い回して撮影とか出来るかよ、こちとらただの原付だぞ」


 エンジン音を鳴らしながら現れたバイクが、私の背後に止まる。ヘルメットを外して、ムービー片手に現れたごー君は、すぐさまいつも通りに悪態を垂れながら歩み寄って来た。今、そんな空気じゃないのが分からないとはいえ、のん気なものだ。だからかもしれないが、すぐにガーネット達の存在に気付いてムービーを構えなおす。


「おっ、顔馴染みのゲストじゃないっすか。また懲りずにアンバーの勧誘に来たんですか?」


「ちょっと、空気読みなさいよ、ごー君。今、真剣な話し合いをしている最中なんだからっ」


「顔出したばっかで空気なんて読める訳ないでしょ。読んで欲しいなら先に一言、言うべきなんだよなぁ」


 私は対峙する2人から視線を外して、ごー君が撮影するのをやめさせようとする。そしてもう1度視線を彼女達に戻した時には、その様子が一変いっぺんしていた。サファイアの方には変わりがない。だが、ガーネットの方は顔を真っ赤にして、ロングコートで全身を隠すように閉じながら、モジモジと体を揺らして小悪魔姉妹の後ろに姿を隠すように縮こまってしまっている。先程までの堂々とした振る舞いは見る影もない。


「あっ……あっ、またっ……その、今日の所は……はい、許してあげるからっ! じゃあねっ!」


「待ってくださいワンっ、ガーネット様~っ」「待ってくださいワンっ、お前たち次はねーからな~っ」


 何度もつっかえながらなんとか絞り出した捨て台詞と共に、空へと姿を消す3人の魔法少女達。一体、なんだったのか……


「ガーネットさん、まだ治ってないみたいですね」


「治ってないって、なにが?」


「男性恐怖症気味なんですよ、彼女」


「あぁ~……そういう」


「特に国中君が苦手みたいで……あれさえなければ、もっとイベントなんかをしていって4傑に食い込んでいけるんだろうに。こう言っては失礼かもしれないけど、少し可哀想です」


「ごー君。貴方、知ってて近づいたの?」


「いいんだよ。大体、俺はなにもしてないんだぜ? 結構長い付き合いなのに、いつまでも慣れないあの子のが悪いだよ。つか、紫水さん……なんかめっちゃ臭うんだけど、なにそれ? 紅ショウガ?」


 うるさいわね、知ってるわよ。まぁ確かにもうお腹が減ってきた頃だったし……早く帰って牛丼食べに行こう。それより先にシャワーかしらね。ベタベタになった衣装を見下ろしながら私はそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ