これが俗にいうラッキースケベという奴か
「おはようございますっ。ごー君、起きてますかっ!?」
翌日の朝。私は通勤前にごー君の家に寄った。いつも通り、まるで我が家のようなノリで玄関へと入ると、すぐに春さんが出迎えてくれる。
「あら、おはよう。あの子なら部屋だと思うけど……そういえば、紫水ちゃんはご飯食べたの? 良かったら食べていく?」
「あ~……食べたいのは山々なんですけど、余り時間がないので遠慮しておきます。お邪魔しますねっ」
私は春さんの横を抜けて階段をドタバタと駆けのぼると、ごー君の部屋へとノックもせずに押し入る。そうすると、私の視界に部屋の中央で下着姿になっていたごー君が映った。ほう、これが俗にいうラッキースケベという奴か……ごー君は、均整の取れた肉体を惜しげもなく晒して、風呂上がりなのであろう、少し濡れた髪をしていてタオルを頭に被っている。ほら、読者達。喜んでいいのよ? ん?
「開けるんならノックしてくれよ、紫水さん。後、入るんなら入るでとっとと閉めて」
「ァッハイ」
全く、冷めた男ね。キャー、紫水さんのエッチぐらいの反応してみなさいよ。追加で揶揄ってあげるにっ。なんてどうでもいい文句を考えている合間に、ごー君は制服に着替えて頭をタオルで乾かしながら、ベットへと腰を落とす。
「それで? こんな朝っぱらからなんの用だよ? 今日はお互い学校だろ?」
「あっ、そうそうそれそれっ。これ、ツイットの通知の消し方教えてよっ!」
「大体そういうのは設定で出来るから、自分でやって欲しいんだけどなぁ。おぉ~……既に8,000越えてるし。やるじゃん。動画のコメントで宣伝しておいたのが、効いたか? 久慈と庄川さんがリツイートしてくれたのも大きいかもだけど」
「いや、なんかさっきから引っ切りなしに震えるから、なんか怖くってさ」
「変なところで臆病だよな、紫水さん。開き直ったら手が付けられないくらい大胆なのに」
「人を危険物扱いしてないで、はやく直してよ。それ」
「設定ぐらい自分で出来るようになった方がよくない?」
「えぇ~……こういうのはごー君の担当じゃん。ほら、なんかごー君強いんでしょ? パソコン的な奴」
「じゃあ、紫水さんはなんの担当なんだっつうの。つか、これはパソコン的な奴とかそういう以前の問題だろうに」
ハイハイと返事をしながら手慣れた様子でツイットの設定を変更してくれるごー君。持つべきものはやはり頼りになる弟分である。ツイットの操作方法は以前には使っていたし、多少は分かっているんだけども慣れない操作をして変な事をしてしまうのが嫌なのだ。例えば、間違って返信しちゃったり……
「ところで紫水さん、返信内容は確認したりしたの?」
「するわけないじゃない。どーせまた、バカにされてるでしょ? 私は自傷癖ないんだからっ」
「そんなガチ凹みしなくても……」
するに決まってるじゃないっ! 初戦にクロマグロを相手にした辺りから、どうも私の扱いは定まってしまったらしく、あそこに投下された私関係の静画や動画は大体、以前のクロマグロ動画や自己紹介動画と似通った投稿内容になってしまうのだ。
だから、どうやら勝手に撮影されていたらしい、ジャガーと私が戦った動画が投稿されたのだが、その動画には以下のようなコメントが流れた。
『いや戦えよw』『なんで走ってんだよw飛べや』『全力疾走じゃねぇかww』『なんの為に魔法道具持ってんだ?こいつ』『魔法道具というアクセサリー』『魔法道具というアクセント』『ババアが必死に走ってて草』『平たいから走りやすそう』『こいつ魔法生物相手にめっちゃ煽ってるw』『声必死で可愛い』『声はまぁまぁ』『コイツ面白いな』『やっぱり芸人だろ』『この動画魔法少女が映ってないんだけど?』
こんな扱いを受けて、固定タグに芸人なんて着けられて、魔法少女界に現れた期待の大型芸人なんて煽りブログを数件に渡って書かれれば、24歳独身女性のメンタルなんて軽く壊れるわよ。普通に今日、学校に行こうとしている自分を褒めてあげたいところだわ。
「ああいうのはその場のノリで何も考えずに書き込んでるのがほとんどだから、余り気にしない方がいいよ。ほら、出来た」
「分かってるんだけどさー……なかなかねぇ」
「あと、なんかあったらここのヘルプ読んで」
まぁ応援してくれてる人には、返せるときに返信しよう。スマホを受け取って、あえて余りツイットを見ないようにして、ごー君の教えてくれたヘルプサイトをサッと眺める。分かりやすい。これなら次からは私も出来るかな?
「魔法少女にも、こうして簡単なヘルプをしてくれるサポートがいてくれればいいのにね? ほら、魔法少女って大体可愛いマスコットキャラクターがいるし。ああいう奴、いないのかな?」
「いるんじゃねーの? 知らんけど。久慈に聞いてみればいいんじゃん」
思い立ったがなんとやらで、早速久慈君に電話してみる。朝の忙しい時間にもかかわらず彼はすぐに電話に出てくれた。
「いますよ。コンソール画面のヘルプの所で設定が出来ます。ただ出している間中、魔力が消費され続けるから、余りオススメしたくなかったんです」
久慈君はあっさりと教えてくれたので、その後は彼にお礼を言って電話を切る。そうか……だから聞きたい時にだけ出して、姿を消しておく必要があるのか。使い勝手はそんなによくなさそうだけど、でもすべてを久慈君に聞いて彼に迷惑を掛け続けるよりはいいかも。やっぱり、これからやっていくつもりなら、自分で少しは勉強しなくちゃね。
「紫水さん、時間大丈夫なの?」
「今日は朝御飯を抜くつもりだから、もうちょっと時間あるし……出すだけならね」
見た目の設定が出来るのか。やっぱり猫、猫がいいなぁ。魔法少女って言ったら、なんか猫って感じよねぇ。後は翼があって一緒に飛び回れるような、創作マスコット。可愛いデザインが多い気がするわ。
「猫、猫にするかぁ。ごー君、ごー君。やっぱり黒猫よねぇ? 名前はジジとか?」
「教師廃業して宅急便でも始める気かよ。俺の場合は、白猫ってイメージだからな……名前は久兵衛とかでいいんじゃね?」
「なにそれ? 時代劇じゃないんだから、ありえないでしょ」
なんかこういうネタって世代の差を感じるわね。そんなに離れていない筈なんだけど……ごー君もすぐに通学出来るように着替えと荷物を揃えて、私が触れる先に顔を覗かせて来る。まぁ、魔法少女じゃない彼には見えないんだろうけどさ。
そうしながら、私が選んだ黒猫が姿を現したのだが……そいつの見た目は私が想像していたのと、随分かけ離れたフォルムだった。どこかの中学生が家庭科の授業の課題にぬいぐるみを出されて、やっつけでそれをこなしたら出来上がった……潰れた2頭身の猫もどき。そんな表現がよく似合う黒猫だった。
「可愛いか? これ?」
「これが夜に勝手に動き出したら、結構不気味ね」
「そういうホラー思い出したわ」
「ちょっ、止めてよ。ホラーだなんて……それにしても、この子喋らないわね? なんで……あぁ、音声の設定も出来るのね。可愛い語尾を選ぼう、だってさ」
私は選択できる項目に触れて、その候補を眺めた。[~にゃ][~ぴよ][~にょ][~ぬ][~ぴょん][~ぽん][~ぴょろ][~ぽよ][~にー][~ござる][~にん]……などなど。なんか無駄に力が入っていて、少し引くわ。リストを用意した人のセンスを疑うわね。もっと標準的なのないの? 標準的なの。私はもっと普通に会話出来ればいいのに……おっ? なんだこれ。関西弁?
「関西弁ってのがあるわ、ごー君。使い魔って可愛い声で関西弁使うイメージあるし、私これにしようかな?」
「そんなイメージあるかぁ?」
「それに、このちょっと不気味なマスコットも関西弁で話し始めれば、そのギャップで案外、愛着が湧くかもだし」
「いや、紫水さんがそれでいいのなら、俺は止めないけど」
そんな調子で気軽に関西弁を選択すると、突然不気味な黒い猫もどきが身震いした。さながらスマホが着信した時のバイブ機能のように、低い音を上げながらヴヴヴッて震える姿に、私は少しだけ恐怖を覚えて、反射的にごー君の陰に隠れる。
やがて振動を終えたぬいぐるみが、前足を使って体を起こすと、後ろ足2本で立ち上がってバンザイのポーズをする。おっ? 案外、動きは可愛い……
「よろしくニキィーー!!wwww」
「「…………」」
「ワイの名前はサポート君、言うんや。ささっ、魔法少女の事ならなんでもワイに質問するンゴゴゴッw」
「「じゃあ、お前を消す方法」」
「……助けてクレメンス」
これ以来、私は1人でやっていく。そう心に誓った。




