全部事務所NGにすんぞっ
次の休みの日。私達は人目に付かない廃墟(立ち入り禁止場所なので、余り褒められた事ではないのだけれども)に入り込んで、飛行訓練をしていた。因みに、ここでいう私達と言うのは、私と久慈君と庄川さん、そして撮影係のごー君の事を指している。
なんで飛行訓練なんかを撮影しているのかというと、魔法の練習シーンだとか、魔法少女同士が交流している姿は、魔法少女ちゃんねる内では結構な需要があるからだそうだ。既に名の知れた魔法少女である久慈君(彼は現在、推定魔力ランキング8位らしい。さすくじ)の知名度に肖って、一緒にいる動画を上げれば、私の魔力も跳ね上がるという……まぁ、言ってしまえば動画内でのコバンザメ商法だ。
私としては余り気乗りしないのだが、ごー君が魔力は多い方がいいからとゴリ押ししてくるし、久慈君もやんわりとだが一緒にやりましょうと誘ってくるし、気乗りしない程度は断り切れなかったのが現状である。
「便利な魔法ですか? やっぱり、傀儡とか作れるようになると便利ですね」
「傀儡?」
そんなこんなで、その日の昼過ぎぐらいに飛行訓練を終えてしまった私は、なにか他に便利な魔法がないか? と、久慈君に向けて欲張った質問をした。その回答が上のやり取りである。私の魔法道具である錫杖のように長いステッキを宙に浮かせて腰掛けながら、翼を広げて空中に静止する久慈君と向かい合って、傀儡という単語に首を傾げる。
「あぁ……なんか、コンソール画面にあったような」
「詳しい話はここから降りて、お昼を食べながらしませんか? 朝からずっと練習だから、ボクお腹が空きました」
「あぁ、先生が夢中になったせいね。ごめんなさい。降りましょう?」
地上へ降りると、少し離れた場所でごー君と蒼さんがシートを広げて待っていてくれた。因みに蒼さんが練習に参加しなかった理由は、魔法少女の姿を極力晒したくない上に(やはり、あの痴女のような恰好は、やってて恥ずかしいのだろう。なぜ衣装を変えない)、特に魔力に困ってないからだそうだ。
特に後者の理由、魔力量に至っては100万を超える魔力を有する4傑と呼ばれる魔法少女の1人で、推定魔力ランキング堂々の3位(しかし奴は四天王最弱、とか言いそうなポジションね)だそうだ。まぁあんなエッチな身体と、あんなエッチな衣装で戦ってる魔法少女を1目見てしまったら、その瞬間から脳裏に焼き付いてしまうだろう。女性である私だって覚えていたぐらいだ。男性ならさもありなん。
「あぁ~……地面の感覚が久しぶりな気がする」
「お疲れ。わりとセンスあるじゃん、紫水さん。もっと時間かかるんだと思ってた」
「わりとってなによ、わりとって。ごー君こそ、しっかり撮影してたんでしょうね? あっ、動画チェックさせてよー。綺麗に撮れてる?」
「被写体が被写体だから、限界があ……ってーなっ。すぐ手を出すの止めろ」
「うるさいっ。黙ってよこせ。全部事務所NGにすんぞっ」
ごー君に飛びついて無理矢理ムービーを奪うと、撮影した動画をチェックする。最近のムービーが凄いのか、ごー君の腕が凄いのか、手ぶれも少なくて私達2人の練習の様子をよく捕らえていた。ただ、私のスレンダータイプのスカートのスリットからチラチラと太股が見えたり、久慈君が動く度にミニスカートが翻ったりと、写されている当人達としてはハラハラする場面が多いのが、少し気になった。
まぁ、見せちゃダメな部分は何故か謎の光が入って全く映っていなかったので、良しとしよう。これもあれかな? 魔法の力だったりするのかな。
「いつも仲がいいですね」
「確かに悪くはないけども……」「今の久慈に言われるのはちょっと、なぁ?」
先にシートの上に腰を下ろして、私達を見上げる久慈君の前には手作り弁当が広げられていた。庄川さんと久慈君。三段重ねの重箱にギッシリおかずとおにぎりが詰め込まれていて、2人でそれを分け合うそうだ。因みに彼等は、このお昼の為に早起きして、2人で同じ台所に立って弁当を作ったらしい。ピクニック気分ですか?
高校1年生と高校3年生。その年で共同作業をもう経験済みとか、早すぎませんかね? 高校卒業の頃には毎朝の味噌汁を互いに作りあって、大学卒業後にはもう縁側に並んでお茶とか飲んでそう。それに対して私達の弁当は既に冷めきったコンビニ弁当がそれぞれ1つと、ドリンクのみ。この光景を見比べて、ごー君が口を開く。
「格差社会を図で表すとこうなるんだろうな。このまま絵本に乗せても通用しそうな絵面だわ、これ」
「格差社会がテーマの絵本なんて誰が買うって言うのよ」
「そもそも、紫水さんに久慈の半分程でもいいから女子力が移れば、バランスが取れただろうに……」
「た、確かに私は料理が一切出来ないけども、男の子に分けてもらう程女子力の枯渇は起こしてないわよっ。馬鹿な事言ってないで食べましょう? それに私は、傀儡の事を教えて欲しいかな」
そこから食事をする間に、久慈君から傀儡の説明を受けた。要約すると、傀儡とは自分が魔法少女をやっている間に自分の代理をさせておく者の事らしい。古くはコピーロボッ〇、最近ではあのよく喋るライオンのぬいぐるみみたいな奴の事ね。そして、それを聞いた私は口元が緩むのを抑えられずにいた。
「つまり、自分の傀儡に代わりの仕事をさせながら、私は家でゴロゴロと熟睡するなんて事も出来るのね?」
「この人は……どうしてそうサボる方向に魔力を使おうとしてるんだか。後、ゴロゴロと熟睡ってなんだよ。器用すぎるだろ」
「余計な揚げ足録らないでよ。それにこれは全人類共通の夢の筈。魔法少女の力でそれを成し遂げるだなんて、そうそうお目に掛かれないハートフルストーリーじゃない。全米が泣くわよ」
「全米の涙って安っぽすぎるんだよな。おかげでその煽り文句、最近聞かないし」
「先生も気に入ってくれたみたいですから……とにかく、食事を終えた後にやってみましょうか?」
賑やかな食事を終えた私達は、早速傀儡作りの練習を始めた。蒼さんも口を開くのだが、やはりその声は久慈君にしか届かないようだ。
「基本的には衣装を作る時と同じ要領です。コンソール画面で傀儡を開いておくと、少し補助が入って作りやすくなりますよ」
「へぇー……それじゃあ早速」
私だってそろそろ魔法少女になって一月ぐらいは経とうという経験がある。魔力の使い方なんてお手の物だ。瞳を閉じて意識を集中させながら、こう両手を轆轤を操るように胸の前でユラユラと揺らして、魔力でもって編み上げるように。大切なのはイメージ。イメージするのは、鏡の前に立つ、等身大の私。
そうして眩い光を放ちながら、私の前に1人の成人女性が生み出された。いつも教師をしている時のスーツ姿の私。なんの苦もなく、1発で成功してしまうとは……もしかして私、才能アリ?
「どう? どうっ? ごー君。凄いと思わない? 私」
「いや、どうってアンタ。一発で人の形に出来たのは凄いのかもしんないけども……少しは似せる努力をしろや」
「えぇ~? そうかなぁ~?」
確かに私が見上げるぐらい少し背が高いし? ちょっと顔も小さくした上に、色々と細工して美少女漫画チックになってるし? 胸も軽く10cm程盛ってるし? だからお尻は少し小さくして形を綺麗にしているし? 私にはなかったクビレを搭載しているし? 等身の比率を少し弄って足も細くて長くなっているけども……
「まぁ全然、許容範囲じゃない?」
「全然(許容範囲じゃ)ないです。ほぼ別人じゃねーかっ」
編集(ごー君)の細かな修正が入りました。悔しいっ。こんなの本当の私じゃないのにっ!




