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魔法少女ちゃんねる  作者: くるー
天塚紫水の場合
13/34

なんだ、猫か

 時間は昼休憩に移る。購買でパンを買って、準備室で1人静かに食事をしていた時だ。背中に冷たいモノを差し込まれるようなゾクッとした感覚に晒される。魔法生物ラストが出現のサインだ。これまで1日の間に2,3回はこの感覚に晒されているから、今日も来るんだろうなと思っていたので、そこまで驚きはない。ただ、こんなにも近いのは、最初に退治しに行った公園の時以来だ。


 どうしよ……これまでは、プライベートで一杯一杯だったり、なんか遠そうだし、何処にいるかイマイチ分からなかったから、別に私がやらなくてもどこかの魔法少女がやるんでしょ? と、無視していたんだけど、流石にこの距離は無視できそうにない。ここは私の生徒達が通う学校だ。彼等彼女等を傷つけるのは避けたかった。久慈君も気付いているだろうし、あの子なら1人で戦いに行ってしまうだろう。それも心配だ。


 仕方ないわねぇ~、と独り言を零しながら、パンをんぐんぐと一気に掻き込んで飲み込むと、魔法道具アーティファクトを取り出してから魔法少女になる。魔力に余裕があるからと何度か練習した甲斐があって、変身はスムーズに行えた。その成果を誰かが置いていった全身鏡に写して確認する。


 うーん……悪くないわね。だけど、この髪がちょっと紫によって、ラメ入りみたいにキラキラ輝くのなんとかならないのかしら? 確かに、大阪のオバチャンっぽいイメージがあるのよね。後、露出増やす? でも、お腹とが腕の……ちょっとばっかし(気持ち、かろうじて)プニプニした部分を見られた日には、絶対叩かれそう。つまり却下ね。痩せてからにしましょう。


「失礼しま……」


 そうやって鏡を見比べていると、準備室に突然女生徒が入ってきた。授業の内容で分からなかった事を聞きに来る、真面目で成績も優秀な女の子だ。これまでと合わせて何度目かなので、当然名前も憶えている。小林さんだ。彼女の視線と私の視線が重なり合い、呆然とした彼女の両手からノートが滑り落ちた。


「あの? どちら様ですか」


 効いてる。効いてるー! カーテン効いてるよぉ。やっぱり、この瞬間は分かっててもドキドキするわね。後はボロを出さないように適当にこの場を潜り抜けよう。


「わ……私は通りすがりの魔法……少女?(小声)アメジストよ」「はぁ……」


「名も知らぬ少女、小林さん」「今、小林さんって私の名前……」


「今、この学校の危険が危ないの」「お手本のような誤用ですね」


「だから、一刻も早くここから避難して。グランド側に。あっ、いや体育館側の方がいいかも……」「えっ? どっちですか?」


「この姿ではもう会う事はないでしょう。それじゃ、また授業でっ!」「いや、どっち!?」


 私は片手を上げながら準備室を飛び出す。このまま空を飛べるのなら格好良かったのだが、まだ飛び方を知らないので、ドタバタと走って嫌な感じがする方向へと向かっていった。なんかその最中にめっちゃ目撃されたけども、ま、まぁ天塚紫水だと認識されてないみたいだし、良いんじゃないかな? そこ、撮るなっ。上げるなっ。後で没収なんだからねっ!?


 最上階の4階まで全力で駆け抜けるのだが、魔力を得る事によって体力が上昇する訳ではないようで、私はゼイゼイと大きく息を乱して、手摺りに掴まりながら最後の階段を上り切る。だ、だってこんなに走ったのって学生時代以来だし……そもそも女性って運動するように身体が出来てないんだから、走れる訳ないじゃないのよもぉ~。


 心の内で悪態を吐き、半眼になりながら廊下に出てその先を見るが、特に不審な影はない。はて? 何処にいるのかしら……と、注意深く先を見渡していると、下から怒鳴り声が響いた。


「そこの不審者っ! 一体何をしているんだねっ!?」


 嘘っ!? いつの間にか下に逃げられた? と、私が声の方角を振り返ると、顔を真っ赤にした柴崎教諭(48歳、2年学年主任)が私に向かって近づいて来る。背後にでも取りつかれたかと、首だけで振り返るがやはり姿がない。


「いや、君だよ、君っ。今、後ろを向いた君だっ!」


「ですよねぇ~!」


 確かに舞踏会じゃあるまいし、こんな派手なドレスを来た女が突然学校に現れたら、不審者扱いされますよねぇ。どうしよう。走って逃げようか? もしくは、日頃の恨みを晴らすつもりで記憶が消えるまで殴り飛ばしてもいいかもしれないわね。(ネチネチと小言がしつこいのだっ)ほらっ? 私だって分からない訳だし? 地味に完全犯罪じゃない、これ。


 そんな悪魔染みた考えに脳内を染められている時、横から強烈に嫌な悪寒を感じて私はもう一度、廊下へと視線を飛ばした。そこに1つ。先程まで気付かなかった怪しい影がっ!


「にゃぁ~」「なんだ、猫か」


 視線の先には、よちよちと歩くのも覚束おぼつかない感じの小さな猫がいた。女生徒達から、何処から来たの~? とか、可愛いねぇ~? とか、声を掛けられながら、喉や頭を撫でられている。彼女達の影になっていたから気付かなかったのだろう。なんにせよ、余り脅威にはならなさそうなので、再び近づいて来る柴崎教諭の対処をどうしようかと考えようとした瞬間、突然に気付いた。よちよち歩きの子猫が、どうやって4階に上がり込んだの?


「きゃぁあっ!?」「いやぁぁっ!!」


 女生徒の金切り声が廊下中に響いた。彼女達がそんな悲鳴を上げてしまうのも無理はない。さっきまで可愛がっていた子猫が、急に獰猛どうもうな顔付きに野獣の眼光(そのままの意味)を宿した、人が乗れるようなサイズの大きさの化け猫になったら、私も絶対そうなる。てか、見た目ジャガーでしょっ!? あれっ!


「嘘……今回の相手……あれっ!?」


「さぁ、とりあえず職員室に……」


 怯えて一歩後退りする私の肩を柴崎教諭が掴む。セクハラだって訴えてやりたい所だが、今はそれどころではない。ジャガーが私に向かって真っすぐ襲い掛かってくるのを見て、私は柴崎教諭の手を思いっきり振り払い(普段は絶対に出来ない)、先程駆け上ってきた階段をその倍の速度で駆け下り始めた。


「ちょっ……ちょちょちょっ、怖い怖い怖いっ怖いってっ!!」


 魔法道具を両手で抱えながら駆け下りて、一気に5段を飛び降りて着地と同時に後ろを仰ぎ見ると、ジャガーは猛然と壁を蹴って三角飛びをしながら一目散に私を追いかけて来た。本当に、一般人には興味を示さないらしい。


「私を食べても美味しくないわよっ? これから夏にかけてダイエットするから、お肉なんて全然ついてないしっ!?」


 着地後の屈んだ体勢から、再び加速して走り出しながら私は叫ぶ。当然話が通じる相手ではないので、後ろからの強烈な悪寒はグイグイと迫っている。そうこうしながら3階から2階まで駆け降りるのだが、どう考えてもジャガーの方が足が早いのでこのままではジリ貧だ。2階の角の教室は……私は頭の情報を整理しながら廊下へと飛び出して、すぐ傍の空き教室に滑り込んで鍵を閉めた。


 扉から十分に距離を離して魔法道具を構える。同時にガツンッと派手な音を立てて扉が揺れた。ジャガーの奴が体当たりをしているのだろう。何度も大きな音が響く度に、私の今にも張り裂けそうな心臓(もう走り過ぎて限界。お願い、休ませてっ)が更に飛び上がるが、扉を壊してまでは入って来そうにないみたいだった。それを確認して、緊張の解けた私は魔法道具にもたれる様にして体を預けながら、ヘロヘロとへたり込んで大きく息を吐いた。

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