やはり……お酒かな?
翌日。私は布団の中で素敵な朝を迎えていた。温かな布団の中で迎える休日の朝は、素敵だ。何が素敵かって、朝だというのに起きなくてもいい所が素敵だ。ずっとずっとこの時間が続けばいいのに……私、休日の朝の事、永遠に離したくない。そうして私が休日の朝との素敵な時間を布団の中で噛み締めていたのに、太陽が無情にも中天へと私の想い人を連れ去っていく。今日もこの恋物語は私の片想いで終わってしまった。
そんな下らない繰り言をボンヤリとした頭で考えながらスマホを弄っていると、ようやく昨夜に何があったのかを思い出してきた。そうか。私、魔法少女になったんだっけ。この台詞だけだとまだ寝ぼけてるみたいで少し笑ってしまいそうだが、事実なんだよなぁ~……と、自分で確認するためにコンソール画面を開いて項目を確認していく。
昨晩使ったばっかりの魔法道具の他に、マップや衣装、魔法生物や傀儡など複数の項目が用意されていた。これって、名前からしてそれぞれがきっと便利になる奴だと思うんだけど……どれも、魔力を消費するんだよね? 好奇心で触り続けていつの間にか、魔力が空になるような項目触ったりするのは嫌だなぁ~。そう思いながら、ふとコンソール画面の上の方。私の魔力の値を確認する。
17,863/17,863
んん~? 私は目を擦ってもう1度数字を確認するが、当たり前のように1度確認した内容と変わらない数字がコンソール画面に浮かんでいた。やはり、昨晩に確認した時は12,000ぐらいに下がっていた魔力が、明らかに増えているのだ。あれぇ? 私なにかしたかしら? 昨晩あれからした事といえば、お弁当食べて、お酒飲んで、おでん食べて、ごー君のベットを奪って、ごー君に眠れるまで話し相手になって貰って……これのどれかに魔力が増える要因があったという事だろうか?
「やはり……お酒かな?」
私は顎を撫でながらニヤリと笑みをこぼした。これらの中で、久慈君が体験してない上に、効果がありそうなモノっていえば、コレしかなくない? 霊酒なんて言葉もあるらしいし? まぁ、私が飲んでいたのは、ワンカップの焼酎なんだけども、そこはそれとして。もしかしたら、お高い大吟醸辺りを飲み干したら、一気に10,000ぐらい魔力が上がったりなんかしちゃったりして?
寝ぼけていた頭が回ってくる感じがした。私ってば天才じゃないだろうか? 早速、ごー君にこの大発見を教えてあげて、ひとっ走り買いに行かせようかなどと考えながら、ウキウキと洗面台で顔を洗い、朝のケアを適当に済ませてから食卓へと足を運んだ。
ダイニングに入ると春さんが出来の悪い娘を見るような顔でおはようと挨拶をかけてくる。私はそれに対して恥ずかしさを誤魔化すような笑顔で応えて、朝ご飯温めなおすね? という、春さんの優しい言葉に素直に甘えた。今日のご飯はな~にかなっ?
「おはよう」「んー、おはよう。ねぇねぇ、お茶淹れてよ」
後ろのソファーから声を掛けてくるのはごー君だ。スマホを弄っていた彼は私の言葉に対して、それぐらい自分で淹れろよ……と、文句を言いながらも、お茶を淹れる為に立ち上がった。持つべきものは躾の行き届いた弟分である。ご満悦に浸る私だったが、辺りを見渡して小さく首を傾げた。久慈君の姿がない事に気付いたのである。
「ごー君? 久慈君はどうしたの?」
「とっくの昔に飯食って帰ったよ。紫水さんは休みだからって、だらけすぎ」
「休みにだらけずにいつだらけるのよ?」
「程度の問題だろ? 死んだら幾らでも寝れるだろうに」
「馬鹿ね。睡眠の醍醐味は、眠気に負けてスヤァってなる瞬間と、2度寝、3度寝を自由に選ぶ瞬間でしょうが。死んじゃったらどっちも出来ないじゃない」
「俺は一睡もしないでいいなら、したくない派だから分かんねぇー」
まだまだ若いな、ごー君。貴方も年を重ねれば理解できるでしょう……そう結論付けて勝手に話を切って並べられた朝食を食べ進めていると、お茶を淹れてくれたごー君が隣に座ってくる。少しだけ顔を寄せて、キッチンで何事かを続けている春さんに聞こえないように、声を潜めて話し掛けて来た。
「紫水さん、今朝。魔力確認した?」
「あっ。うん。確認したら結構増えててさ……なんで、ごー君が知ってるの?」
「あぁ……やっぱり。まぁ、うん。でさ、ここからは悲報なんだけども」
「なによ?」
いつもズケズケと悪口を言ってくるごー君にしては、珍しくどう伝えればいいか躊躇った様子を見せるので、私は不気味な気配を感じて身構えてしまった。そんな彼が差し出して来たのは彼のスマホで、そこには動画が映し出されていた。最初はその内容が理解できない私だったが、次第に血の気が引いていくのを感じる。
「これって、昨日の私じゃん!」「そうだな」
「どうしてっ!? 私、動画は流さないでって言ったのにっ!」「痛い、痛いっ。いや、俺じゃないってっ。あの公園にいた、どっかの野次馬が勝手に流したんだって!」
辺りが暗いので映りが悪いし、多少画質も低いので、細かい所は分からないが、映し出された姿は見る人が見ればハッキリと私だと分かる程の出来だった。あぁ、でもカーテンがあるからこれは私って分からないのよね? いや、そうじゃないと困るんだけど。そして動画上に流れるコメントに私は目を奪われる。
『うぽつ』『誰だよこのおばさん?』『チェンジ』『誰?』『コス地味』『ぶっさ』『タイツprpr』『新人?』『名前なんて言うの?』『借金背負ってそう』『アリ』『人妻っぽい』『グロ動画上げんなカス』『少女じゃない。やり直し』『スリーサイズ職人はよ』『くっさ』
「ねぇ、ごー君」「……なに?」
「なんで私、勝手に盗撮された上にこんな辛辣なコメ浴びせられなきゃならないのよっ」「そこ、難しい所だよなぁ」
もう既に私は泣きそうで、朝食が喉を通る所じゃないのだが……見なければいいのに、気になって動画の続きを見てしまう。場面は魔法生物のクロマグロと対峙した所だ。
『草』『www』『誰だよ、マグロの解体動画上げたの』『これはタイトル詐欺』『ババア、割烹着の方が似合うぞ』『ババア、大トロ握ってくれや』『晩酌とか似合いそう』『ワロテル』『ここ場所何処だよ?』『←築地だろ言わせんな恥ずかしい』『必死に殴ってて草』『マグロのタタキが出来そう』『マグロご期待ください』
「こいつら好き勝手言って、張り倒して……ねぇ? なにが可笑しいの? ごー君。よければ、お姉さんに教えてくれる?」
「ふふっ……いや、悪い。その、な……まぁ酷いよな、コイツら。うん」
警告しても笑いを嚙み殺しているのが丸分かりな顔を止めないごー君のボディーを、腹立ち紛れに軽く拳で抉ってやる。何もおかしい所などない。私は今、怒りと悲しみの戦士。いや、魔法少女。そして、場面はクロマグロを退治して帰るまでを映していた。
『おつ』『これは芸人』『芸人爆誕』『草』『期待の新人』『ババア乙』『コス変えろ』『脱げ』『名前教えろ』『髪がちょっと紫入ってる』『大阪のババアかよ』『アンバーちゃん写ってる』『どこ?』『アンバーちゃんカワいい』『アンバーちゃん結婚しよ』
その後、話題はアンバーと何故か1人だけ顔にモザイクを掛けて写っていたごー君へとシフトして、動画が途切れた。私は言いようのない怒りと悲しみを覚えながら、動画のタブを閉じた。




