5ケタは入ってる
「おめでとうございますっ、先生っ。初勝利ですよっ? ……それと、それが魔法生物のコアです」
「あ、ありがとう。なんか釈然としないけど。コアってこれの事?」
魔法生物を倒した途端、久慈君は私の傍まで駆け寄って来てくれて、お祝いの言葉を送ってくれる。彼が笑顔を向けてくれるのはとても嬉しいのだが、今の私はそれを素直に受け止められる程の心境じゃなかったのが残念だ。
そして、久慈君に指し示されたコアと呼ばれる物を私は手に取る。それは魔法生物クロマグロ(映画のタイトルみたいになるわね、並べると)が転がっていた辺りの中央部の中空に浮かび上がっていた、一際大きな光の塊だった。その光に手を伸ばしてみると、光は勢いを失って私の手の中で虹色の金平糖ぐらいのサイズの固形物になる。
「綺麗ね。宝石みたい。でも、これが魔法生物のコアっていう事は、コイツをちゃんと破壊しないと駄目って事?」
「いえ。それを食べるんです。それでボク達の魔力を補給できます」
「えっ!? 食べるの? これをっ?」
「はい。結構美味しいですよ?」
「拾い食いしてるみたいで、躊躇われるわね。それに、鉄火丼みたいな味がしそうなんだけど」
「うーん、味は砂糖菓子を更に上品にした感じで……美味しいですよ?」
まぁ久慈君がそこまで言うなら……と、私は目を瞑って恐る恐るコアを口の中に入れて嚙み砕く。あっ、確かに美味しい。硬いのかと思ったらすぐ口の中に溶けていくし、甘さは控えめで……マドレーヌに少し似ているような。これ、沢山あると辞められない止まらないって感じの味ね。
「あっ、もうなくなっちゃった」
「ね? 美味しかったでしょ?」
体を屈めながら覗き込んでくる久慈君の姿が、魔法少女の姿も相俟って可愛すぎるので、私は少しだけ赤面しながら視線を反らした。全く、天使の癖に小悪魔のような子ね。(どっちも違う)私は咳払いをして、距離を置いた。
「うっ、うん。確かに美味しかったわ。その、ずっとご飯食べてなかったからお腹減ってたし」
「そう言えば、ボク達。何も食べてなかったですね」
「じゃあ、帰りにコンビニよって、なにか買って帰ろうぜ? 久慈ももう今日は遅いし、泊まってけよ」
「えぇっ!? そ、それは困るんだけど……」
今日はあんな動画を見せられたから実家に1人で眠れるとは思えないので、私がごー君の部屋に泊まるつもりだったのに、もし久慈君まで泊りになると先生と生徒が同じ屋根の下で寝る事に……ウチの学校の生徒にそんな恥ずかしい所を見せろって言うのっ?
「なんで? 明日は休みだし、紫水さんもまだまだ聞いておきたい事色々あるでしょ?」
「あっ……あぁ、そういう理由ね。うん、それなら私がその場にいても自然だし、別にいいのかなっ?」
「何を今更気にしてるのか知らないけど、それより今回ので幾ら魔力が回復したか、確認しといた方が良くない?」
「確かに……ちょっと、待ってて」
言われてみれば、真っ先に確認しておくべき事柄だけど、色々あった後だとついつい忘れてしまいがちよねぇ~……等と恥ずかしさ紛れに呟きながら、コンソール画面を開いてその数字を確認する。
「12,482……ええっと、衣装を選んでいる時のゴタゴタでけっこう魔力を消費しちゃって、ここに来た時にはもう12,000切ったぐらいだったから……500ぐらい増えたって事かしら? 500。500かぁ~……結構少ないのね」
「コアでの補給は魔法生物の魔力量によって変わりますから……今回の魔法生物は少な目の魔力しか持ってなかったみたいですね」
「まぁ、今日の所は大赤字って事だよな。紫水さん、貯金とかクッソ下手だからなぁ~……本当に大丈夫?」
「た、確かに貯金はあんまりしないかもだけど、私だって命が関われば浪費を抑える事ぐらい訳ないわよっ!」
「去年の冬、毎日ウチの食卓に集りに来た奴が何を……」「だって、春さんが毎日来てもいいよって言ってくれたしーっ」
「それで? 今の貯金額は?」「5ケタは入ってるわよ? ……ギリだけど」
「魔力が5ケタを切るのも時間の問題だな、こりゃ」「なんですってぇ~!」
私の事を鼻で笑おうとするごー君を、背後から杖でもって突きまわして反撃していたんだけど、突然可愛い笑い声が響いてその手を止める。振り返ると、そこにはお腹を抱えて笑う久慈君がいた。笑い声まで可愛いとか、流石久慈君ねっ。(さすくじ)
「ごっ、ごめんなさい。でも、ふふふっ、今日はずっと先生が学校のイメージと全然違うし……それに、本当に2人って仲が良いんですね?」
「それはその……お願いっ。学校では秘密にしておいて貰えると助かるわ」
「安心してください。言っても信じて貰えないと思いますしね」
「あと、ごー君に関しては……私が育てたような所あるし?」「こき使ってるだけだろ」
とりあえず、話に一区切りが着いたところで私と久慈君は、それぞれ茂みに身を潜めて魔法少女の衣装を解く。そうすると私は、すっごいラフな部屋着でノーメイクだったりしたのを思い出したが、まぁ今更いいか……と、先に待っている2人に合流した。
「それで、どうする?」
「どうするって何を? 今日は私頑張ったんだから、コンビニはごー君の奢りって話だったよね?」
「高校生に集る社会人の図……まぁ、それは置いておいて、動画の事だよ」
コンビニでそれぞれ適当なモノを見繕った後の帰り道、3人で肩を並べて歩いているとごー君がそんな話題を投げ掛けてきた。個人的にはもう魔法少女はお腹一杯で、とにかく今はこの空腹をあったかおでんでお腹一杯にして、夜風で冷えた体を焼酎で温めてからにしたいんだけど……
「ちょっと見せて?」「ん……」
ムービーを受け取った私は、有能な検閲官のような顔で動画を確認する。操作方法が分からなくて、最初は教えてもらったんだけども。魔法少女の姿をした私は、傍目から見るとわりとイケていた。可愛いって感じには程遠いかもだけど、綺麗なお姉さんの部類に入れてもよくね? って感じだ。おぉ~……等と零しながら、私が一番綺麗に映る角度を確認していたのだが、いざ魔法生物との戦闘場面になると見れたモノではない。そもそも動かないクロマグロを身の丈の杖でボコボコにする場面を、戦闘場面と呼ぶのかどうかが怪しい。なんか泣きそうな顔してるし。実際、泣きそうだったんだけども。
「や……止めておきましょう? これが記録として残るのは、流石に……」
「正体がバレないとは言えなぁ。そもそも、芸人のやらせコントにしか見えないって言われる可能性が」
「もうっ。私、一所懸命に頑張ったのに~っ」
「頑張ったからって結果が伴うとは限らないんだよ、紫水さん。今日の戦いは俺達にそれを教えてくれた」
「魔法少女モノのテーマとして相応しくないよねっ!? それっ!」
現実にしても、始まったばかりの魔法少女道にしても、前途多難過ぎてハッピーエンドまでの道筋が見えない。こういう日は先の事を考えるより、酒を飲んで忘れるに限る。そうやって私は生きて来たのだ。私はとりあえず、コンビニ袋の中に収まった小さなハッピーを楽しみに帰途へと着いた。




