ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい 2
「どうしたこうなった...」
借金負って、父親と別れて、ヤクザの妹になって、抱き枕にされて、剣道で無双して、さて、今は何をしているでしょうか?
「黒川佐凜さん。少し、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「...」
5億円という借金を背負ってしまった私は、父親と共に苦労に生き、ある日金を要求しに来たヤクザ達は、組長の命令で「借金をなしにする代わりに赤城佐凜(←これ私の前の名前)を寄越せ」と言われた。
もちろん、それなりの条件つきだ。もう父親にはつきまとわない事と、これで借金も利子も全てなしという事だ。
それからどうなったかは、この話を最初に文を見てほしい。私の苦労が書いてあるから。あ、さっきのは今までの「あらすじ」ね。
何か、私をストレス解消用の抱き枕にしたかったらしいです黒川さんは。毎晩私を抱きしめやがって、私は玩具じゃねぇぞーーとも言えない。
だって、父親を人質に取られているのだから。警察に駆け込んだ場合も同じ。私の四肢を切り落とすってさ...怖いよね。
そんなわけで、私は黒川さんに逆らう事が出来ない。いくらベッドの中で抱きしめられようが文句なんて言えないぐすん。ま、これ以上変な事はーーしてるはしてるけど、せいぜい重度過ぎるシスコンの兄がやる程度だから許しちゃろう。
この頃、黒川さんは過保護じゃなくなってきた。だんだん私もこの街にも慣れて来て、道だって覚えて来た。今まで送り迎えは車だったが、つい昨日から歩きとなった。
私は正直嬉しかった。
「よし! これであの黒い過保護野郎の束縛を1つ解除出来た!!」
と、心の中でガッツポーズをして、夢の世界で宴会を開いたほどだった。
過去を振り返っているのはもう止めた方が良いかもしれない。今私の目の前には、かつて私のお目付役の後藤謙次が「気をつけた方が良い」と言っていた警官がいるのだから。
日本警察は優秀だ。ヤクザに最低1人は見張りをつけている。もちろん、戸籍上、黒川さんの妹である私もマークされている。「俺は無実だぁぁぁぁ!!!」と叫んでやりたい所だ。
他の人達はともかく、私は何もしていない。
「黒川佐凜さん。少し、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか」
この若年刑事め。警察手帳を見せながら、何度も反復してくる。分かってますってば。
ちなみに、「黒川組」は捜査1課と2課から追われているらしい。どんだけ悪い事したんですか黒川さん。
「黒川佐凜さん。少し、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「...嫌です」
しつこい刑事を無視して、私は家の方向へ歩き始めた。刑事は、諦めた様子もなくしつこく言って来る。
「お兄さんの黒川真人さんについて、何かご存知ですか? あの!」
「...」
若年刑事は、私に無視されてもしつこく追って来る。
「任意ですよね? しつこいです。お引き取りください!!」
あまりのしつこさに、私は我慢ならなかった。
何なんだよ! 私は何もしてないってのに、何でこんなにしつこいのさぁ!!
「黒川さぁん...」
「よしよし、良い子ですねぇ...」
ぐす、走ってあの刑事巻いたもん。それ言ったら黒川さんに褒められたけど、全然嬉しくない。
今私が猫なで声を出したのは、決して甘えているとかそういうのではなく、ちゃんとした原因がある。
「ネットでさ、猫に効くツボ載ってて。やってみて良いですか?」
「え゛、何で私なんですかぁ?!」
「フフ、刑事を巻いたご褒美です」
やらしい笑みを浮かべた黒川さんは、私を羽交い締めにしてベッドに押し倒した。
「確か、首の付け根辺りと書いてあったような...此処ら辺かな」
私は、黒川さんが上に乗っていてどうにも身動きが取れない。それで、猫のツボを押された。その途端、私の体中が温かくなって、癒されるような思いになってしまった。
まさかこんなに気持ちいいとは思いもしなかったが、猫のツボが効くとは不思議だ。
まぁ閑話休題。
「う〜ん、もちろん貴女は何も言いませんでしたよね?」
「しつこかったので怒鳴りましたが」
他のツボを押してもらってる途中、黒川さんに、追いかけて来た刑事の名前を教えると、首をかしげた。どうやら、知らない名だったらしい。
「新人かもしれませんね。しかし、1人で貴女に話しかけるとは。中々命知らずのようですね」
「私は黒川さんと違って、不用意に人を傷つけたりしませんよ?」
「いえいえ、傷つけるのは貴女ではなく...」
「俺だよ」
耳元で言われた言葉に、怖くはなかったが吃驚した私は息を飲んだ。
何でベッドの枕元にいるんですか謙次さん...。
「殺ろうと思ったが、途中で思いとどまった。まだほんの子供に血しぶきなんて見せる必要性は見当たらねぇからな」
「そうなんでーーって、ぁあ...ちょ、そこは止め...ぁあん」
「ん、面白い反応を見せますね...」
今黒川さんが押さえているのは、耳の裏辺りのツボだった。
艶やかな声を上げる私に興奮した黒川さんは、それから毎晩そのツボを押すようになってしまった...!!(怒)。録音してたらぶっ飛ばすつもり。
*黒川 真人視点
まだサリンが来る1ヶ月ほど前の事。
俺はその頃、ずっとイラついていた。碌に仕事にも集中出来ず、タバコを吸ったり酒を飲んだりしても落ち着かない。
日頃のストレスだろうと後藤に言われた。まぁその通りかもしれない。今まで俺は頑張りすぎた。少しくらいは癒しが欲しいものだな。
「組長、赤城の件ですが、どうされますか?」
俺がうたた寝をしていると、部下の1人が言った。こいつは「ポッキー」。もちろんあだ名だが。何か、髪がチョコレートのように真っ黒で、肌や服や靴の色がクッキーみたいに黄金色だかららしい。
「赤城か。確か、あいつには1人娘がいたな。売れ」
「臓器ですか? それとも売春婦?」
「どっちでも良い」
正直、あの頃俺はイライラしていた。そんな事、組長の俺が決めなくても後藤が勝手に決めてくれれば良いと思っていたからだった。
だが、それは間違いだった。今思うと、あの子の体の一部である臓器を売るなんてありえない。売春婦として体を売らせるなんて絶対にさせたくない。
もしタイムマシンがあったら、あの俺をぶっ飛ばすのにな...と、俺は案外本気で考えている。
「写真を見せろ。もし面倒なのだったら困るからな」
「はい」
ポッキーは、ポケットの中から1枚の写真を取り出した。今思えば、何故そこに入れていたのか不思議だが、気にしないでおこう。
写真には、いかにも純粋そうな可愛らしい少女が写っていた。俺は少女の目を見た。
俺の頭の中に、少女のビジョンが映し出された。
『ねぇねぇ、お小遣いくれるって本当なの? そうなの?』
『あぁ、もちろんだよ! 大好きな君のためさ』
そこには、何処かの高級ホテルらしき所の一室で、少女が外人の少年と話している様子が映し出された。次は、別の男だった。
そんな多くの男からの蜜(金)を吸っている少女の姿が映し出された。
「...腹黒いな」
「え?」
もちろん、こんな事をしているには訳がある。最初のビジョンは、一番新しいものだ。
少女は、借金を返すために男から金をだまし取っていたのだ。
面白い、と頬を緩ませていると、最後のビジョンが写り始めた。最後のビジョンは、自分の人生を変えた記憶。
『ずっと、騙してたんだ...』
『...ごめんなさい。ライト』
そこには、最初のビジョンで映っていた少年と、泣き崩れる少女が映っていた。
『どうして、訳を言ってくれなかったの? 君の為だったら、どんな事でもしたのに』
『え? 何言ってるの? 私、ライトの事騙したんだよ?』
『今まで君が騙した人達は、君を愛していた。君も彼らを少なからず愛していた。そうだろう?』
『うん、でも私は...そんな人達を...騙して来たんだよ!』
『そうだよ。でも、君は悔いてるし、反省だってしてる。ねぇサリン。もしお金が必要なら教えて。全部僕が払って上げるから』
『ほ、本当? 許して...くれるの?』
『うん、僕も君を愛してるから』
『うぅぅぅ...ライトぉ...』
少女は泣き崩れた。それから場面が変わった。テレビが映っていた。
『「昨夜12:00頃、『ガート国』の王子であるライト・フィリップ・ガート様が、交通事故で亡くなりました。警察は、衝突事故としてーー」』
『ライトぉ〜〜!!!!!』
少女の声は、俺の耳の奥底まで響いた。良い響きだ。是非、自分のものにしたい。
それに、この少女はまだ改心していないな。根はまだ金の亡者だ。借金を返す為なら何だってする女だ。面白い。
この王子の事故を期に、少女は人を騙して金を奪うという行為を止めた。代わりに、居酒屋で働くようになった。
俺は、少女の様子を四六時中監視させた。失敗して怒られている所や、僅かな金で喜んでいる少女を見ると、俺は痛快な気分になった。この少女、欲しい。
ただ手に入れるだけでは面白くない。もっと苦しませたい。もっと嫌がらせたい。
偽の請求書じゃつまらないな。もうそろそろ実行に移そう。
「やっと来ましたね。何時か何時かと楽しみにしていましたよ」
此処は1人称は”私”。そして敬語でいこう。そして、戸籍も変えてやる。どうするか...妹なんてどうだろうか。
新たな名前は、名字だけを変えてやろう。下の名前は大切にしていると聞いたからな。さすがにそれだけは残しておいて上げても良いだろう。
やがて、サリンは俺の妹になった。毎晩のように抱きしめる事が出来る。虐める事が出来る。
父親の事で脅すと、少女は小動物のように小さく縮こまる。まるで可愛い子猫みたいだ。
まぁ、父親の事で脅しても、正直”嘘”としか言いようが無いんだがな。
「何故ですか? 組長」
「ん、お前知らなかったのか?」
俺はニヤリと笑ってこう言った。
「あいつの父親は俺が殺したんだよ」
頑張った。