白い世界 3
やはり、ルール的なものが存在するのだろうか、私たちはそれに抗おうとして失敗した。電車が動く、直ぐに辺りは白くなった。路線図の赤い光は7つ目と8つ目の間で光っている。
私は立ち上がってお尻をはたいてから再び椅子に腰をおろした。
少し、気づいたことがある。そして少し、気になることがある。
ケン君、テツ君、シノ君。ここまで3人の男の子がこの電車に乗った。彼らの年齢には法則性があることに気づいた。ケン君は5歳、テツ君は8歳、シノ君は11歳。3歳ずつ歳が増していっている。それは何故だかはわからない。だから今から考えるんだ。次、気になること。先程はシノ君が自分が死んだ事を自覚しているのに驚いて見落としてしまっていた。あの時シノ君は確かこう言った。
──はぁ、また死んじゃった。
また死んだ。ここまでおかしな言葉はないだろう。ゲーム内での話であれば話は別だが、ここはそうじゃない。また死ぬ、そんなことを言えるのは命がゲームみたいに複数あったのか、あるいは生まれ変わりでもしたのか。考えるなら当然後者である。
その理由としてさらにシノ君の「こんにちはカノ、俺はシノ、11歳になったよ」という言葉が挙げられる。まず一に彼は私の名前を知っていた。何故私の名前を知っていたのか?生きていた時の私にあったことがあればもちろん名前くらいわかるだろう。だがそれはあまりにも可能性が低い、ありえないと言えなくもないほどだ。そもそも私とシノ君が同じ時代を生きていた事自体が果てしなく考えにくい、この考えは確実ではないけれど、シノ君は私よりもあとの時代を生きていたと思う。だから私とシノ君が出会っているとは考えにくい。それにきっと……シノ君は――
11歳になったよ。
私はその言葉を言った時の彼の様子を鮮明に思い出す。こんにちはカノ、俺はシノ、11歳になったよ。……まるで自分が成長したのを報告するかのような口調。彼と私が以前会っているのだとするのなら、それは少なからず彼が今よりある程度幼かった頃だ。それこそ、3つ程若かった頃だとしよう。
彼、シノ君は……テツ君なのではないだろうか。私の考えはどうかしているかな、聞ける人がいない以上、私の考えを信じれる人は私しかいない。
3歳ずつ年をとって現れた、改めてこの法則性と私の考えを結びつけると、ケン君、きっと彼もテツ君であり、シノ君じゃないかと……流石にこれは自分でも無理があると思うが、なにしろ手がかりが少ない。ただ、そうであってもおかしくはないと、何故だかそんな自信が私にはあった。
「……ふー」
コレ以上は、本人に答え合わせをする他ないな。私は背伸びをして大きく深呼吸をした。自然と視線が上にいき、路線図が8つめの駅に停車することを示しているのに気づく。もしここで14歳の男の子が乗ってきたのなら、私は自分の考えをもうさらに信じてもいいだろうか。
ドアが開放され、一人の少年が姿を見せた。その子は暗い足取りで電車に乗ってくる、今までとはうってかわって大人しそうな少年だ。
「あ、こんにちは」
「こんにちは、私はカノ」
君の名前、教えて欲しいな。
私がそう言うよりも先に、彼は頷いて優しく微笑んだ。
「知ってるよ、カノ。また会っちゃったね……」
その少年は今までとは違う、この状況を既に理解しているかのような落ち着き様だった。
「僕の名前はミヤ、14歳になったんだ」
14歳。やっぱり……なんて予想が正しかった事は、今の瞬間で小さなことになってしまった。
「シノ君、なんだね」
ミヤ君は頷いて言った。
「テツ、ケンも僕だよカノ。今になって、何故だか全部わかるんだ。だから、こうしてここにいることがとても悲しい」
「ミヤ君……」
私はとりあえず彼をとなりに座らせると一息ついた。
「僕はまた死んでしまったんだね」
「うん……」
一言喋る度にちょっとした沈黙が訪れる。ミヤ君は、とても悲しそうだった。何しろ生まれ変わっても少ししか生きれない人生というものを繰り返しているんだ。出口のない迷路に迷い込んだかのような、そんな気持ちかもしれない。
彼はケン君、テツ君、シノ君として生きている記憶はとても曖昧だが、ここで私と話した記憶はそれよりも少しだけ覚えているらしい。
路線図は9つめの駅の手前を示している。なんだか、会話が弾まない。会話が弾むような場所でも状況でもないのだが、色々と聞きたかったことが、聞かなくてもよくなってしまった。彼も彼で、元気なわけもないし。
「ねぇ、カノはどうしてここにいるの?」
少しだけ落ち着いた様子のミヤ君が顔を上げて言った。
「よく、わからないんだけど……ここから出ようとすると凄く怖くなるんだ。白いホームに降りるつもりなのに、暗い闇に落ちようとする自分を感じちゃって……」
「そう、なんだ……えと、ごめんねカノ。質問の仕方が悪かったんだけど、どうして死んでしまったのかなって聞きたくて……ってこれじゃ質問自体が悪いね、ごめん」
「ううん、気にしないで。でもごめんね、その質問には答えられないんだ。私は私が何故死んでしまったのかが思い出せないんだよ」
落下死や即死の事故ではその事実は把握しにくそうな感じはした、溺死はその逆……しかし全く思い出せないとなると、何か特殊な死因なのか。
「そうなんだ……」
「うん」
また、しばらくの沈黙。
「……ケンは」
ぼそっと、ミヤ君が呟くように言った。
「ケンは何歳だったの?そこの記憶がかなり曖昧なんだ」
「ケン君は5歳だったよ」
「テツは?」
「8歳だった」
「シノは……11歳?」
「うん」
そっか……と、ミヤ君は重い溜息をついた。
「次に死ぬのは17歳の時かな」
「──」
返す言葉がなかった。そうだ、その法則性は未来にも充分に当てはまる。今回は14歳まであった寿命が、次回は17歳に伸びるのだ。高校生活最後の一年を終えられずに彼は死ぬ。
「やだなぁ……死にたくないよ」
路線図は依然として中間で点滅しているが、もうじき到着するだろう。
「──大丈夫だよ」
半分無意識に言っていた。




