遥香#3
んー…お姉ちゃんと冬騎の様子が何か変。
今が11月だから2ヶ月くらい前
2学期始まってちょっとの頃からだ。
9月の中頃のいつだったか
お姉ちゃんの目が
真っ赤になってた日があった。
冬騎が一緒にいて
何かあったのー?って聞いてみたけど
ゴミ入っちゃった、って笑ってた。
眼鏡かけてんじゃんって
駿が突っ込んで
冬騎がいや、眼鏡関係ないって笑って
みんなで笑った日。
あのときのお姉ちゃんの目は
両目とも泣きはらしたみたいに赤くて
笑ってるのに、目が少し潤んでて
見とれちゃうくらい綺麗だった。
そう、あの日くらいからだ。
なーんかもやもやするよ……
うぅ、それにしても
山奥って夏は涼しめだけど
冬は寒すぎるよぉ。
11月だけど、朝なんか本当寒くて
毛糸のセーターとかで
防寒しなきゃやってらんない……
教室にだれかいて
暖房つけてくれてたら嬉しいなぁ…
とりあえず、早く教室行こっと。
廊下を歩いてたら、誰かの声が聞こえた。
……駿?あれ、何か怒ってる?
自然と足が速くなる。
教室に着いたけど、ドアのところで
固まってしまった。
駿が冬騎に掴みかかっている。
…って、固まってる場合じゃないよ!
ばか、何やってんの…
その言葉が喉まで出かかってつっかえた。
「この村が失くなる!?
どういうことだ、冬騎!!!」
…………へ?
「何で、何でお前が知ってんだよ!?
何で俺らは知らねーんだよ!!」
駿はそれからも冬騎を責めてたけど
冬騎は何も言い返さなかったし
私は失くなるって言葉が
ぐるぐる回って、それどころじゃなかった。
この村が、失くなる?天宮村が?
何で、どういうこと…?
動かない。心も体も動けない。
駿の荒っぽい仕草に
どたんっと鈍い音をたてた机のおかげで
駿が冬騎から手を放し
こっちを見たのが分かった。
駿の怒りに満ちた目が
私を捉えて、少し驚きを帯びたけど
何も言うこともなく
教室を出て行ってしまった。
でもまだ動けない。
冬騎も俯いて立ったままだ。
静かすぎる時間がただ過ぎていく…
枯れた森から吹き込んだ風だけが音をたてて
冷たく私たちを包んだ。