冬騎#2
山ばっかりの天宮の近く海はないから
4人で森に行くことにした。
遥香が1番嬉しそうにしている。
何だかんだ言ってるけど
遥香って駿に優しいんだよね。
勉強でくさってた駿を何とか連れ出そうと
無理やり僕らも誘ったわけだし。
でも、それを言ったら遥香はきっと
「ふ、冬騎?!何言ってんの?!
大丈夫!?」
とか言って誤魔化すんだろうな。
まぁ、遥香は素直じゃないけどいい子だ。
あぁ、駿が絡んでなければ素直だな。
駿も根はすっごいいい奴だ。
問題は…あぁ、問題とか言っちゃだめか…
何だかなぁ、いい子なんだけどな。
話してみれば普通の子なのに、夜影さん。
ってか、僕、何か夜影さんのことばっか
考えてないか?
いや、気になるのは確かだけど……
「つーいた!」
また馬鹿なことを考えていたら
やっと森を抜けて、小高い丘に着いていた。
遥香が弾んだ声を上げる。
すごい嬉しそうだから、こっちまで
おすそ分けされたみたいに嬉しい。
あちぃだの、だりぃだの呟いてる駿も
実は遥香を見ていて
悪くない気分になってるのが分かる。
本当、あいつも素直じゃない。
…やっぱり夜影さんは
あんまり表情が変わってないけど。
ちょっと、頬が赤くなってるかな……
って、だから僕は何を見てんだ。
あれ?夜影さんも微かに笑ってる?
遥香を見て。何か嬉しそうだ。
……もしかして?
丘から見える景色
(って言ったって、森ばっかりだけど)を見て
何故かはしゃいでる遥香と
それを気だるげに、楽しげに見ている駿を
ほっといて夜影さんに話しかける。
「あ、あのさ」
「…はい?」
間があった。ちょっと怯みそうだ。でも…
「間違ってたら失礼なんだけど、あのさ
夜影さん、恥ずかしがりだったり…する?」
「…………!」
あっ、真っ赤になっちゃった。
色が白い人って赤くなると目立つなぁ。
「あ、えと、な、何で?」
「遥香見て、笑ってたから?
あと、返事まで時間がかかるのって
何かてんぱって考えちゃってんのかなって」
思ったことをそのまま口に出すと
夜影さんは真っ赤な顔のまま俯いちゃった。
あぁ、でも合ってるんだ。
ただ恥ずかしがりで、無愛想なわけじゃなく
てんぱってたわけだ。
よかった、嫌われてたわけじゃなさそう。
「あ、あの、ご、ごめんね?
なるべく話そうとは思ってるんだけど
わ、私の話、面白くないから…」
うわっ、かわいい。綺麗な人だから余計に。
とりあえず笑っておく。
「別に誰も気にしないよ。
夜影さんが来てくれてよかったし。
でも、せっかくだから、話したいし
無理せずやってこ?」
うっわ、模範的な解答。
言ってて恥ずかしくなってくる。
でも、うんって頷いてくれた夜影さんが
見たこともないほど
リラックスしてる感じだったから、いいや。
「冬騎ー、お姉ちゃんー!
こっちおいでよー!!」
遥香に呼ばれた。
慌てて夜影さんと2人で遥香のとこまで行き
全員で丘からの景色を楽しむ。
本当に森しか見えないのだけど
遥香がにこにこしてるから
それだけで場が明るくなった感じだ。
僕もさっきの会話のおかげで
ちょっと気分がいい。
「気持ちいーねー、天気もいいし。
また来年もみんなでこよっ、ね?」
「来年は俺ら高校生なんだけど」
「いいの、どうせ駿は暇でしょ。
2人は暇じゃないかもだけど
ここにくるくらい、いいよね?」
あーあ、駿が軽んじられてるよ。
地味に悔しそうにしてる。
いつもいじめるてるからそうなるんだぞ。
「もちろん。いいとこだよね、ここ」
「…私も、来たい」
駿が夜影さんの声を聞いて
ちょっと驚いてる。僕も驚いた。
遥香も驚いたようだけど
それでも無邪気に、夏の日差しくらい
明るい笑顔で喜んでた。
まぁ、僕らも嬉しいんだけど。
夜影さんも笑ってくれてるし。
でも、そのあと夜影さんは
ほんの一瞬だけ、何かをこらえてるみたいな
辛そうな顔になってた。
……何かあったのだろうか…
僕以外は気づいてないみたいだ。
ちょうどそのときから
輝くばかりの太陽が、雲に隠されて
雲行きが少しずつ怪しくなってきた。
また色んなものがひっかかったけど
僕らはとりあえず急いで家に帰った。