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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
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一章 メイザース学園生徒会(6)

 メイザース学園高等部には複数の建物が林立していて、ほとんどが渡り廊下で繋がっている。第二校舎が一・二年生、第三校舎が三年生の教室棟となっていて、いくつもある特別棟の中には恐らく一生入ることのない場所もあるだろう。

 魁人が連れてこられたのは第二校舎の屋上だった。ここは不良たちのテリトリーと化しているらしく、一般に解放されているのにも関わらず普通の生徒が近づくことは少ないと聞く。

 よって、見渡すかぎり誰もいない。魁人と、貝崎とかいう不良を除いては。

「かはっ!?」

 魁人はコンクリートの床に乱暴に叩きつけられて呻いた。

「さてと、まずは有り金ぜぇーんぶ出してもらおうか。痛くて怖ぁい思いをしたくなければな」

 指をポキポキと鳴らして脅してくる貝崎を、魁人は歯を強く噛み締めて睨め上げた。

 これはいわゆるカツアゲとかいうものだろう。学園内で行うなど、もし教師に見つかったら最低でも停学は免れない。ただの馬鹿か、それほど余裕があるのか、見た感じ馬鹿とは思えないので恐らく後者だろう。証拠に、貝崎を取り巻いていた不良仲間は全員階段室で見張りをしている。

 だから一応、今はこの不良のリーダーと二人っきり。対等に言えば一対一だ。

 魁人だって喧嘩の経験が全くないというわけではない。経験は向こうの方が上だろうが、一対一ならまだ勝ち目はある。

 だが、たとえ目の前の一人を倒したとしても階段室には五人ほどいるわけで、二人ならまだしも、三人以上となると勝てる確率はゼロどころかマイナス方向に急降下である。

(――どうする)

 どうすれば、ここから逃げれる?

「おい、早くしろや。まさか、金持ってきてませんとか言わねえよな? そうなるとてめえをサンドバックにした後で他の奴を探すことになるが」

 どうせ金を渡してもサンドバックにされるに違いない。こいつはそういうやつだろうし、さっきの野次馬たちの会話からもカモにされた者の末路は想像できる。

(こうなったら、もうやるしかない!)

 金は出さない。サンドバックにもなるつもりはない。戦う振りをして、隙をついて逃げよう。見張りの不良たちは、まあ一気に駆け抜ければあるいは逃げ切れるかもしれない。幸い、足と体力には自信がある。

 魁人は立ち上がると、貝崎を睨んだまま身構えた。

「あん? 何だ、やる気か?」

「ああ、そうだよ。あんた一人くらいなら、俺にだってどうにかできる。少なくともあと二人は連れておくべきだったな」

 強気に言うも、正直勝算は低いだろう。騒いでいるうちに見張りの不良たちに気づかれたらアウトだ。その辺りを考えると、足とか今にも震えそうになる。

 すると、何が面白かったのか、貝崎はいきなり笑い出した。

「ハハハハッ! あー、それならいいんだ。いや寧ろその方が面白い。元々金盗るのはついでだったからな。まだやる気のある奴に力を使ったことがなかったんだ。今までカモにしてきた奴らは、俺を見ただけでビビっちまったからな。だから、できるだけ長持ちしてくれや」

「力? お前、何言って……!?」

 訝しげに眉を顰めた魁人の目の前で、貝崎がズボンのポケットから折り畳み式のポケットナイフを取り出した。丸腰かと思って覚悟を決めていたが、そううまくはいかないらしい。

「おまっ、ちょ、ナイフはなしだろ!?」

 一瞬で覚悟が崩れ去り、逃げ腰になる魁人。

「フン、別にこいつで刺すわけじゃねえよ。だがまあ、刺された方がよかったってことになるかもしれねえがな!」

 下卑た笑みを浮かべると、貝崎は手首を軽く振ってポケットナイフの刃を展開する。


 刹那、魁人の脇を不可視の何かが通り抜け、後ろの落下防止用のフェンスを突き破った。


「な……」

(――何だ、今のは!?)

 貝崎がナイフの刃を出した途端、ビュオッ、と見えない衝撃波のようなものが自分の横をもの凄い速さで通過した。

 いや、見えないわけではなかった。少なくとも、魁人の青く染まった瞳はそれを捉えていた。

 例の輝きだ。月夜が魔術を使った時のように、それがあのナイフと、本来見えないだろう何かに纏わりついていたのだ。しかも貝崎の中には、あの透明な炎が宿っているのが今もはっきりと見える。ということは――

「お前……『魔術師』なのか?」

「はぁ?」

 しかし貝崎の反応は『何言ってんだこいつ馬鹿じゃね?』とでも言うようなものだった。

(違うのか? じゃあ、俺が見ている光って一体……!?)

「魔術師……か」貝崎はナイフを畳みながら、「ハハハ、確かにこの力は魔法みてえなもんかもな。実際俺もこの力が何なのかわかんねえんだけどよ。まあ、次からそう呼ぶことにするわ」

 貝崎がナイフを開くと、疑問を抱く魁人の横をもう一度あの衝撃が掠る。フェンスに二つ目の穴を開けたそれに、魁人はゾッとした。

「これ……『風』か」

「正~解。――つーわけで、今度はあてるぜ。頼むから一撃で終わってくれるなよ!」

 そんなの不可能だ。風の弾丸は鉄のフェンスを突き破ったのだ。どう考えてもあたれば骨の一本や二本など簡単に砕けて下手すりゃ昇天するかもしれない。

(やばい、マジでこれやばい!)

 再び刃が開かれる。その瞬間、やはり魁人にしか見えない輝きを纏った風が射出される。見えるならかわせる、そんな甘い速度ではないし、貝崎との距離は五メートルと離れていない。

 光纏う風の衝撃波が迫りくる。

(あぁくそ! 見えるのに何もできねえってどんだけ役立たずなんだこの『魔眼』ってのは!?)

 いっそあんな光なんて見えなかったらこんな恐怖を抱かなかったかもしれないのに。このままでは、確実に死ぬ。それは、そんなのは絶対にごめんだ。

 あんな風など消え失せればいい、そう思った刹那、魁人の両眼が強い煌めきを放った。蒼海のごとく青い煌めきは数瞬と持たず空気に溶けたが、すぐに異変は起こった。


 もう眼前まで迫ってきていた風の衝撃波の光がぐにゃりと歪み、そのまま捻じ切られるように飛散してしまったのだ。衝撃は力を失い、後にはそよ風が魁人の体を撫でるだけである。


「「は?」」

 貝崎と魁人は同時に間抜けた声を吐いた。一体今何が起こったのか、貝崎はもちろん魁人にもさっぱりわからなかったのだ。

 ――不発? ――失敗? ――エネルギー切れ?

 何でもいい。とにかく助かった。だが――

「おいおいおいおいおい! 今てめえ何しやがった? まさか俺の『魔術』ってやつを打ち消したのか? ハハッ、いいじゃねえか。お前も俺と同じってことか?」


「あれが魔術ですって? 笑わせないでよ」


 その時、どこかで聞いたことのある凛とした声が響いた。


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