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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第二巻
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二章 人工生命(5)

 爆発が収まった後、生徒会室は見るも無残な姿になっていた。

「むちゃくちゃやってくれるねぇ」

 咄嗟に銀英が結界を張ってくれたおかげで魁人たちは無事だったが、生徒会室の備品やら書類やらがぐっちゃぐちゃに破壊されていた。しかもルシウスにはまんまと逃げられてしまったというおまけつき。

「逃がさん!」

 苦虫を噛み潰した形相で辻一葉が割れた窓から飛び出した。

「葵ちゃん! 一葉を追って!」

 背中にガラスの破片が刺さったままの月夜が叫ぶ。葵はコクリと頷くと、巨大化したリクと共に一葉の後を追って行った。

「月夜先輩、大丈夫ですか!?」

「うん、平気。これくらいなら」

 魁人が訊ねると月夜はなんでもなさそうに立ち上がり、チョークを一本使って自分を中心にルーン文字の魔法陣を描く。陣から淡い光が立ち昇り、月夜の背中に刺さっていたガラスの破片がポロポロと落ちていく。光が消えた時、彼女の傷は完全に塞がっていた。

「さっきの少年が三号ってやつかな」

 割れた窓から遠くを眺めつつ銀英が言う。

「あの子は一度見たわ。フィアと違って戦闘面に特化しているホムンクルスみたいね」

 紗耶が銀英の隣に並んで同じように窓の外を見る。三号――ドライと呼ばれるホムンクルスの感情のない顔を魁人は思い出し、疑問を見つける。

「あいつもホムンクルスなら、フラスコの外に出てたけど……?」

「ドライはアゾット剣を持っているのです」

「アゾット剣? なんだそれ?」

 フィアが言った聞き慣れない単語に魁人が小首を傾げると、代わりに月夜が答えてくれた。

「アゾット剣。パラケルススが持っていた錬金術の宝剣ね。となると、あの剣についていた赤い宝石が……」

「はい、マスターが作った『賢者の石』のレプリカです」

「一葉に伝えておいた方がよさそうね」

 月夜は携帯電話を取り出して操作し、耳にあてる。ドライと戦闘して万が一破壊してしまうとフィアの延命が不可能になってしまうのだ。

「ホムンクスルの延命に使うのは勿体ないとか言っておきながら、ちゃっかりやってるってわけだねぇ」

「戦闘特化のホムンクルスに持たせておくのが安全だからでしょ。それより――」

 呆れたように笑う銀英に紗耶が素っ気なく言うと、魁人に振り向いてつかつかと目の前まで歩み寄って来た。彼女は少し吊り上った両目で睨むように魁人を見る。

「あんた、もしかしてさっき魔眼を――『悪魔の視力』を発動できたんじゃない?」

「え?」

 まさかの質問に魁人は意味がわからず呆けた顔をする。確かに魔力を見ようとしたが、すぐに爆発で視界と思考を奪われていたからよく思い出せない。

「銀英の結界は、ギリギリで月夜先輩には届いてなかったわ。それなのに月夜先輩は爆発に巻き込まれていない。あの爆発は魔力によるものだったから、あんたが無意識に魔眼で操作したんじゃないの?」

「そうなのか……? いや、そんな無意識のこと訊かれてもわからないんだけど」

「まあ、それもそうね」

 紗耶は詰問をやめて魁人から一歩離れた。それから何かを思案するように顎に手を持って行く。

「やっぱり危機的状況が一番発動しやすいのかしら? 今後もその方向で実験を繰り返してみる必要があるわね」

「やめろよ殺す気か!?」

 前みたいに魔獣をけしかけられたりしたら、命がいくつあっても足りない気がする魁人である。

「ん~」

 と、通話を終えたらしい月夜が困ったような顔をする。

「完全に逃げられちゃったみたいね。一葉も葵ちゃんも一度こっちに戻ってくるって」

 あの二人でも追えなかったとは、ルシウス・ボンバストゥスはやはり相当な曲者である。

「とりあえず、生徒会室の片づけをしましょう」

「……そうですね」

 魁人は頷いた。あの爆発の後である。誰かがやってくる前に片づけておかないと大変めんどくさいことになるだろう。

「フィアも手伝ってくれるか」

「あ、はい、もちろんです」

 やる気を表現するように両手で拳を握るフィア。

 それに対して――

「はい、銀くんは早速サボろうとしない」

「え~」

 すーっと素知らぬ顔で生徒会室から出て行こうとした銀英を、月夜が「うふふ」と恐い笑顔を浮かべて捕獲していた。


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