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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第二巻
53/61

一章 赤い少女と風切りの王(5)

 彼女たちの正体はすぐに明かされることとなる。


 昼休み、魁人と紗耶は月夜詩奈つくよみしいなに呼び出されて生徒会室へと向かった。よりにもよって校内放送での呼び出しだったので周囲からの注目度が半端ない。紗耶はともかく魁人が書類上のみ生徒会役員になっていることは認知度が低過ぎるため(本人すら知らなかったのだから)、さらに妙な噂が立たないことだけを祈るしかない。

「昼休みに呼び出しって、なにかあったのか?」

「さあ? でも丁度いいわ。今朝の不審人物の報告もできるし」

 紗耶に聞いてみたが、どうやら彼女にもなにも知らされていないらしい。

 生徒会室は第一校舎――職員棟の三階に位置する。扉の前でノックをするべきか一瞬迷ったが、紗耶が我が家のようにずかずかと入室したので魁人もそれに倣った。

 他の生徒会メンバーは全員顔を揃えていた。

「急に呼びつけてごめんね、魁人くん、紗耶ちゃん」

 校長室にありそうな高価な執務机を隔ててにこやかな笑顔を見せる少女は、生徒会長の月夜詩奈。三年生。緩いウェーヴのかかった長い髪に大人っぽく整った顔立ち、机に乗っけているように見える大きな胸にはつい視線がいってしまう。

「あれ? 会長、僕には一言も謝ってないよね? おかげで学食食べ損ねたんだけど?」

 部屋の中心に位置するソファーの片側に楽に崩した姿勢で腰かけているのは、御門銀英みかどぎんえい。二年生。銀色に染めた髪と軽薄な笑顔がチンピラっぽいが、あのように見えて生徒会副会長である。

「……寧ろ昨日の業務をサボった銀が謝るべき」

 それから彼の後ろで秘書のように直立しているポニーテールの少女が、生徒会会計の藤林葵ふじばやしあおい。同じく二年生。彼女は白と青の毛並みをした子犬をぬいぐるみのように抱いていた。が、あれはぬいぐるみでも『犬』でもない。氷狼の魔獣――彼女の使い魔だ。名前はリク。

 そしてこの生徒会室にはもう二人、役員ではない者たちがいた。

「やあ、思っていたよりも早く再開できたな」

「あの、あの時はごめんなさいです」

 銀英の対面のソファーに、背が高いショートヘアーの女子生徒と赤い髪の小柄な少女が座っていたのだ。

 すっと紗耶が目を細くする。

「あなたたち、今朝の不審者」

「おいおい、不審者とは失礼だな。私は立派にこの学園の生徒だぞ?」

 心外そうに両腕を広げて学園の制服を見せる女子生徒だが、紗耶は『そんなものはいくらでも偽装できる』とでも言いたげに警戒を解かない。

 ここは訳を知っている人に訊くべきだろう。そう判断し、魁人は月夜を見る。

「月夜先輩、この人たちは?」

 紗耶と女子生徒との遣り取りをどこかハラハラした表情で見ていた月夜詩奈は、なにかを覚悟するように一呼吸置いてから口を開いた。

「えっとね、この二人がみんなを収集した理由なの。魁人くんと紗耶ちゃんは一年生だからまだ知らないと思うけど、彼女は――」

「いい、月夜。自己紹介くらい自分でできる」

 紹介しようとする月夜を女子生徒が手で制した。それから静かにソファーから立ち上がると、腰に片手をあてて気さくな感じに自己紹介をする。

「私は辻一葉つじかずは。月夜の友人で三年生。生徒会役員ではないが、風紀委員長をやっている」

「ふ、風紀委員長!?」

 メイザース学園は魔術師が管理しているが、表向きは一般人の集う普通の学園だ。魔脈の影響を受けて能力が開花してしまった一般人は、記憶と能力を封じられてしまうか、生徒会の支援を行う組織に属するかに分かれる。

 その組織が風紀委員なのだ。

 彼女はその風紀委員の長と名乗った。

(この人も、魔術師?)

 それとも、能力を開花させた一般人なのだろうか?

「辻? 『辻』ってまさか、あの辻家のこと?」

 眉をピクつかせた紗耶は、なにか知っているようだ。

 辻一葉は感心したように口元を斜に構えた。

「その通り。流石は神代家のご令嬢。よく知っている」

「辻家のことならウチの下っ端でも名前くらいは知ってるわ」

 家同士の付き合いでもあるのだろうかと思った魁人だが、対面する紗耶と一葉のピリピリとした空気からとても友好的な関係ではないと悟る。

 友人ではなく、数年振りに再開したライバルのような雰囲気だ。赤毛の少女――確かフィアと呼ばれていた――も怯えているのか、身を縮めて様子を見ていた。

「紗耶、辻家って?」

「紗耶の同業者。つまり退魔師ってことだねぇ」

 答えたのは紗耶ではなく、生徒会室に満ちた険呑な空気など露ほども感じていない風に寛ぐ御門銀英だった。

「それも日本において最高位に並ぶ四家の一つね」

 月夜が捕捉的に言葉を引き継ぐ。

「最高位の四家……?」

「……石動いするぎ家、沓薙くつなぎ家、神代かみしろ家、つじ家のこと。神代家と辻家は意見の相違からよく衝突していることで有名」

 葵が淡々とした機械のような感情の薄い口調で答えた。そして無表情のまま指を差される。同時にリクも真似するように前足を魁人に向けた。

「魁人は無知」

「し、仕方ないですよ。俺は元々そっち側じゃないんですから」

 魁人は生徒会を手伝うにあたって必要最低限の魔術的知識の勉強を望んではいる。いるが、魔術世界の世間事情まで首を突っ込むつもりはなかった。

「で? 辻家の者があたしたちになんの用?」

 冷めた視線を送る紗耶の態度からして、憎んでこそいないものの本当に辻家を嫌っているようだった。

「君たちというか、生徒会に用があるんだ。辻家としてではなく、辻一葉個人として」

 一葉ははっきりとそう告げると、家族に向けるような優しげな目をして隣の赤い少女を見た。その様子に銀英が面倒臭いとでも言いたげに銀髪を掻く。

「どうもその子が関係してるって感じだねぇ、辻風紀委員長」

「ああ、この子を学園に編入させることになった。教師側の手続きは済んでるからその点は問題ない。生徒会の手続きは既に月夜がやってくれているしな」

「……なら、私たちになにをさせたい?」

 葵が無感情なまま問う。彼女の胸に抱かれているリクは、円らな赤い瞳にフィアを映していた。

「率直に言うと、この子を――フィアを保護してもらいたい」

「保護? どうしてですか?」

 裏に物騒な事件が絡んでそうな言葉に魁人は眉を顰めた。

「羽柴魁人君、君はその魔眼で見抜いているだろう? この子が人間じゃないって」

「なんで俺の目のことを……?」

「月夜から粗方の話は聞いている」

 だから名前も知っていたのか、と魁人は得心がいった。

「御堂先生の件では協力できず済まなかった。丁度実家の関係で学園を空けていてね。まあ、それは置いといて、君はこの子をどう思っている?」

 訊かれ、魁人はしばし逡巡した後に素直に答えることにした。

「正直、魔獣なのかと思ってます」

「同感だね。邪気はないみたいだけど」

「ち、違います! わたし、魔獣じゃない、です!」

 あくまで軽薄さを崩さずに銀英が同意すると、緊張していたのかこれまで黙っていたフィアが血相を変えて立ち上がった。

 退治されると勘違いしたのか、顔を青くしたフィアはたどたどしく口を開き――


「わたし……ホムンクルス、です」


 自分の正体を暴露した。

「「「!」」」

 魁人、紗耶、銀英の三人は驚愕に目を見開く。

「ホムンクルス、ヨーロッパ系の錬金術師たちが作り出す人工生命のことね。生まれながらにしてあらゆる知識を身につけていたり、フラスコ内でしか生存できないって言われているわ。魁人くんも名前くらいは聞いたことあるでしょう?」

「はい、一応は」

 漫画やゲームではよく登場する名前だ。魔術世界が存在しているのだからいても不思議はないと思っていた魁人だったが、目の前の少女がそうだなどとは微塵も想像していなかった。

 一葉がフィアの頭をくしゃくしゃと撫でて落ち着かせる。

「どうやらこの子、どっかの錬金術師の研究所から脱走してきたらしいんだ。研究所(フラスコ)から出てしまったことで死にかけていたこの子を私が見つけ、月夜が治癒のルーンで回復させたんだ」

「大変だったんだよ。人間じゃない、ましてはホムンクルスが生きられるフラスコに近い環境を整えるの。今は同じ環境を発生させるルーンをブラクテアートに刻んで持たせてるから、普通に動き回れる状態ってわけね。応急処置みたいなものだけど」

「それを一晩でやってのける月夜は天才だよ」

「ふふっ。誉めてもなにも出ないわよ」

 心の底から相手のことを信頼しているように微笑む月夜と一葉。いつからこの二人は知り合いなのだろうかと少しだけ気になった魁人である。

「要するに、その錬金術師から保護すればいいってことかい?」

「うん、簡単に言うとそうなる」一葉は銀英に一つ頷き、「聞いた話、そいつは平気で子供を誘拐して人体実験するような下衆らしい。そんな奴にフィアを渡すわけにはいかない」

 魁人の脳裏にかつて生徒たちを操って殺し合いをさせようとした御堂の顔が浮かんだ。

「う~ん、どうするつもりだい、会長?」

「どうするもなにも、私たちの仕事は変わらないわよ、銀くん」

「銀、その子が学園の生徒になるのなら、守るのは生徒会の役目」

「だよねぇ。また今回もサボれない雰囲気がしてきた」

 生徒会の先輩たちは依頼を引き受けるつもりでいるようだが、一人だけ納得していない者がいた。

「腑に落ちないわ」

 紗耶だ。

「金のためなら必要でない限り魔獣でも人間でも粉微塵になるまで殺し尽くす残虐な辻家が、どうしてその子を護ろうとするわけ? 誰かからの依頼でもなんでもないんでしょ?」

 視線をより鋭くさせて紗耶は一葉を射る。一葉は聞き分けのない子供を見るような目で溜息をついた。

「随分と屑だと思われているみたいで残念だよ。――さっきも言っただろう、家は関係ない。私個人がこの子を救いたいんだ」

「なぜ?」

「私を辻家としてしか見られない今の君には、話しても到底信じてもらえないだろう」

 再び険悪な空気が生徒会室を支配する。爆発寸前の時限爆弾が目の前に置かれているような状況に、魁人は急激にこの場から逃走したくなった。

「紗耶ちゃん、落ち着いて。一葉は紗耶ちゃんが思ってるほど性格悪くないから」

「いや月夜、そのフォローだと多少は性格悪いと言ってるようなものだぞ」

「月夜先輩には悪いけど、あたしはこいつを信用できません」

 あからさまな敵意。

 ただ単に意見が合わないというだけじゃない嫌悪感がそこにあった。

(神代家と辻家との間になにかあったのか?)

 などという愚考を魁人は口にはしない。それがトリガーとなって爆弾を起爆させかねないと判断したからだ。

「ふむ、君の敵意をどうにかしないと話にもならないか。……なら、こうしよう」

 やれやれというように肩を竦め、一葉は怯えるフィアを優しく抱き寄せて紗耶を睨む。


「神代紗耶君、少しばかり私と手合わせしないか?」


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