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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第二巻
49/61

一章 赤い少女と風切りの王(1)

 私立メイザース学園。

 この街――那縁市にある併設型の中高一貫校にして、とりわけ広い敷地面積を所有している学園である。偏差値もそこそこであり、毎年他県からも多くの学生たちが入学してくる有名校でもある。

 ただ、この学園には裏の顔がある。

 魔脈と呼ばれる、世界の魔力が循環している場所の上に建っているのだ。その影響は様々であり、人に異能の力を与えることもあれば、人外の怪物を引き寄せてしまうこともある。後者はもちろん、前者も度が過ぎる力を得た人間は悪行に手を染めてしまうことも多い。放っておけばヤンキー漫画の不良学校よりも廃れた地獄のような人外魔境が完成することだろう。

 よって、そういった脅威から学園を守護する契約を行った者たちがいる。

 生徒会魔術師。

 生徒にして、魔術のプロ。

 彼らはそれぞれ得意とする魔術を用い、今日も人知れず学園の脅威排除の任を執行している。

 

「ありえないありえないありえないありえないありえないぃいっ!!」

 那縁市住宅街の路上を、羽柴魁人は全力で疾走していた。メイザース学園の制服を身に纏ったどこにでもいる男子高校生は、なにかから逃げるように表情を歪め、汗を流し、必死に足を前へと動かしている。

 いや、逃げるようにではなく、本当に逃げているのだ。

 何から?

 それは魁人の背後から物凄い勢いで転がり迫る大玉からである。

(ふざけんなよ! 何で俺がこんな目に合わないといけないんだよ!)

 先日、生徒会魔術師に協力すると言った魁人だが、こんな前線に駆り出されるなど聞いていない。

 というか、そもそもこれは生徒会の仕事ではない。

 速度を落とさぬまま振り返る。瞬間、魁人の両瞳が青色に染まった。背後の大玉には透明な光が血管のように張り巡らされており、その中心部にやはり透明な炎が見える。

 あれは魁人にしか見えない光――魔力の光だ。

悪魔の視力(デモンズサイト)』。そう呼ばれる力が魁人の両目には宿っている。要するに魔眼だ。普段は魔力が透明な光となって映るだけの魔眼だが、真の力は視界に映るあらゆる魔力に込められている意思を上書きすること。しかし、魁人はその力をかつて一度しか使用したことがない。

 毒虫に殺し合いをさせることで強力な『呪い』を生む呪術――巫蠱術を人間で行おうとした外道極まる魔術師と相対した時だ。

 その時は覚醒した魔眼の圧倒的な力で儀式を阻止することができた。が、それ以降、魁人の魔眼はただ魔力が見えるだけの力に戻ってしまった。

 それでも、後ろから迫りくる大玉が何なのかわかる。

 あれは魔獣だ。

 魔脈に惹かれて湧いて出た人に害成す存在だ。逃げなければ魁人など一瞬で食い殺されてしまう。

「しまった、行き止まり……!」

 前方左右が高い塀で囲まれている。何ともベタな展開だが、それは仕方がない。魁人はこの那縁市に来たばかりで土地勘など皆無なのだから。

「うっ……」

 振り返れば大玉がすぐそこまで転がり迫っていた。道幅は狭く、大玉の全身がギリギリで入る程度。よって逃げ場はない。文字通り八方塞がりだ。

 巨大なブルドーザーが突っ込んでくるような轟音に、魁人は数秒後の自分の死を幻視する。

(止まれ! 消えろ!)

 強く念じる。前はこうすれば魔眼の力で魔獣を抹消することができた。でも、今は何も発動しない。魔眼は静かに魔力の光を映すだけだった。

 突如、大玉が縦に開くように変形する。その内側から露わになった幾本もの足がグロテスクにカサカサと動き、頭部についた緑色に光る小さな二つの目玉が魁人を獲物として捉える。

 大玉の正体は巨大なダンゴ虫。吐き気がするほど気持ちが悪い。

 目玉の下にある口から触手のようなものが伸びる。魁人の体を貫き、体液を吸うのだろうという嫌な予想が一瞬の間に何度も脳裏を駆け巡る。

 その時だった。

 触手を伸ばしていた大ダンゴ虫が、唐突に蒼く炎上した。

 そして――斬、と。

 目にも留まらぬ剣閃が、大ダンゴ虫の体を真っ二つに切断した。


「ダメね。全然ダメ。あんたやる気あるの? そんなんじゃいつまで経っても魔眼は使いこなせないわよ」


 蒼い炎に包まれて消失する魔獣を背に、日本刀を携えた少女が凛然と歩み寄ってきた。

 


 

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