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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
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四章 悪魔の視力(7)

「やった! 紗耶ちゃん動くから狙いがつけにくかったけど、タイミングばっちりね」

 そんな月夜のガッツポーズでもしてそうな声を横から聞きながら、魁人は銀英に頼まれた『穴』探しをやっていた。

 大火事になりそうで、しかしそれ以上燃え広がることのない炎の壁――〈降魔障壁〉とか銀英が言っていた――は、魔術そのものなだけに魔力の塊だった。

 正直、色のついた光体の中に魔力である透明な輝きを『見る』ことはかなり意識を魔眼に集中する必要がある。見えないわけではないので、ちゃんと意識すればはっきりと映った。

 だが、はっきりとしているだけに、探し物の有無もはっきりとわかる。

「……ない」

 絶望的な表情で、魁人は呟いた。

「抜けれそうなとこなんて、どこにもないじゃないか」

 巳堂のいる側へ行けないことには、この戦いは終わらない。それは銀英たちの戦闘を見ていたら理解できる。終わるとすれば、こちらが消耗して殺される時だけ。紗耶の動きを止めたからといって、そこは変わらない。

 この状況を何とかしたいが、魁人には致命傷を与えないように手加減して生徒たちと戦っている銀英たちを眺めることしかできなかった。

「月夜先輩、あの炎の壁、どうにか破ることはできないんですか?」

 魁人は訊ねる。返ってくる答えが自分にもやれることだと期待して。方法があればとっくにやっているだろうことも理解した上で、訊ねる。

「私たちには無理かな」

 わかっていた。そう返ってくることは何となくわかっていた。

「私の術じゃ弱すぎるし、銀くんの魔術は御札だから、発動前に燃やされちゃう。破魔の炎をリクちゃんが突破することはできない。ついでに言えば、この体育館が蠱術の『皿』として機能している以上、外にも出られない。あははー、手の打ちようがないわね」

「笑ってる場合じゃないですよ!」

 月夜に余裕があるとは思えない。人間、本当にどうしようもない時にはつい笑いたくなってしまうのだろう。

 だが、魁人は諦めない。笑えない。諦めてしまえば、立ち向かうと決めた自分を否定してしまう。

 月夜だって諦めてなどいないはずだ。証拠に、彼女はチョークを一本ずつ削って向こうの援護を怠っていない。チョーク一本で人一人束縛できるみたいだが、紗耶については三本使っていた。それは本数を増やせば増やすほど術が強固になるということらしい。

 あとどれほどストックがあるのかは知らないが、なくなる前に何か策を見つけなければ……。

(何か、何かあるはずだ。魔術だって完璧じゃないんだろ? だったら、その何かを、俺が見つけるんだ!)

 自分にしか見えない世界からそれを探し出す。魁人は炎壁を凝視した。一点でいい、あの壁に一点でも魔力の綻びがあればどうにかなるかもしれない。だが――

「んんー? はぁー柴魁人君! あぁーなたはその魔眼で何をしようというのですかぁ? 何もできないとは思いますが、とりあえず先に潰しておきましょうかねぇ!」

「――ッ!?」

 いつの間にか、魁人と月夜は周囲を操られた生徒たちに取り囲まれていた。月夜は銀英たちの援護に集中を割いていたし、魁人は炎壁ばかりに注意が行っていたため彼らの接近に気づかなかったのだ。

 魁人の首に手が伸びてくる。咄嗟にその手首を掴むと、柔道でもするように相手を投げ倒した。見ると、体操着を着た女子生徒だった。女の子にこんなことするのはいい気分ではないが、やらなければ殺されるので仕方ない。

 一時凌ぎに過ぎないことは十分理解しているのだけれど……。

「きゃっ!?」

 月夜の短い悲鳴が聞こえて魁人は反射的に振り返った。そこでは大柄な男子生徒――恐らくバスケ部員――が、その筋肉質な腕を月夜の背後から首に巻きつけるようにしていた。月夜は巻きついてきた腕と首の間に自分の細腕を入れていて、完全に絞まることだけはどうにか防いでいる。

 だが、彼女よりも二十センチは背の高い男子にそんなことをされては爪先立ちになる他なく、彼女は完全な死に体をさらしている。そこへ他の生徒たちが動きの鈍い蟻のように群がっていく。

「月夜先輩!」

 魁人はまず月夜の首に絡みついていた腕を力づくで引き剥がし、その腕の主をとりあえず蹴り飛ばす。そして群がってきた生徒たちも、投げたり突き飛ばしたり、時には殴ったりして倒していく。もちろんすぐに起き上がってくるが……。

 もし彼らが人並みの動きをしていたら二人とも呆気なくやられていたことだろう。

「あ、ありがとう、魁人くん」

「いえ。ていうか、月夜先輩は体術とかできないんですか?」

「あはは、あんまり得意じゃないかな」

 意外に思ったがそれが普通なのかもしれない。魔術師はあくまで『魔』術を使うのであって、『体』術を使う者ではないだろうから。

 となると、弱虫を嫌っていた紗耶がなぜ彼女を慕っているのかと疑問に思わなくもないが、そこは今考えることではない。まあ、彼女は別に『弱虫』ってわけでもないし。

「それよりも、ごめんね。今ので紗耶ちゃんを放しちゃった。ほら、チョークのルーンって簡単に消えちゃうから」

 済まなさそうに月夜は打ち明けてきた。見ると、紗耶がまた銀英たちを襲っている。ルーンは文字そのものを刻むだけで効果があると聞いたが、やはり術者とはリンクしているらしい。

 紗耶の火炎を結界のようなもので防ぎ、銀英が言ってくる。

「魁人、どこか抜けられそうなところはあったかい? あと会長はしっかり紗耶を抑えていてほしいねえ」

 彼の声にはまだ余裕があるように思えた。

「まだ見つかってません。でも、絶対に探してみせます!」

 力強く言うと、彼は『期待してるよ』と言いながら紗耶の剣閃をかわす。その紗耶に葵を乗せたリクが口から吹雪のようなものを吐き出すが、紗耶の炎がそれを呑み消した。

 第三者の位置だったら思わず見入ってしまうだろう戦闘から目を離し、魁人は再度炎の壁ににらめっこを挑む。

(そうだ、俺は早く魔力の『穴』を見つけないと!)

しかし、そんなことさせないように、再び誰かの手が横から魁人の首を絞めようと伸びてくる。

「く、また――!?」

 振り返る勢いでその手を弾こうとした魁人だが、そこにいた人物を見て硬直する。


 鈴瀬明穂だった。


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