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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
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四章 悪魔の視力(6)

 紗耶以外の生徒たちも、一斉に行動を始めた。全員が殺し合いを始めるのではなく、巳堂の意思通りに生徒会魔術師から殺すつもりらしい。

 まるでゾンビのようにおぼろげな足取りだが、こちらが彼らに殺せない以上、厄介であることには変わらない。

「葵、リクに乗って一気に奴のところへ。こっちは僕が何とかするよ」

「わかった」

 承知し、葵は飛び乗るように素早くリクに跨る。リクの脚力ならば、巳堂のところまで一っ飛びで行くことだって容易いだろう。だが――

「そぉーはさせませんよ!」

 巳堂が眼鏡を煌めかすと、紗耶が蒼炎龍牙を天井へ向けるように翳した。次の瞬間、刀身の炎が膨張し、火山が噴火したような炎の奔流を噴射する。それはあたかも蒼い龍が天へと昇るようにも見えた。

 ある程度昇ったところで炎は重力に引っ張られるように弧を描き、ステージの前方に着弾。そのまま横方向へと不自然に燃え広がり、巳堂とこちら側を隔離するように高く炎上する。

 破魔の炎である〈蒼炎〉は、仮にも魔獣であるリクにとって文字通り『越えられない壁』を形成したのだ。

「〈降魔障壁〉。……ここまでの術が使えるのなら、ちょっと僕らまずいかもしれないよ」

「銀、どうする?」

「どうするってそりゃあ――!?」

 魔力の流れを感知し、銀英と葵を乗せたリクは左右に飛んだ。ブゥオン! と空間ごと斬ってしまいそうな音を立て、今までいた場所の空気を紗耶の蒼炎龍牙が薙ぐ。

 そのまま彼女は葵とリクを狙って跳躍。刃を振り回し、蒼い炎を乱射する。が、葵たちは素早く複雑に動いてそのことごとくをかわした。外れた炎は床や壁に触れても引火することはなく、焦げ目だけ残して消えていく。

 紗耶は明らかに他と動きが違う。これが『親』の力ということか。銀英がそんなことを考えていると、いつの間にか背後に近づいていた男子テニス部員が両手で首を絞めてきた。こちらは紗耶と違って単純な動きだ。

 絞める力は強かったが、それで殺される銀英ではない。すぐさま振り解くと、流れるような動きでテニス部員の鳩尾付近に掌底を叩き込む。その際に除霊の護符を貼りつけたが、同じ憑きものでも呪いに対しては効果がないかもしれない。

 案の定、吹き飛んだテニス部員は何事もなかったかのように起き上がってきた。――いや、それはおかしい。

「完全に意識を奪うつもりだったんだけどなぁ。あー、そうか。最初から意識なんてないんだった」

 つまり自分を取り囲もうとしている彼らは、殺されるまで動き続けるということだ。本当にゾンビのようである。

 さらに何人か纏わりついてきた生徒たちにも普通なら気絶するほどの打撃をくらわせたが、誰もが何の問題もなく立ち上がった。銀英は小さく舌打ちする。

「さぁーてさてさて! 殺さないと殺されまぁーすよ? といっても、この体育館は蠱術における『皿』。私はどぉーちらでも構わないんですけどねぇ」

 炎壁の向こうから高みの見物をかましている巳堂の言葉はとりあえず無視。殺してはいけない、殺されてはいけない。もはや一方的な消耗戦だ。

 と、リクが銀英の隣に着地してくる。

「銀、どうする?」

 葵からさっきと全く同じ質問。銀英は数瞬だけ考え、首だけで後ろを振り向く。

「魁人! 君の魔眼であの炎の壁に隙間、もしくは魔力の弱い部分がないか見てほしいんだけど」

「わかりまし――銀先輩ッ!?」

 魁人の了解の言葉が悲鳴に変わる。

 銀英と葵は同時に魔力の流れを感じてそちらを見る。紗耶が自分の周囲に炎の陣を描き、そこから生まれた無数の火炎球が流星群となって襲いかかっていた。

 今から動けば避けられないわけではない。だが、避ければ後ろの生徒たちが燃えてしまう。

「くっ!」

 銀英は対抗するように掴めるだけの発破符を投げた。即行で九字を切り、印を結ぶ。

 炎に触れれば先にこちらが燃えてしまうため、その直前で起爆。それで消滅した炎はあるが、全てを消すことはできない。しかし、発破の衝撃で炎の軌道が変わったため、自分たちはもちろん背後の生徒にも被害はなかった。

 と――

「!」

 爆煙の中を紗耶が突っ込んでくる。刺突に構えられた蒼炎龍牙の刃が残り十数センチで銀英の喉元に届こうかという瞬間、リクが体当たりで紗耶を突き飛ばした。

 受け身は取れずに床を転がる紗耶。当然、悲鳴などは上がらない。

「いやぁ、助かったよ」

 リクと葵、両者ともに銀英は礼を言う。葵は無言だったが、リクは『わうっ』と返事してくれた。

「銀、もう紗耶を殺すしかない?」

 疑問形なのは、葵も躊躇っているからだ。確かに意識を失わすことができない以上、術を解くには紗耶を殺さなければならない。だが――

「ダメだよ、葵。誰か一人でも殺せば呪いがかかってしまう。そうなったら、いくら僕らでも死ぬか蠱になるかのどちらかしかなくなるんだ。他の手を考えないと。せめてそれまで、紗耶がおとなしくしてくれると助かるんだけどねえ」

「凍らす」

「いや、たぶんそれは無理……」

 と言っているそばから紗耶が立ち上がる。蒼炎龍牙を構え直し、空虚の瞳がこちらをロックオンする。

その時、彼女の周りに白い粒子が舞った。それはたちまち奇妙な文字を形成して彼女を囲う陣となる。月夜のルーンの魔術――〈封滅の檻〉だ。

 陣の文字が純白に輝く。瞬間、同じ輝きの糸のようなものが彼女を雁字搦めにした。


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