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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
37/61

四章 悪魔の視力(3)

 メイザース学園・第一体育館。

 照明はつけず、沈みかけた太陽のオレンジ色だけが屋内を不気味に照らしている。普段のこの時間ならバスケ部員やバレー部員たちが忙しなくボールを弾ませているはずなのだが、今日にかぎり静寂。

 まるで妖気が満ちているような異質な空気が体育館全体を覆い、一般人が近づくことを拒絶する一種の結界のような役目を果たしていた。魔術師でなくとも、これほど呪力が濃密に張り巡らされていれば、生物としての生存本能が働いて近づこうとは思わなくなるのだ。

 もっともそれは、これから行われる呪術の副作用みたいなものだったが。

 蠱術を扱う呪術師――巳堂遊作は、スーツの上から白衣を纏い、ステージの中央に立って体育館に集まった者たちを眺めていた。

 病院から抜け出してきたような患者服を纏った男女が六人、今朝生徒会に保護されていた者が七人、そして放課後この体育館を使用していた二十人強の生徒にも蠱を仕込んで黙らせている。普通なら顧問の教師もいそうだが、職員会議などで巳堂が来た時にはまだいなかった。

「まぁー、このくらいの人数が限度でしょう。あまりおぉー過ぎますと完成した蠱を制御できなくなってしまいますからねぇ。くくく、少々欲張り過ぎた気もしますが、今の私ならこのくらい大丈夫でしょう」

 聞く者を陰鬱にさせるような笑い声を発しつつ、巳堂は従者のように隣に立っている生徒会の魔術師――神代紗耶へと体を向ける。体内に入れられた蠱によって体の支配権を奪われている彼女は、この場に集った他の生徒同様、意思のない空っぽな瞳をしている。その手には、彼女の退魔武器である蒼炎龍牙がしっかりと握られていた(炎は出てないが)。

「どぉーです? 見えますか? よぉーやく全員の体に蠱が馴染みましたよ」

 飛び立つ寸前の鳥のように両腕を大きく広げ、巳堂は虚ろな紗耶へと言葉をかける。しかし、意識のない紗耶に反応はなく、大の大人が等身大の人形遊びをしているようにしか見えない。

 そんなことは気にもせず、巳堂はさらに言葉を連ねる。

「しかぁーし、まだです! まだパーツは揃っていませんよ。あなたのお仲間が来るのを、私は待たなくてはいけません。最初は思いつきませんでしたが、魔術師を使えばより強力な蠱が作れそうですからねぇ。くくくくく」

 巳堂は紗耶の顎に手をやり、自分と目線が合うようクイッと上を向かせる。

「その蠱にはあなたがなるんですよ、神代紗耶さん。術の開始をもって、あなたはその刀でこの場にいる私以外の人間全てを斬り殺すのです。そぉーすれば、殺された者の負の念が呪いとなってあなたに吸収されます。全員分の呪いを得た時、あなたは最高の蠱として生まれ変わるのです! くく、ははははははっ、素晴らしい! 素晴らしい!」

 高らかに狂笑する巳堂。紗耶が正常であれば、『こいつ壊れてる』とか呟いたことだろう。

 巳堂は確かに壊れている。だがそれは彼自身も知悉していること。自覚ある変人。それが巳堂遊作だった。

「私は究極の蠱を作り出し、そぉーして私を追放した奴らに思い知らせてあげるのです。倫理なぁーどに縛られていては進歩しない。至高の作品は完成しないとねぇ!」

 段々とヒートアップしてくる巳堂は、直立する紗耶の周囲を踊るように回り始める。気持ち悪い、もしこの場に集まった者たちが意識を取り戻したならそう思うだろう変な動き。

「まぁーもっとも、思い知るころには生きてはいないでしょうがね。くくははははっはぁ!」

 楽しげに、愉しげに嗤う。両腕を広げ、縮め、拳を握り、開き、時にはセクハラ上司よろしく紗耶の肩に手を置いたりして、巳堂はステージの上で妙ちきりんにダンスする。

「いぃーですかぁ? 魔術師とは探究を怠ってはいぃーけないのですよ! たとえ太極や神に到達してもです! 追求に終わりというものは存在しなぁーいんですから!」

 姿もそうだが、どこかの研究者みたいな考えを持っている巳堂である。と――

「んー?」

 巳堂の変な踊りがピタリと止まる。

 顔を体育館の入口に向け、ニィヤリと口元を歪める。

「どぉーやら、来たみたいですねぇ。意外と遅かったじゃあないですか」

 白衣を翻し、巳堂はステージの先端まで歩く。彼の従順なる僕にして殺戮人形となる予定の紗耶が隣に並んだのを認め、巳堂は愉快げに独りごちる。

「さぁーて、黄昏の舞踏会を開始しましょうか」


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