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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
33/61

三章 呪術的実験(9)

「私はですね。巫蠱術を扱う一族に生まれながら、魔力の才がなかったのです」

 何の前置きもなく、巳堂は自分の過去について語り始めた。

 いや、確かに前置きはなかったが、魁人が無抵抗になったことが話を始めた大きな理由なのかもしれない。

「ぐ……」

 魁人は殴りかかった右手を掴まれて捻り上げられ、そのまま弓反になるよう手首や肘の関節を極められていたのだ。

 死に体をさらす魁人に抵抗は許されず、ギリギリと軋むような痛みに呻くことしかできない。

 骸骨みたいに痩せ細っているからといって巳堂を甘く見ていた。人を見かけで判断していた。魔術師=体術の達人、というわけでは流石にないだろうが、少なくとも巳堂は自分よりも強い。

(やっぱり俺じゃ、勝てないのか)

 歯痒い。自分は非力な一般人だということを思い知らされた。だがそれでも、歯痒いと感じるだけ諦めてはいない。ここで諦めるくらいなら、自分はさっき逃げていた。

「魔術師の一族で魔力がなかったらどぉーなるか、わぁーかりますか? 簡単です。追放されたのですよ」

 半端な気持ちで魔術師と戦うことを選んだわけじゃない。まずはこの体勢をどうにかして、そして一矢報いてやる。

「ですが、私を追放したのは単に魔力がなかったからだけではありません。私の蠱術に対する考え方を、奴らは危険だと判断したのでしょう。禁忌をあえて犯そぉーとする私の考えをねぇ」

「き、禁忌?」

 耳に入ってきた言葉を、思わず訊き返してしまった。返事があったことに巳堂は愉快そうな顔をする。

「そぉう! 蛇に蛙、犬や猫、狸や狐、蠱術は蟲以外でもできるのです。それはつぅーまり、人間や魔獣を使ってもできるということですよねぇ」

「――なっ!?」

 蠱術というものの説明を受けている魁人は、すぐに巳堂が何をしたいのか理解した。蠱術とは蟲を共食いさせる呪術。それを人間でやるということは、殺し合いをさせるということだ。

「くくく、理解の速い子は好きですよぉ。そぉーです。人間を使うのです」

「てめえ、人の命を何だと……」

 とっくにしていることだが、こいつはもう『先生』だとは思わない方がいい。

「そもそも、どうやって殺し合いをさせるつもりだ!」

「おやぁ? あなたは私が何の意味もなく生徒に蠱を憑依させたと思っているのですかぁ?」

「それってどう――」

 どういうことだ? と訊こうとした魁人だが、答えは視覚から入ってきた。


 蟲を体内に入れられ、その呪いによって意識を失っていたはずの紗耶が立ち上がったのだ。


「紗耶……!?」

 一瞬、彼女が復活したと歓喜したが、そうではないことを、彼女の虚ろで淀んだ瞳を見て思い知る。

 光を失い、まるで意思を感じない曇った瞳の紗耶は、ゆっくりと巳堂に捕まっている魁人へと歩み寄ってくる。

 場の魔力の高まりがなくなったことで発動が止まっていた魔眼が再び青く染まる。紗耶の中に見える蠱が、活動を始めたかのように強く魔力の光を放っていた。

(――まさか、操られてるのか!?)

 そうとしか、いや、絶対にそうだ。あの蜘蛛が、紗耶の意識を乗っ取って体を支配している。巳堂が呪った生徒を殺していないのは、あとで操って殺し合いをさせるためだったのか。

 虚ろな紗耶が、魁人の目の前で立ち止まる。と、巳堂が急に間接を決めていた手を放して魁人を開放した。

「さぁて、少しテストしてみましょう」

「ッ!?」

 なぜ巳堂が自分を放したのかを考える間もなく、魁人の体は真横に吹き飛んだ。体育館の壁に背中を強打し、一瞬麻痺した感覚に激痛の波が押し寄せる。

「――――ぁッ!?」

 声にならない悲鳴。思いっ切り叫べば、あるいは体育館の中にいる月夜に届くかもしれない。だが、この位置は体育倉庫などの裏手、多少の物音では気づかれない。あえてこのような場所を選んで犯人捜しをしていたことが仇となってしまった。

 ずるり、と魁人は崩れる。全身が痛い。もしかしたら骨が折れているかもしれない。手足に動けと命ずるも、自分の体なのに言うことを聞いてくれない。

 落ちかけた瞼を開いて前方を見る。そこには、回し蹴りをした後の体勢の紗耶と、嫌らしく、そして愉快そうに嗤っている巳堂が見える。

 その巳堂の口が動く。

「あなたには他の生徒会魔術師への連絡係となってもらいましょうか。『私は今日の放課後、この第一体育館にて人間の蠱術を行います。阻止したければどぉーぞ御勝手に』と伝えてくださいねぇ」

 言うと、巳堂は踵を返して立ち去っていく。朦朧とする意識の中、その彼に付き従うように、操られた紗耶も魁人の視界から消えていった。

「く……そっ……」

 ぼやける視界は完全に見えなくなり、魁人の意識は闇へと堕ちる。


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