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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
27/61

三章 呪術的実験(3)

 作戦会議が終わり、指示を受けた魁人と紗耶が去った後の生徒会室。

「それにしても、あれだけ僕たちと関わるのを嫌がってたのに、よく協力する気になったものだよねえ」

 銀英はガラステーブルに護符を並べながら、月夜に向かってそう言った。その月夜は、蠱術の被害者たちの周りに『治癒』のルーンが彫り込まれた金属板を囲うように並べている最中だった。薄い円盤状のそれは『ブラクテアート』と呼ばれ、ルーンを彫る他には中世のドイツなどで通貨として発行されていた物である。

 だが、呪いに対して治癒魔術など無意味に等しい。月夜だってそんなことは知っているが、何もしないよりはやった方がいいとのことだ。

 ちなみに彼らだって紛れもなく学園の生徒。それぞれの教室では滞りなく授業が行われているのだが、生徒会は仕事を優先させるために授業をパスすることができたりする。

 月夜は治癒の作業を続けながら、唇の端を少し緩めた。

「魁人くんは、基本的には友達想いの優しい子なんだよ」

「おやおや、会長も魁人にホの字かい?」

 からかうように、銀英。しかし月夜は少しも動じず、

「あははー、そうだね。少なくとも銀くんよりはねー」

「あれ? もしかして僕みんなから嫌われてない?」

 リクに噛まれた右手はまだ歯形が残って痛いし、葵からは氷の視線で見られるし(彼女はそれが常だが)、紗耶は……言うまでもなく。

「そんなことないよ。銀くんは頼りになる私たちの仲間だもん。サボらなければもっと素敵♪」

 彼女に逆にからかわれた感がして、銀英は苦笑しつつ頭を掻いた。

 月夜詩奈。

 恐らく学園で一番生徒や教師の身を案じているだろう魔術師。魔術は大勢の人を救うために在る、それが彼女の考え方だ。だから、彼女の術式には人を直接傷つけるようなものは少ない。

 どんな経緯でそんな考えを持ったのかは知らないが、目の前に呪いで倒れた生徒たちがいても、彼女はこの通り普段通りの対応ができる気丈さも備えている。

(本当は、すぐにでも呪術師を捜しに駆け出したいんだろうけどね)

 無駄と知りつつ行っている治癒術は、生徒たちの苦しみを少しでも和らげられるようにという願いの優しさだ。

 とても真似はできないな、と無駄なことはしない主義の銀英は思う。

「さて、今回は僕もサボってはいられないねえ」

 テーブルの上に並んだ何十枚という護符一枚一枚に魔力を込めながら、銀英は呟いた。そして対面のソファーでリクと戯れている葵を見やる。彼女の氷のような無表情は、あのように自分の使い魔であるリクと過ごす時間だけ少し雪解けを見せている。

「葵、僕の作業が終わったら少し付き合ってくれないかい? ちょっと気になることがあるんだ」

 葵はリクとの戯れを止め、瞬間的に元に戻った顔を銀英に向ける。

「どこまで?」

 彼女の膝の上にいる子犬リクも、同じことを聞くように『わん』と鳴く。

「西の旧校舎。今思えば、あの白衣はそっちの方に逃げていったからさ」

 言うと、葵は『わかった』の一言だけで頷いた。


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