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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
23/61

二章 炎の退魔師(13)

「それで銀くん、犯人は?」

「逃げられた♪」

 当然のような月夜の質問に、銀英は悪びれることなく笑顔で答えたものだった。

「はぁ? 何やってんのよあんた! サボりすぎて腕鈍ってんじゃないの? このまま副会長の座をあたしか葵先輩かリクに譲ることね」

「……、ドジ」

 リクの背中をさすりながら、葵も一言罵倒した。

「たははは……いやぁ、何か耳が痛いなぁ。こんなのが邪魔してきたんだからしょうがない、ってことにしてくれない?」

 銀英は未だピクピクと動いている部分もある大虱の蟲塚を指差してそう言った。しかしそんなことは紗耶には言い訳にしか聞こえない。

「だったら結界くらい張りなさいよ。人が集まってきたら面倒になるじゃない」

「誰かさんが僕の結界符を強奪してなかったらそうしたさ」

「……ぁ」

 そこは言い返されて口籠る紗耶。まさか四枚で全部だとは思わなかった。一枚は今も所持しているが、残り三ヶ所に貼ったものは後で回収しなければならない。もっとも、今は結界として成り立っていないから放っておいても別に構わないが。

「ねえ、銀くん。この気持ち悪い虫の魔獣は何な――ひゃっ!?」

 月夜が岩塊に組み込まれている蟲の死骸に近づいて問おうとしたその瞬間、ピュッと白い体液が狙いすましたかのように飛び、彼女は可愛い悲鳴を上げて間一髪それを避ける。

「会長、それは魔獣じゃなくて『蠱』だよ」

 そんな月夜を面白がるように見ながら、銀英はさらりと答えた。紗耶が首を傾げる。

「コ? ああ、『蠱毒』のこと? あのいろんな毒虫を共食いさせて、生き残ったのを呪術に使うってやつ」

 蠱毒を生み出す蠱術とは、犬神や厭魅と並んで日本古来より存在する原始的な呪術である。共食いは皿などの上で行わせ、生き残った蠱は磨り潰して主に毒として使われていたらしい。まさに読んで字のごとくである。もっとも、毒以外にも蠱に相手を喰わせたり、取り憑かせて呪殺したりなどの用途がある。共食いさせるのも蜘蛛や蚣、蛇のような毒虫だけではなく、犬や狼などの様々な動物まで使っていたとか。

「でも待って、類感呪術ならまだしも、蠱術なんて素人にできるわけないじゃない」

「素人じゃないとすれば?」

「! まさか本物の呪術師がいるって言うの!?」

 魔脈の影響で魔力を得、それによって偶然呪いが成功したような素人ではなく、本物の呪術師。蠱術は生贄による『生』のエネルギーを扱う分、生半可なことでは扱えないのだ。しかし、ここにその蠱が確かに在る以上、本物がいることで得心がいく。

「えっと、とりあえず銀くん、みんなの呪いを解く方法はわかるの」

 話の論点を変更し、月夜が訊く。

「そうだねえ、今のところ方法は二つかな。まず『毒を以て毒を制す』。つまり相反する蠱を使って呪いを中和する方法さ。もっとも、これはどこかの巫蠱術を扱ってる術者を捜すところから始めないといけないし、薬となる蠱も一から作らないといけないからそれはもう時間かかるよ。でき上がるころには呪殺は完了してるんじゃない?」

 他人事のように平気で最悪の事態を口にする銀英。しかし、その辺のことも考慮しておかねば呪いをかけられた者を救うことはできないということだろう。

「呪殺か……うちのテニス部ってそんなに恨まれることしてんの?」

 世間の評判は普通。強くもないし弱くもない。どこか別の学校にいた呪術師が試合で負けた腹いせにってわけでもないだろう。となるとやはり、内部犯か。

 紗耶の疑問に月夜が唸る。

「う~ん、顧問いびりが凄かったって聞いてるわね。でもそれ一年くらい前のことだから。それよりも、もう一つの方法は?」

「術者――蠱主を殺す。もしくは見つけ出して呪いを解かせる。単純明快なやり方だね。僕はこっちの方を推選するよ」

「ていうか、もうそれしかないじゃない」

 呆れ気味に、紗耶。まあ、確かにその方が簡単でわかりやすいし、自分好みではあるのだが。

「蠱主は銀が逃がした。どうやって捜す?」

 痛いところを突いてきた葵に、ははは、と苦笑する銀英。そんな彼を横目で睨み、紗耶は一つ自信満々に提案する。

「リクに臭いを追わせるってのはどうですか? ほら、一応魔犬に部類するわけだし」

「臭いの元がない」

「これらは?」

 紗耶はその辺に散らばっている蠱の残骸を指す。葵が手近に転がっている破片の臭いをリクに嗅がせるが、ク~ン、という情けない鳴き声が返ってきた。

「無理。臭いが分散してわからないだって」

「葵先輩、リクの言葉わかるんですか?」

 コクリ、と頷く葵。流石は魔獣使い。リンクしているのは魔力だけじゃなく心もか、と紗耶は感心する。

「呪いを受けた人間にミョウガの根を煎じて飲ませると、呪いも解けて術者も判明万々歳……って言われることもあるけど、そんな上手い方法が本当にあるわけないからねえ」

 陰陽道をかじっている分、一番こういう呪術に詳しいはずの銀英がこの様子では、彼からいい案は出ないだろう。

「あーもう! 逃がしたのは銀英なんだから徹夜してでも捜してきなさいよ!」

「えー」

「えーって言うな! じゃあもう切腹よ、切腹! 介錯はあたしがやるから安心しなさい!」

 噛みつきそうな勢いで紗耶は喚くが、銀英のやる気のない態度はやはり変わらない。

 すると、少しの間黙って何かを思案していた月夜がある一つの提案を口にする。

「魁人くんに、手伝ってもらおっか」

 その時の紗耶は、嫌そうな、しかしそうした方がいいような、そんな微妙な顔をしていた。


 ちなみに、銀英が倒した蠱――大虱の死骸の山は、結局のところ紗耶が全部燃やして処分することになった。


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