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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
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二章 炎の退魔師(3)

「やぁ、魁人♪」

 魁人たちが昼食を終えて食堂から出ると、そこには見知った顔の男女がフレンドリーに声をかけてきた。正確には声をかけたのは銀髪の男の方で、女の方は無言で彼に付き添っている。

「銀先輩、葵先輩……」

 爽やかで軽薄、そんな矛盾してそうな笑みを浮かべているのが生徒会副会長の御門銀英。無表情で何を考えているのかわからない少女が会計の藤林葵。他の二人はいないようで、昨日葵が連れていたリクとかいう魔獣の姿も見えない。

(ああ、ついに裁きの時か……)

 彼らに会った瞬間、魁人の中で一つの覚悟が決まった。もし昨日の記憶だけ消されるのであれば、もうそれはそれで構わない。命を消されるよりはマシだし、魔術師の二人から逃げ切れるとはとても思えなかった。

 終わった、とでも言うように覇気がなくなった魁人に、銀英が不思議そうに眉を顰める。

「いやぁ、そんな死人みたいな目で見られても困るなぁ。僕ら何もするつもりはないんだけど? それとも魁人はソロモンの悪魔を召喚する生贄にでも使ってほしぐふぁっ!?」

 何か度の過ぎた冗談でも言おうとしていた様子の銀英の鳩尾に、葵が無表情のまま裏拳ぎみの拳を叩きつけた。

「……あ、あの、葵さん? こ、これちょっとツッコミ、げほっ! き、キツすぎない?」

 鳩尾を押さえて銀英は苦しそうに問いかけるが、葵は相変わらず表情に変化はなく一言。

「普通」

 そんな二人のやり取りに、どうやら本当に自分を捕らえに来たのではないと悟り、魁人は少しばかり安堵する。

 と、葵を目にした梶川が、興奮にその目を見開いて失礼にも彼女を指差す。

「おあぁーっ! あなたは血圧検査のクールビューティ様じゃないですかぁーっ!!」

 意味不明なことを喚くと、梶川は高速で魁人の前に回り込んで彼女の右手を両手で包むように取る。突然のことだったが、葵は眉一つ動かさず無表情を貫いていた。

「お、オレ、梶川邦明って言います是非お近づきぶふへぇっ!?」

 銀英よりも汚い悲鳴を上げて梶川は魁人の隣に転がった。見ると、葵はスカートなのにも関わらず高い位置で膝蹴りを喰らわした後の体勢だった。やっぱり不快だったのだろう。

「か、かひとクン、こ、このヒホたち……ダレ?」

 何か今にも死にそうながらも、どこか嬉しそうにマゾ的な笑みを浮かべている梶川。

「最初に訊けよ」魁人は呆れの溜息を吐き、「アレだ、逃げ出したどこかの誰かさんと違って、昨日助けてくれた恩人たちですよ」

 本当は神代紗耶に助けられたのだが、まあ一緒だろう。結果的に魔力が暴走して襲いかかってきた貝崎を止めたのはこの銀髪男――御門銀英なのだから。

「また敬語!? 魁人は、魁人はやっぱり俺のこと恨んでるんだ畜生おおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 復活して立ち上がったかと思えば、梶川は緩んだ涙腺から液体を横に零して何処へと駆け去ってしまった。

 彼の姿が見えなくなったのを確認し、銀英が楽しそうにニヤけた笑みを浮かべる。

「いやぁ、友達の扱いがうまいねえ。僕たちから遠ざけるために、わざとあんな風に言ったんでしょ?」

「あいつが阿呆なだけですよ」

 素っ気なく答え、魁人は真剣な表情を作って銀英とまっすぐ向かい合う。

「で、俺に何の用ですか?」

「警告」

 答えは、葵の方から返ってきた。

「へ?」

(警告って……やっぱ俺を始末しに来たってことなのか?)

 だが、鉄仮面の裏にどんな感情が渦巻いているのかわからない葵はともかく、へらへらと気の抜け切った笑みの銀英に敵意や殺意を感じない。それが彼の仮面なのかもしれないが、魔術を使おうとするならその前にこの眼が反応するからわかる。しかし、その様子もない。

「あー、そんな身を固くしなくてもいいよ。そういうことじゃないからさ」

 魁人の思っていることを理解しているように、銀英は前もってそう断った。そして緊張の緩んだ顔のまま周囲の人気を確認し、少し声のボリュームを小さくして言葉を続ける。

「まあ、はっきり言うけど、その魔眼はまだ謎なんだよねえ。もしかしたら危険なものかもしれないし、そうでなかったとしても、魔脈の影響でどうなるかわからない。僕らの魔術で取っ払えればいいんだけど、君みたいな先天的に根づいている魔力や力を消すなんて所業、それこそ世界でもトップクラスの魔術師だって骨を何本も折ることになるほど難しいんだ。というか、魔眼を消すなんてもったいないし♪」

「……」

 言っていることは理解できている。この眼は危険かもしれなくて、しかも取り除くこともできない。葵が言った警告とは、『魔力が見えるだけだからって安心するな』ということだろう。

「それで、俺にどうしろと言うんですか?」

「簡単な話さ。生徒会に入ればいい」

「お断りします」

 魁人は即答した。

「はは、やっぱそうきたか。生徒会に入れば、学園に雇われることになるんだけどなぁ。学費免除になったり、学園内に創設された魔術機関の出入りを許可されたり、何より魁人自身の眼を役立てることができるんだけど?」

 それにちょっとお給料も出るよー、と銀英はニヤケながら付け足すように耳元で囁いた。

「……無理、ですよ。俺にはあんな場所、荷が重すぎます」

 学費免除と眼を役立てるということにグラリと揺らいだが、昨日の戦闘を思い出して自分でも後ろ向きとわかっている決意を改める。

 自分の眼のことは自分が一番よくわかっている、なんてことは言わないし、言えない。ただ、この眼が危険だという不確定要素のために命を投げ出したくはない。

 謎だといっても、もう自分が知りたかった眼の謎は解けているのだ。これ以上魔術なんてものに関わったら、この先もう二度と今まで生きてきた日常に戻れなくなる気がする。

 そうなることが、あるとも知れない眼の危険なんかよりも怖かった。

「じゃあ、ここでもう一つ警告。僕らは君を引き入れることを諦めないよ。特にうちの会長は、魁人のことを大層お気に召しているようだからさ。どうしても生徒会に入りたくないのなら、常にその眼を全開にしておくことだね」

 最後に意味深なことをいい、脅しをかけるように銀英の魔力が高ぶった。しかしすぐにその高ぶりは収まり、彼は『じゃあね』と言って立ち去っていく。葵はやはり無表情のまま軽く会釈し、彼の後についていった。

「……何なんだよ、一体。眼を、全開にする?」


 約二時間後、その意味は形となって魁人に襲いかかることになる。


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