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魔術的生徒会  作者: 夙多史
第一巻
1/61

プロローグ

 深夜。夜行性の人々以外は寝静まったころの時間帯。

 静寂に包まれた狭い路地裏で、三つの人影が蠢いていた。何かから隠れているように辺りを警戒し、誰もいないことを確認しても、人影たちはコソコソと小声で話し合っている。

「おい、本当に大丈夫なんだろうな」

「ああ、問題ねえよ。俺がいるんだ。サッと行ってパッとやっちまおうぜ」

「そうそう。本摩ほんまは『魔法使い』なんだから、何も心配することはないわよ」

 人影は三人とも高校生くらいの少年少女だった。全員が闇に溶けるような黒っぽい服装をし、各々が手にサングラスやヘルメットなどの顔が隠れる道具を持っている。まるで今からどこかに強盗しますよというような格好だが、実際にその通りだった。

「でもな、これから忍び込むとこっつったら、この那緑市なよりしで一番でけぇ銀行だぜ? 絶対セキュリティとかやべえって」

 二メートル近い大柄な少年がネガティブなことを言うのに対し、本摩と呼ばれた金髪をツンツンに逆立てた少年がポジティブに返す。

「大丈夫だっつってんだろ。俺様の力がありゃあ、絶対成功する。ああ、間違いねえ」

「キャハッ! 本摩ってばかぁっくいい♪」

 サングラスを片手で弄びながら、ニット帽を被った少女がふざけたように笑う。すると、大柄な少年の顔にも自信が満ちてきた。

「あ、ああ、そうだな。たとえ警察でも、本摩が本気出しゃあ一発で消し炭だ」

 と、その本摩が口元で指を立てる。

「しっ……時間だ。顔隠して乗り込むぞ」

 彼の指示に二人は無言で頷き、それぞれが手にしていたもので顔を隠し始める。


 その時、背後からジャリッという音が聞こえた。


「――ッ!?」

 慌てて振り返る三人。そこには、彼らと同じくらいか少し年下の少女が立っていた。

 腰よりも長く伸ばしたストレートの髪は夜闇より黒く、対照的な白い肌が浮かんで見える。服装は茶系のブレザーにチェック柄のスカート。そんな深夜の路地裏には到底似合わない高校の制服を着た少女が、小さめの輪郭に収まる漆黒の大きな瞳で彼らを見据えている。

「何だよ、ビビらせやがって……」

 警官かと思った本摩は少々拍子抜け気味に呟いた。

「アレってメイザース学園の制服……ウチらと同じとこのじゃん」

「つーか、何でメイザースの奴がここにいんだよ。まさか、俺たちの話をどっかで聞いて、仲間に入れてもらいに来たってわけじゃねえよな。おい、どうなんだ?」

 冗談ぽく言いながら大柄な少年が現れた少女に歩み寄り、その大きな手で彼女の肩を掴もうとするが――


 ゴスッ! という鈍い音がした瞬間、彼は宙を飛んだ。


「がはっ!?」

 背中から地面に叩きつけられ、大柄な少年は何が起こったのか理解できず、ただ頭に『?』を浮かべる。だが、後ろの二人は見ていた。二メートル近い巨漢を、あの少女は華奢な体とは思えない脚力で蹴り飛ばしたのだ。

「……何もんだ、てめえ」

 黒髪の少女を睨みつけ、声のトーンを低くして問う本摩に、彼女はただ一言で答える。

「生徒会よ」

 …………。

 言葉の意味が呑み込めず呆然とする三人。少女はさらに告げる。

「とりあえず、目覚めた力を使って銀行強盗なんて馬鹿なこと考えたあんたたち三人は、あたしら生徒会で処罰させてもらうから覚悟しなさい」

 途端、三人は我に返る。黒髪の少女は自分たちの仲間になりに来たのではない。止めに来た、いや、潰しに来たのだ。そんな少女を、三人は完全に『敵』と認識する。

 顔も見られた。敵は排除するしかない。

「どいてろ、俺がやる」

 本摩は大柄な少年を下がらせると、ゆっくりと少女に近づきながら黒いジャケットのポケットに手を入れ、そこからライターを取り出す。そして、シュボっと火をつけた。

「あー、何か知らねえが、俺らの計画知ってるみてえだからよ。まあ、その、何だ……死ね!」

 最後に凄みを利かせた一声を放つと、火のついたままのライターを宙空で円を描くように振る。と、どういうわけか夜闇に描かれた軌跡は消えずに残り、オレンジ色に輝く粒子が次第に円の周りから中心部に集っていく。

 次の瞬間、集った粒子が白熱する火炎球となって射出された。それは砲弾のような勢いでまっすぐ飛行し、避ける暇など与えず黒髪の少女に直撃する。

 爆破テロのごとく赤い閃光が迸り、爆音が轟き、熱波が押し寄せ、黒煙が上がる。深夜とはいえ、大通りに近いこの場所でこれだけのことが起きれば流石に騒ぎになるだろう。だが、あの少女に知られていた時点で今日の計画は失敗である。もう別に構わない。

 火炎と爆煙のカーテンを眺めながら、本摩はもう生きてはいないだろう少女へ嘲るように言葉を投げかける。

「ハッ、一瞬で骨ごと灰になりゃあ、てめえがここで死んだなんて誰も気づかねえよな。力のねえ馬鹿が正義の味方気どりでしゃしゃり出てくるからこうな――!?」


 刹那、炎の色が青く染まった。


 何かやばいものにでも引火したのだろうか? だったら早く離れた方がいいのか? そんな考えが頭の中を過ったが、そうではないことを彼はすぐに思い知る。

「突然魔力が開花した人って、みんなこんな馬鹿みたいな思考回路なのかしら?」

 そんな声がした途端、炎が暴風に煽られたように一瞬で吹き飛んだ。そこには灰になったはずの少女が、火傷一つ負ってない姿のまま立っていた。

「な、何で……」

 さらに彼女の右手には、一体どこから取り出したのか一振りの日本刀が握られていた。

 それがただの日本刀でないことはすぐにわかった。なぜなら、その見事な反りの刀身に、先程の蒼い炎がオーラのように纏っていたからだ。


挿絵(By みてみん)


 蒼炎纏いし日本刀を携えた黒髪の少女が、目の前に敵として立ちはだかっている。明確な『死』の恐怖が急激に沸き起こり、本摩は震える足で後ずさる。

「くそっ! こいつも俺と同じか」

「違うわ」

 冷やかな視線を向け、黒髪の少女はきっぱりと断言する。

「魔力が開花したばかりのあんたと、このあたしを一緒にしないでよね」

 日本刀の少女が一歩踏み出す。

「あたしは魔術師で、あんたは魔力もろくに制御できないただの素人なんだから」

「ま、魔術師だぁ? てめえ、意味わかんねえことほざいてんじゃねえぞ!」

 本摩はもう一度ライターで円を描き、彼女に向かって火炎弾を飛ばす。さっきよりも威力と熱量を上げているが、あの敵には通用しないだろうことは本能が悟っていた。だから――

「おい! てめえら、逃げ――」

 ――ようと振り返った本摩だが、そこで見た光景に絶句する。

 自分の後ろには、一緒に銀行強盗を企てた仲間が二人いるはずだった。

 だが、そこに見える人影は、一、二、三、……五人。

 明らかに数がおかしい。しかも、そのうち地面に伏して苦しそうに呻いている影が二つ――自分の仲間の二人だ。

(何だよこれ……。え、嘘だろ? おい、何でてめえら倒れてんだよ。あいつら何したんだよ。つーかコレどういう状況なんだよ?)

 事態を把握できず混乱する本摩に、謎の人影の一人が交渉するように言ってくる。

「ねえ、本摩くん。別に痛いことはしないから、このまま大人しく捕まってくれないかな?」

 どこかおっとりとした少女の声だった。

(こいつ何で俺の名……いやそれより、この声どっかで――)

 その時、背後からカツカツと軽い靴音が響く。僅かに首を動かして振り向くと、案の定、黒髪日本刀の少女が無傷でそこにいた。

月夜つくよみ先輩、こいつも伸しちゃった方が早いと思います」

「あははー、力ずくの解決は最後の手段よ、紗耶さやちゃん。できるだけ穏便に済ませること。まあでも、紗耶ちゃんは今日が初仕事だし、だんだんと慣れてくればいいよ」

 月夜と呼ばれた人影が諭すように言うと、黒髪の少女――紗耶は小さく舌打ちする。本摩は『サヤ』という名前こそ知らないが、『ツクヨミ』という名字には心当たりがあった。だが、今はそんなこと考えている場合ではない。

(こんなところで捕まってたまるかよ!)

 逃げなければ。たとえ仲間を見捨てようとも。しかし実際問題、前は三人、後ろは日本刀、左右は高いビルの壁、完全に八方塞がりである。

 そうなると、壁の薄いところを突破するしかない。それは必然的に女が一人の後方。妙な日本刀を持っていようが何だろうが、そこが一番薄い、と彼は判断する。

 素早く踵を返し、本摩は日本刀の少女に向かって疾走する。向こうで『あっ、逃げた!』とか何とか言っているが、当然構ってなどいられない。

「どけやああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 もはや撃つまでに隙のできる能力は使わず、己の拳のみを頼りに全力で駆ける。対する少女は特に慌てたりはせず、幻想的な火の子を散らす日本刀を地面と水平にして構え――

「ほら、結局こうなるんじゃない」

 呆れたように呟いた瞬間、刃の先端から蒼い炎が射出される。ペンを走らせるように夜闇に線を描いていく炎は、蛇のように本摩に絡みつくと、一気に彼の体を炎上させた。

「ぐ、ぐわああああぁぁあぁぁぁああぁぁぁあぁぁっ!?」

 断末魔を思わせる絶叫が路地裏に響き渡り、炎が消えると、本摩は体中からプスプスと煙を上げながら倒れ伏した。それでも加減されていたのか、彼は意識を失ってはいない。向こうで『ああ! やり過ぎてる!?』とか言っている声も聞こえる。

「な、何なんだ……てめえら、は……」

「さっき言ったじゃない」

 振り絞るようにして出した二度目の質問に、少女は地に伏す本摩を見下しながら言う。


「生徒会、そして魔術師よ」


 イラストは雨式さんに依頼したものです。

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