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路地裏の青

作者: ザリガニ
掲載日:2026/10/03

これは筆者の自分自身が夢で見た絶景を何かの形で形にできないかと思って作った小説です。

あの日。学校をサボった日。路地裏で彼女に出会ってしまった。

 

 崖上町は秋田県の日本海側に位置する小さな町だ。

 大きな断崖絶壁の崖の上にひっそりとたたずむ崖上町には主にお年寄りが住んでおり、若者など俺達家族と数世帯いるかどうかと言ったところ。

 そして夏の暑い日、とある家族が引っ越して来た。

 曰く都会の喧騒に疲れたとのこと。

 正直今の自分には関係ない。

 今年で中学も終わり、受験を控えた頃。

『……本日7月9日は今年の最高気温を更新するでしょう』

 ローカル番組の朝の天気予報だ。

 この数年は熱くなるのが特に早い気がする。

 運動部も朝練だけで夕方やってるのを見ないしな。

「ごちそうさまでした」

 朝ごはんは食パン一枚。

 母親と二人暮らしだが母親は滅多に帰って来ないため今日も1人のごはんだ。

 母親が何をしているのか知らないが状況を見かねた母方の伯父が毎月仕送りをしてくれている。

 そのおかげで生きていると言っても過言ではない。

 伯父は東京に住んでいるため、来年からは東京の高校に伯父の家から通えるよう受験勉強にいそしんでいる。

「学校行きたくないな……」

 ふとそんな言葉が出てしまった。

 別に学校が嫌いなわけじゃない。一時の気の迷いだろう。

 玄関を開け、自転車にまたがる。

 普段なら近道を通って行っているが、今日はなんだか遠回りをしたい気分だ。

 タバコ屋さんの前を通り過ぎ、地区を出る。

 いつもとは違う新鮮な景色だ。

 スーパーを通り過ぎ、人のいない交番を目の端に捉えつつ大通りを走っていく。

 気づけば学校とは真反対の方向に走り抜けていて、時間を見ると既に授業は始まっている時間だった。

「今日は休むか」

 思い切りの良さというのは良い方向にも悪い方向にも転がっていく。

 今回のはそうだな。良いか悪いかは分からない。ただ分かるのは俺の人生を大きく変えたということだけだ。


 俺の家は崖上町の端の方にある。

 家の裏には一本の二車線の道路が通っており、道路越しに覗く海はとてもきれいだ。

 あの後も少しサイクリングを楽しんで帰ると家の脇の細い路地に人影があった。

「あの……」

 声を掛けるとひょこっと顔をだした。

 例の最近引っ越して来た家族の娘だ。

 初めて見たがかなりの美人だ。

「なんだ君か。学校はどうした?」

「……」

「そうかそうか、言わなくても分かるよ。そうだ。ちょっとお話をしないか?」

 断る理由もないので自転車を止め、俺も路地裏の日陰に入った。

 緑の金網に背中を預けて座る。ひんやりとした土が心地いい。

「お姉さんは高校生ですか。お姉さんこそ学校どうしたんですか?」

「君と同じくサボった」

 そう言って彼女はポケットから出した煙草に火を着ける。

「……ふぅ。君もどうだい?」

「結構です」

「ふふ、いい子だ」

 彼女は心地よさそうに深く吸い込み、吐き出す。

 タバコ臭いが母親のお陰で慣れている。

「君は朝日君かな」

「三上朝日です。お姉さんは?」

「私は喜沢佳澄。高校3年。本当なら家族で挨拶に行ったときに挨拶するつもりでいたんだけどね。この辺だと同年代はめずらしいし」

 あの時は学校だったのだが、まあいいか。

「喜沢さんはなんでこんなところに?」

「佳澄でいいよ。説明が難しいな。簡単に言うと逃げて来た……かな」

「逃げて来た?」

「そう、逃げて来たの」

 話を聞くと佳澄さんは父親と二人で住んでいるらしい。

 そしてその父親がかなり横暴な人物で殴る蹴るはもちろんごはんもろくに出さず、金も遊んで使っていると。

「このたばこもパシられたときにパクってきた奴ね」

「ごはんとかはどうしてるんですか?」

「もちろんバイトで稼いでなんとかしてるよ。それもこれも今年で終わり。さっさとこんな所出て行ってやるんだ」

 なんてたくましい人なんだろう。

「じゃあ佳澄さんも同じですね。俺も来年東京に行くんです」

「おっ、少年もなのか!一緒だな!」

 笑うとさらに美人だ。

「さて、と。私はそろそろ帰ろうかな。もうそろそろここの日陰もなくなるし」

 立ち上がりスカートに着いた土を払う。

 俺もズボンに着いた土を払い、立ち上がった。

「あの……!また会えますか?」

 歩き出した佳澄さんはクルっと振り向き言った。

「君がその気になればね」


 それからというもの。

 週に1度、初めて彼女と会った木曜日に学校をサボることにした。

 先生に出席について尋ねると「そんなものただの数字に過ぎん。俺はサボろうと何しようと学生の本分を全うするお前が不利になるようなことはしない。好きにしろ」とお許しをいただいたので、先生の厚意を無駄にしないようにこれまで以上に勉強に励むようになった。

 佳澄さんとは最初の数回はあんな感じで路地裏で駄弁っているだけだったが、数を重ねるにつれ彼女と少し遠くまで遊びに行くように。

 どうやら彼女は映画が好きらしい。

 近くの映画館までは十キロ以上あるが、二人で自転車に乗っていくあの時間はとても楽しかった。

 そして季節は冬に。

 冬となるとここらでは雪が降る。

 それも尋常じゃないほどに降る為路地裏なんかで話していられない。

 そこで初めてうちに招くことにした。

「おじゃましまーす」

 汚い家を見せるのは少し気が引けるし、だれかを家に招くこと自体初めてなのに、その初めてが異性ということに緊張しながらリビングに案内した。

「最後に片づけたのはいつ?」

「……」

「じゃあお礼にお姉さんが片づけてあげよう!」

「いいですよそんな。客に手間かけさせるほど俺も腐ってないですから」

「いいのいいの。私がしたいだけだから!」

 そう言って彼女はシンクに溜まった食器を洗いだした。

 俺は裏口すぐそばの灯油をストーブに補給し、ストーブを付けた。

「エアコンないの?」

「ありはするんですけどつかないんですよ。母親も滅多に帰ってこないし、俺もそんな直す金無いんで冬はずっとストーブです」

「少年、お金はどうしてるんだい?」

「伯父が毎月仕送りしてくれるんですよ。現金と色んな食材とか試験勉強用のテキストとかも。でもあんま使いすぎるのも申し訳ないんでこの灯油とかは近所の雪かきとかと引き換えにもらったものなんです」

「賢いな君は。それじゃあ使っていい食材とかはあるかな?」

 エプロンを付けながら言う。

「この家にあるものならなんでも使っていいですよ。斜向かいの山田さんからもらったネギとかもありますけどいります?」

「貰おうかな。見たところ君はロクな食事を摂ってないみたいだけど何食べてるんだい?」

「……カップ麺とかレトルトのパスタとかですかね」

「不健康そのものって感じだね。待ってて、健康に良いものを作ってあげよう。その間に勉強してな」

 お言葉に甘えていつも通りリビングの机で問題集とノートを広げる。

 いつもと違うのはいつもは誰もいないキッチンに佳澄さんが立っていて、俺の為に料理をしてくれているという点だ。

 なんだか父さんが生きていたころの母さんを見ているようだ。

 できればこのままこの時間がずっと続いてほしい。

 この数年の中で初めて停滞を望んだ。

「出来た!ほら片づけて一緒に食べよ」

 俺の前に並べられたのは小さなキムチ鍋。

 きっと冷蔵庫を見た時に賞味期限が近いキムチに目を付けたのだろう。

 キムチの赤と鍋の印象で既に体が温かくなってきた気がする。

「いただきます」

「いただきます」

 まずは出汁から。

 豚肉の旨味と酸化しかけていたキムチの旨味が合わさり、この鍋のコンセプトを表すのに最適だ。

 豆腐もレンゲに乗せているだけで崩れそうなほど火が通っており、二人してホクホクと口を躍らせた。

 久しぶりのまともなごはんと、佳澄さんが作ってくれたという喜び、そしてあふれ出すおいしさでレンゲが止まらない。

 2人して終始無言で完食した。

「ごちそうさまでした。どうだった?」

「ごちそうさまでした。すげーうまかったです……」

 余韻に浸りながら幸せを噛みしめつつ口が勝手に動く。

「そっかそっかよかったー!」

 その後も勉強を教えてもらいながら時間は過ぎていき、空は暗くなっていった。

「もうこんな時間……」

 時計を見ると18時を回っていた。

「大丈夫ですか?帰らなくて」

「うーん、どうせ帰ってもいないんだよねお父さん。最近帰ってきてないし」

 なんだか最近元気だったのはそういう事か。

 さっき料理していた時にまくっていた腕には痣が1つもなく綺麗な腕だった。

「うちもどうせ帰って来ないんで好きなだけいてください」

「じゃあお言葉に甘えちゃおっかな!」

「あ、たばこ吸うなら換気扇の下で吸ってくださいね」

「大丈夫。今日は吸わないよ」

 夕食は食べなかった。

 昼食のキムチ鍋がそこそこ量があり、お腹が空いていなかったからだ。

「お風呂どうします?」

「どうしたの?一緒に入りたいとか?」

 ニヤニヤしながら脇を小突いてくる。

 本音を言うと一緒に入りたいのだがここは紳士に。

「俺の入った後の残り湯は嫌かと思いまして」

「うーん別に嫌じゃないし本当は一緒に入りたいけど私着替え持ってきてないから一旦帰ろうかと思ってね」

 クソッ、チャンス逃した。

「ついて行きましょうか?」

「ううん大丈夫。どうせすぐだしさっき見たら雪も降ってなかったから今のうちに行ってくるね」

 そう言って彼女は玄関から帰って行った。

 その間に俺は風呂に入り、客間に来客用の布団を出しにふすまを開けた。

「……」

 布団の一段上には家族で撮った写真や父さんの趣味のプラモデルなどが入っている。

 父さんの死後、別の男にハマった母さんが父さんに関連するもの全てをここに詰め込んだのだ。

 もしかしたら俺もここに詰め込まれていたと考えるとゾッとする。

 一番上のアルバムをめくると、最初のページに大きく印刷された俺と父さんと母さんの3人が遊園地のキャラクターと共に笑顔で写っている。

 次のページには俺と母さんが二人でキッチンに合っている写真や、父さんと山登りした時の写真が。

 今の俺や母さんを見て父さんはなんて言うだろう。

 父さんは良い人だからきっと罪悪感を覚えるだろうな。

 母さんがああなってしまったのは自分のせいとか、俺が苦労しているのも自分のせいとか。

 だが、父さんなら言ってくれるはずだ。心に嘘をつくなと。

 奥の方を漁っていると父さんが掛けていた眼鏡が出て来た。

 かけてみると軽く度が入っており、世界が曲がって見える。

 そしてちょうど佳澄さんが帰ってきた。

「いたいた少年。って、その眼鏡どうしたんだい?」

「これ死んだ父さんのなんです。どうですか?」

 彼女は俺の顔を覗き込む。鼻が触れそうになるくらいの距離にドキッとするが何とかポーカーフェイスを貫く。

「んー、似合ってないね」

「ですよね」

 俺はよく母親似と言われる。

「でも、きっといつか似合うようになるよ。でも目は悪くならない方がいいか」

 キャッキャと笑いながら佳澄さんは風呂に行った。

 俺は眼鏡を仕舞い、元々の目的であった布団を出した。


 風呂の後、二人でテレビを見ながら駄弁っていると時刻は0時を過ぎようとしていた。

「そろそろ寝ますか。さっきの畳のところに布団出しといたんで使ってください。もし何かあったら2階の俺の部屋に来てください」

「……分かった。明日も学校だし寝よっか。おやすみ」

「おやすみなさい」

 二階の自分の部屋で布団に転がると様々な事を考えてしまう。

 もし受験に受からなかったらどうしよう。佳澄さんいい匂いだったな。来年までに母さんが死んだりして家がなくなったらどうしよう。佳澄さんともっと一緒に居たいな。佳澄さん今何してるんだろう。

「クソッ!肉欲が邪魔をする!」

 俺はその場で腕立てを始めた。

 筋トレをすれば頭を空っぽにして疲れて寝やすくなる。

「フンッ!フンッ!フンッ!」

 次は腹筋。プランクを30秒2セット。

 その次はスクワット。10回3セット。

 そんなことをしていると部屋の扉が叩かれた。

「ッハァ!ハァ!どうしましたか」

『……その……どうせだったら寝るまでお話しない?』

「ハァッハァッ、いいですね。俺も下いきます」

『いや、その……少年の部屋で喋らない?』

「いいですけど……」

 扉を開けると枕を持った佳澄さんがいた。

「ここが少年の部屋……」

「特に面白みは無いですけど見て行ってください」

 部屋の簡易ストーブに火を入れ、部屋の電気を付けないままストーブの火だけで俺達は向き合う。

「そうだ。少年タバコはいるかい?」

「ダメですよちゃんと換気扇の下じゃないと」

「そうじゃなくて。タバコ、あげたら吸うかい?」

「吸いませんよ。まだ未成年ですし」

「そっか。それならいいんだ」

 その後は他愛ない話をした。

 さっき見てたテレビがどうだったとか、この辺は不便だとか、明日は雪降るかなとか。

 話の内容や面白さなんてどうでもいい。俺は二人でいられることがただ幸せだった。

「そうだ。私明日誕生日なんだ」

「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか。何も用意出来てないですよ」

「明日って言うか、もう今日だね」

 立ち上がって机の上の時計を見ながら言い、そっと俺の隣に腰を下ろした。

 お互い俺の右腕と佳澄さんの左腕がふれあう。

「ますますなんで早く言ってくれなかったんですか。おめでとうございます」

「ありがとう。でも言いたいのはそういう事じゃないの」

 俺は首を傾げた。

「私が今いくつか分かる?」

「高3の誕生日だから18歳ですか」

「そう。でも私の誕生時は18時。つまり厳密には今日の18時までは17歳ってこと」

 変な論理だが何か言いたいことがあるのだろう。

「君は遵法精神が強いでしょ?だから今日を逃すと次は君が18歳になるまで待たないといけないって訳」

「何を言って……」

「嫌だったら顔背けて」

 そう言うと佳澄さんは俺を布団に押し倒し、顔をグッと近づける。

 そしてようやく理解した。

「背けないってことは良いってことだよね」

 次の瞬間彼女の唇は俺の唇に触れていた。

「ッハァ。どう?初めてのキスは?」

「……」

 何も考えられない。

 頭が外の雪みたいに真っ白だ。

「ねぇ少年。君はどうしたい?」

 彼女の顔を見上げると明かりはストーブの火だけなのにはっきりと火照っているのが分かった。

 アルコールの匂いもしないし、きっと彼女の本心なのだろう。

 この先どんなトラップがあったとしてもどうでもいい。俺は彼女の背中に手を回し、強く抱きしめた。

 彼女もそれに応えるように俺の背に手を回し、優しく抱きしめた。

「佳澄さん。俺……」

「分かってる。私もだよ」

 佳澄さんの温かさを全身に感じる。

 ストーブの火や鍋とも違う温かさ。心が満ちていく温かさ。

 涙が頬を伝う。

 心に空いた穴が埋まった気がした。

 どこかこの世界に嫌気が差し、投げやりになっていた心に一筋の光が差し込んだ。

 それはまるであの夏の日の太陽のように強烈で、俺の心を満たしてくれる。

「続き……しよ?」


 目が覚めると陽は高く昇り、時計を見ると短針は11を指していた。

 隣ではまだ気持ちよさそうな寝息を立てて佳澄さんが寝ている。

 布団の中でも少し寒さを感じるのはお互いに何も着ていないからだろう。

 彼女を起こさないように布団から出て着替え、リビングに行くと家電に留守電が入っていた。

『朝日へ。誠だ。悪い、来年から一緒に住む話だが、転勤が決まっちまった。悪いがこっちに来るなら1人で住むことになる。もちろん今までみたいに仕送りもするし高校生だからな。遊びに行く金も必要だろ、生活費増やしてやる。じゃあまた電話くれ。それと多分今日お前のスマホが届くからくれぐれも夕方は家に居ろよ』

 伯父さんには感謝以外が思いつかない。

 スマホが届いたらまた連絡しよう。

「おはよーしょうねん」

 眠そうな目をこすりながら佳澄さんが下りて来た。

「おはようございます。起こしちゃいました?」

「ううんそんなことないよ。それより今日はどうする?っとその前に……」

 小走りで俺に近づいて俺を抱きしめると、流れるような動きで唇を合わせる。

 一晩で俺達も慣れたものだ。

「俺も佳澄さんに言いたい事があって……」

「どうしたの?」

「来年伯父が転勤で東京を離れるんですが、それに伴って東京で一人暮らしすることになったんです。だからその……一緒に住みませんか?」

 思い切って言ってみた。

 昨晩の件でどっかのタガが外れた気がする。

「少年がいいなら私もいいよ」

「ッし!あ、でもまだ全然決まってないんで追々相談しますね」

 その後は雪かきをし、彼女が家から持ってきたケーブルをテレビに繋いで二人で映画を見たりしながら夕方を待った。


 家のチャイムで外に出ると宅配便のトラックが停まっており、小さな段ボール箱を抱えた配達員が玄関の前に立っていた。

「三上朝日さんでお間違いないでしょうか?」

「はい」

「それではこちらにサインを……ありがとうございます。それでは」

「ありがとうございます」

 箱を受け取り、リビングに戻ると佳澄さんはさっき買ってきた食材で料理を作っていた。

「なんだった?」

「スマホです。伯父が送ってくれたんです」

 箱を開けると最新機種のスマホが入っていた。

「そういえば今まで持ってなかったんだ。じゃあ早速連絡先交換しよ!」

 暫くスマホを充電し、アプリをインストールすると俺の手からスマホを奪い取り、自分のスマホと二台で操作を始めた。

「ほら出来た!」

 帰ってきたスマホには連絡先の欄に1つ佳澄という文字があった。

「少年の初めていくつももらっちゃったね」

「そんなこと言って、佳澄さんも初めてだったじゃないですか」

「ふーんそういう事言うんだ?もしこの後うっかり手が滑って君の味噌汁だけ塊の味噌が入ってても知らないからね」

「すみません。反省してるんでちゃんと溶かして入れてください」

「分かればよろしい」

 そう言って再び料理に戻った。

 俺はその間に家電で伯父に電話を掛けることに。

『もしもし朝日か?』

「そうです伯父さん」

『そうかそうか!元気そうで何よりだ!それでスマホは届いたか?』

「ええ。設定もばっちりです」

『それは良かった。それでどうする?こっち来るか?』

「はい。それでその件で少し相談があるんですけど……」

 佳澄さんの件を伯父さんに話した。

『なんだそんな事か。いいに決まってるだろ!お前の声を聞く限りいい人なんだろうな。ただ、その代わりちゃんと相談しながら暮らして行けよ』

「ありがとうございます。それで家賃の方はいくら位を想定してますか?」

『なにそんなこと気にしてんだ。お前らの分払ってやるよ』

「悪いですよそんなの。俺も彼女もバイトするんで」

『馬鹿お前。学生に全部払わせる奴がどこにいるんだよ。それに俺としても妹の償いとして受け取って欲しいんだ』

 伯父さんは仕送りを送ってきた時も言っていた。『遠慮しないで受け取ってくれ。もしどうしてもって言うなら妹の……お前の母さんの償いとしてっていう理由でどうだ?』

 この言葉のお陰で遊びにも使えたりしていた。まぁ、食生活に関しては生活スキルが無さ過ぎて絶望って感じだったが。

 だが、これからは佳澄さんもいるし、いざとなれば伯父さんを頼れる。

 これからは前を向いていけそうだ。


 数か月後、俺は見事試験に合格し、晴れて東京の高校への入学が許された。

 3月も半ば。必要な荷物は全て東京の家に送り、今日はとうとう東京へと旅立つ日。

 伯父さんが秋田駅まで迎えに来てくれるらしく、待ち合わせ時間の30分前にはついていた。

 都会まで出て来るのは久しぶり過ぎて少しアウェイ感を感じるが、これから東京民として慣れて行かなけれはならないな。

 待ち合わせ場所近くで座って待っているとあまり出会いたくない相手が俺の前に現れた。

「母さん……」

 久しぶりに会った母さんの左頬は赤く腫れていた。

「俺は母さんがなんて言おうと行くよ。多分きっとこの先会う事はないだろうけどどうなろうと俺は知らないし興味ない。だから母さんも好きにしてよ」

「……ごめんなさい。あなたをないがしろにして」

「いまさら謝られても困るな。まぁでも贖罪の気持ちがあるならこれからは父さんに恥じないまともな生き方してくれない?」

「あなたが私の事を忘れても私はあなたを忘れない。あなたが頼れる大人になるわ」

 そう言って差し出したのは新幹線のチケット。

「なんで……」

「兄さんからさっき渡されたのよ。この先あなたが望まない限りあなたの前に現れることはないわ。じゃあ……さようなら」

 遠ざかっていく背中を静かに眺める。

 あんな風に丸まった母さんの背中を見るのは父さんが死んだ時以来だ。

 きっと痛い目に会ったんだろう。

 別に母さんに破滅の道を歩んで欲しいとは思ってない。だが、俺から積極的に関わりたいとは思わない。

 母さんが変わったら伯父さんが教えてくれるはずだ。

 その時助けを必要としていたら頼ろう。

 

 東京の新居には既に荷物が届いており、荷解きは伯父さんが手伝ってくれた。

 崖上町の家ほど大きくない1LDKの小さな家。

 都心に近い為値が張ったはずなのだが、公務員として出世した伯父さんからすればこの程度屁でもないのだろうか。俺もそのくらい稼げるようになりたい。

 佳澄さんは明日の卒業式が終わり次第来るらしい。

 お父さんとは話を付けたと言っていた。

 まぁどうなっても足跡は残さないようにしているため追って来れないだろう。

 彼女は東京で進学するのではなく、モデルの仕事をすると言っていた。

 どうやら去年崖上町に来る前にスカウトされていたらしく、その返事を待ってもらっていたらしい。

 超大手で俺でも知ってる芸能人を輩出しているような事務所だと言っていたが、まぁもし怪しいところでも彼女なら大丈夫だろう。

 まぁ、俺としては佳澄さんが出る映画を映画館で観たいけれども。

 新居で最後の1人を楽しみつつ、来る途中で買ったおにぎりを今夜の晩御飯で食べる。

 多分バレたら怒られるだろうな。


 数年後俺は大学生になった。

 かなり頑張ったが第一志望には届かず、滑り止めで受けていた大学に合格。

 学費はどうしてるかというと、伯父さんではなく佳澄さんに払ってもらっている。

 佳澄さんはこの数年で売れに売れ、どの番組でも引っ張りだこの売れっ子女優へ。

 元々演技の才能があったらしく、モデルをやりながら稽古を重ねていたら、様々な監督から声がかかりドラマや映画に出るように。

 テレビを付ければ日に2回は佳澄さんを見るようになった。

 他にも変わったことがある。

 佳澄さんはテレビに出るようになってからたばこを辞めた。

 その代わりかなり酒を飲むようになり、帰ってくればまずは一杯と言って缶を開けるように。

 俺としてはどちらもあまりやらないで欲しいのだが、少なくとも体へのダメージを分散することに成功したのでひとまずは喜ぶことにしよう。

 あの夏たまたま学校をサボっていなければ。

 勇気を出して彼女を引き留めていなければ。

 俺はこの幸せを掴むことはなく、死んでないだけの生きる力のない少年になっていただろう。

 俺は今でも覚えている。

 家と家の間。青い空と碧い海が広がる絶景の中二人で現実から逃げたあの景色を。

こんにちは。

 ここでは設定や物語の補完を行いたいと思います。

 まず崖上町は聳え立つ大きな崖の上にある町です。一つの町が崖として突出してるとおもってください。また、海はグアムやハワイのような澄んだ青をしています。この時点で既に現実ではあり得ませんね。日本海はもっと黒めの青ですもんね。

そして主人公は数年前に父親を病気で亡くしています。その結果母親がどん底まで落ち、ホストなどに入れ込むように。最後では兄の誠にきつく説教されてそれらの関係をその場ですっぱり切り反省しました。あれは母親の本心です。


 佳澄の両親は父親の粗暴な性格に嫌気がさした母親が引っ越して早々出て行ってしまい、当たり先が佳澄だけになってしまったという経緯です。あれですね、ギルネリーゼ出す時-0-2のせいでベルカスのクレストついてるのに2面当たれないって感じです。話が脱線しましたね。

佳澄の映画好きというのはつらい現実から逃げるための手段で我に返ってみてみると実はそんなに面白くないみたいな映画が多いです。二人で映画見てるシーン何見てたら面白いですかね。デッドプールとかどうですか?え?ダメ?じゃあ閃光のハサウェイでも見といてもらいましょう。どろどろの恋愛をね。

 そして映画の話でもう一つ。

 朝日の「クソッ!肉欲が邪魔をする!」はハサウェイっぽくするためのセリフです。最初は「断ち切って見せるさ。家族関係も、肉欲も!」というセリフを出そうと思いましたが泣く泣く断念。結果残ったのがあのセリフです。

 そして一番の無理で終わってる設定として伯父の誠は別班です。

また、スマホを届けに来た配達員も別班の一員で、あれには特別なトラッカーが仕込まれています。

朝日は伯父を尊敬しているので伯父の足跡を一切残さないやり方を無意識にインプットしているため、それを当たり前と思って佳澄にもやり方を教えて、佳澄もそれを実行しています。

なのでやろうと思えば朝日は公安だろうと別班だろうと振り切れます。


 あと実は企画の段階の話ですけど、設定としてはもっと歳の差がある設定にしようかと思ったりしてました。小学生の時に出会った佳澄が高校生になって教師と生徒という形で再会するっていうね。ただ自分、禁断の愛っていうのあんま好きじゃなくてイメージが湧かないんで辞めました。


いかがでしたでしょうか、設定が9割のラブコメは。

自分自身夢で見た景色をこれを読めば思い出せるので満足してます。

反感があれば「朝日&佳澄VIVANT編」でも書こうかと思います。

感想、やいいね、誹謗中傷、人格否定どしどしお待ちしております。

あと最後にこれはお願いなのですが、朝日と佳澄の濡れ場書いていただける同人漫画作家の方いらっしゃいませんか?衝動的に書いた作品とは言え彼らにはちょっと思い入れがあるんです。正直見たいです。原作が必要であれば全然書くんでお願いします。

それではあるか分からない次回作でお会いしましょう。

コンゴトモヨロシク

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