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放課後、秘密を拾ってしまった僕はなぜか美少女たちの相談役になった件  作者: 常陸之介寛浩 本能寺から始める信長との天下統一


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第16話 元気系女子は相談を口実に距離を詰めるのがうますぎる

 藤宮みずきは、勢いで何とかしているように見られることが多い。


 たぶん実際、半分くらいは勢いで何とかしている。

 朝は寝癖をごまかし、授業の小テストは直前の五分で粘り、部活では「気合いでいける!」を本気で戦術に組み込もうとする。

 そして人間関係に関しても、おおむね距離は近い。近いというか、気になった相手にはそのまま行く。行ってから考える。


 そういう自分を、みずきは嫌いではなかった。


 でも最近、その“行ってから考える”が少しだけ危うくなってきている気がしていた。


 原因は分かっている。


 影山涼太だ。


「……はあ」


 朝、教室へ入る前の廊下で、みずきは珍しく小さく息を吐いた。


 なんでこんなに意識するのか、自分でもよく分からない。


 最初は面白かっただけだ。

 朝比奈ことりとの変な空気。

 パンツだ何だの単語だけが先行して、本人は本気で困っている顔。

 しかも実際に話してみると、変な男子じゃないどころか、女子の面倒ごとにいちいち真面目に付き合ってしまう困ったタイプ。


 そういうのが新鮮で、ついからかって、つい近づいて。


 そのうち、自分のノートを探してもらったり、弁当や洗濯の相談に乗ってもらったりして、気づけば“話しかける理由”が増えていた。


 理由が増えすぎて、最近ではもう、理由がなくても話しかけたくなる。


 それが問題だった。


「みずき、どうしたの。朝からため息なんて」


 後ろから部活仲間に声をかけられ、みずきは反射で笑った。


「え? 何でもないよ」


「ほんと?」


「ほんとほんと」


 軽く流す。


 こういうのは得意だ。

 得意なはずなのに、心の中だけは少しざわつく。


 教室へ入ると、影山はもう来ていた。


 いつものように席に座って、鞄の中を整理している。

 特別何かしているわけではない。

 なのに、みずきの目はそこへ吸い寄せられる。


 そこでふと、別のことにも気づく。


 朝比奈ことりも、同じタイミングで影山の方を見ていた。

 しかも気づかれたくない感じで、すぐに視線を逸らしている。


「……あー」


 みずきは心の中で小さくうなった。


 分かってはいたけど。

 やっぱり朝比奈も、かなりきてる。


 黒瀬レナも何だかんだで影山への態度が前より柔らかいし、白鳥つばさは静かに面白がってるふりをしながら、もうだいぶ当事者寄りだ。


 つまり、のんびりしている暇はたぶんない。


「でもなー……」


 だからといって、正面からどうこうできる自信もない。


 みずきはこういう時、勢いで告白するタイプの女子ではない。

 いや、勢いだけならできるかもしれない。

 でもそのあとで、自分が恥ずかしくなって死ぬ。


 それは嫌だ。


 だから今日もたぶん、いつも通りいくしかない。


 相談を口実に。

 冗談を口実に。

 少しずつ近づくしかない。


「……よし」


 小さく気合いを入れて、みずきは自分の席へ向かった。


     ◆


 一時間目と二時間目の間の休み時間。


 影山が机でノートを見返しているところへ、みずきはごく自然な顔で近づいた。


「影山」


「何だよ」


「今日のお弁当、何」


「第一声それか」


「大事なことじゃん」


「鮭」


「それ昨日じゃなかった?」


「昨日は鶏」


「細か」


「自分で作ってるからな」


「はいはい、えらいえらい」


 みずきは机の横に軽くもたれた。


 いつも通り。

 そう、いつも通りだ。


「で、本題」


「あったのか」


「あります」


「嫌な予感しかしないな」


「今日はちゃんと生活相談」


 影山が少しだけ警戒を緩めるのが分かった。


 この感じだ。

 変に身構えられず、でも自然に相手の時間の中へ入っていく感じ。

 最近のみずきは、これが妙にうまくなってきている気がする。


「で、何」


「部活のあとってさ、めっちゃお腹空くじゃん」


「まあな」


「でも帰ってから食べるまで微妙に時間ある時あるじゃん」


「うん」


「そういう時、何食べるといい?」


 影山が少しだけ考える。


「家ならおにぎりとか、スープだけ先に飲むとか」


「コンビニなら?」


「サラダチキンか、スープ系。揚げ物は帰ってからの飯が重くなる」


「うわ、ちゃんとしてる」


「おまえが聞いたんだろ」


「でも今の、地味に助かる」


「ならよかったな」


 その返しが、ほんとうに自然だ。


 いやみでもなく、変に格好つけるでもなく、ただ普通に答える。

 みずきはそれを見ながら、また少しだけ思う。


 こういうところなんだよな、と。


「影山ってさ」


「今度は何だ」


「彼女できたら、めちゃくちゃ世話焼きそう」


 言ってから、みずき自身が一瞬止まった。


 何を言ってるんだ自分は。


 影山も当然、ぴたりと動きを止めた。


「……は?」


「いや」


 心臓が変な音を立てる。


「そういう、なんとなくの話!」


「何だよ、なんとなくって」


「だって今の流れで分かるじゃん!」


「分からないけど」


「分かれよ!」


 思わず声が大きくなる。

 前の席の男子が振り向いた。

 まずい。


 みずきは慌てて咳払いし、声を落とした。


「いや、ほら。何かさ。細かいこと気づくし、困ってると放っておけないし」


「それは彼女じゃなくても同じだろ」


「そうだけど!」


 そうだけど、そういうことじゃない。


 でもその先をどう言えばいいのか分からない。


 すると影山が少しだけ困った顔で言った。


「おまえ、今日ちょっと変だな」


「変じゃないし」


「いや変だろ」


「影山にだけは言われたくない」


「何でだよ」


「何ででも!」


 意味が分からない返しをしてしまった。

 みずきは自分でも顔が熱くなるのを感じた。


 そこでさらに最悪なことに、後ろから静かな声がした。


「藤宮さん」


 振り向く。

 朝比奈ことりだった。


 いつからいた。


 みずきは一瞬だけ固まったが、すぐに持ち前の勢いで笑う。


「朝比奈、何?」


「次の授業、移動です」


「あっ」


 完全に忘れていた。


 みずきは慌てて鞄をつかむ。

 その慌て方をごまかすように、影山へ向かって言った。


「と、とにかく! 今のは相談じゃないから!」


「何の宣言だよ」


「忘れて!」


「何を」


「全部!」


 そう言って逃げるように席を離れた。


 後ろで、ことりが少しだけ不思議そうな顔をしていた。

 いや、少しだけではない。かなり気にしている顔だ。


 だめだ。


 今日はなんか、最初から調子が狂っている。


     ◆


 移動教室のあと、みずきはしばらく影山に近づけなかった。


 正確には、近づくたびにさっきの自分の発言を思い出してしまう。


 彼女できたらめちゃくちゃ世話焼きそう。


 普通に考えて、何を言っているのか。

 そんなの、半分告白の入り口みたいな台詞じゃないか。


「……ないないない」


 女子トイレの鏡の前で、小さく首を振る。


 落ち着け。

 たぶん影山はそこまで深く受け取っていない。

 あいつ、こういう時たぶん鈍い。

 いや、鈍いというか、正面から変な方向に受け取らないようにしている感じだ。


 それはそれで優しいのかもしれないけれど、今のみずきには少しだけ恨めしかった。


「藤宮さん」


 また声がした。


 ことりだ。


 今日に限って、よく鉢合わせる。


「な、何?」


「さっきのことなんですが」


「さっき?」


「影山くんに言っていたこと」


 やめてくれ。

 そこを掘るな。


 みずきは反射で笑った。


「えー、あれ? 冗談だよ冗談」


「そうですか」


 ことりの声は静かだった。

 だが、その目はやけにまっすぐだった。


「でも、少しだけ本気に見えました」


「……」


 みずきは一瞬、返事に詰まる。


 朝比奈ことりはこういう時、変にごまかさない。

 静かな顔のまま、本質だけを言ってくる。


「朝比奈って、そういうとこずるいよね」


 思わずそう言うと、ことりが少しだけ目を丸くした。


「え?」


「いや、何でもない」


「……」


「でもさ」


 みずきは鏡の前から離れ、ことりを見る。


「朝比奈だって、影山のこと特別に見てるじゃん」


 ことりは少しだけ息を止めた。


 それで十分だった。


「やっぱり」


「否定は、しません」


 ことりが小さく答える。


「でも、だからといって藤宮さんに何か言うつもりはありません」


「言わないの?」


「言う資格もないです」


 その返しは、ことりらしい。


 まっすぐで、でも妙に引いている。

 自分がどう思っているかは認めるのに、それを理由に他人を押しのけることはしない。

 それが強みでもあり、たぶん弱みでもある。


「……朝比奈ってほんと優等生だね」


 みずきが言うと、ことりは少しだけ困ったように笑った。


「そう見えるだけかもしれません」


「その返し、最近好きだよね」


「便利なので」


 思わず、みずきも笑ってしまった。


 なんだかんだで、こうして話しているとことりのことも嫌いにはなれない。

 むしろ分かる。

 影山みたいなやつを相手にしたら、静かなタイプの女子はああいうふうになるのだろう。


 でも、自分も引くつもりはない。


「ま、いっか」


「何がですか」


「ちょっとずつ、ってこと」


 ことりが一瞬だけ意味を考えて、それから小さくうなずいた。


「……はい」


     ◆


 放課後。


 その日は珍しく、みずきと影山が帰る方向で一緒になった。


 部活は休み。

 みずきは一人で駅前へ向かい、影山もその少し後ろを歩いている。

 気まずい。

 ものすごく気まずい。


 だが、このまま無言で解散するのも何か違う。


「影山」


「ん」


 振り向かないまま、短く返事が来る。


「さっきのことだけど」


「何」


 そこまで言われると逆に困る。


 何、とは何だ。

 自分で蒔いた種なのに、いざ触れようとするとやっぱり恥ずかしい。


「……午前中のやつ」


「ああ」


 そこでようやく影山が少しだけ横を見る。


「別に気にしてない」


「え」


「冗談半分だったんだろ」


 その言い方に、みずきの胸が少しだけざわつく。


 助かった、と思う反面、少しだけ残念でもある。

 やっぱりこの人は、そうやってこっちの逃げ道を残す。


「まあ、半分はそう」


「半分?」


「そこ拾うな!」


 みずきが顔を赤くすると、影山は少しだけ困ったような顔になった。


 その顔を見ると、意地悪をしたくなる。


「でもさ」


 みずきは歩きながら言う。


「影山って、ほんとに彼女できたら大事にしそうだよ」


「……またその話か」


「何か嫌そう」


「嫌じゃないけど、答えにくい」


「何で?」


「何でって」


 影山は少しだけ視線を逸らした。


「そういう話、慣れてないから」


 その返事は、妙に正直だった。


 みずきは一瞬だけ目を丸くする。


 そうか。

 この人はこういうところ、本当に慣れていないんだ。


 それが分かった瞬間、午前中の恥ずかしさが少しだけ別のものに変わる。

 ただ自分だけが動揺していたわけじゃないのかもしれない、と。


「……そっか」


「何だよ」


「いや、ちょっと安心した」


「何に」


「何でもない」


 今度はみずきが逃げた。


 駅前の自販機の前で足を止める。

 喉が渇いていた。


「何飲む?」


「え」


「相談料のかわり」


「いらない」


「遠慮すんなって」


「いやそういう問題じゃなくて」


「じゃあ私が勝手に買う」


 返事を待たずに、みずきは自販機へ小銭を入れた。

 スポーツドリンクと、影山には無難にお茶を買う。


「はい」


「……ありがと」


「どういたしまして」


 影山が缶を受け取る。

 その指先が少しだけぎこちないのを見て、みずきはまた少しだけ笑いたくなった。


「影山ってさ」


「今度は何だよ」


「相談じゃなくても、話しかけていい?」


 言った瞬間、自分で心臓が跳ねた。


 これはまずい。

 かなりまずい。

 さっきよりずっと危ない。


 影山も目を見開いた。


「……は?」


「いや、だから!」


 もう遅い。

 言葉は出た。


「何か最近、相談の時しか話してないみたいで、それも違うかなって」


 苦しい言い訳だ。

 でも半分は本音でもある。


 ただ話したい。

 それだけだ。

 でもそれだけを言うのは、まだ少し怖い。


 影山はしばらく黙っていた。

 みずきは逃げたくなった。

 自販機の裏にでも隠れたい気分だ。


 やがて、影山が少しだけ息を吐く。


「……別に、いいけど」


 短い返事。


 でも、その短さが逆に本気だった。


「相談じゃなくても」


「おう」


「ほんとに?」


「何で二回確認するんだよ」


「いやだって」


 うれしくて、確認しないと変になりそうだったのだ。


 影山は少しだけ呆れたように笑った。


「おまえ、勢いあるくせにこういう時だけ弱いな」


「うるさい!」


 みずきは顔が熱くなるのを感じながら、スポーツドリンクの缶を強く握る。


 やばい。

 今のはかなりきた。


 でも、その一方で、ちゃんと前へ進んだ感じもした。


「じゃ、じゃあ今後は」


「ん?」


「相談じゃなくても話しかけるから」


「宣言することか、それ」


「大事なので!」


 そう言い切ってから、やっぱり恥ずかしくなって、みずきは一歩下がった。


「……今の忘れて」


「何でだよ」


「だって恥ずかしいじゃん!」


「おまえな……」


 影山は半分あきれ、半分困ったみたいな顔をしていた。

 でも嫌そうではない。


 それだけで、みずきは少しだけ救われる。


「今の、相談じゃないから!」


 逃げるようにそう言って、みずきはくるりと背を向けた。


「おい」


「じゃあね!」


 そのまま早足で歩き出す。


 背中越しに影山の「危ないから前見ろよ」という声が飛んできて、みずきは思わず笑いそうになった。


 そういうところだ。


 ほんとに、そういうところなのだ。


     ◆


 帰り道、みずきは一人で思う。


 冗談のつもりで近づいた。

 相談を口実にした。

 からかって、笑って、勢いで距離を詰めた。


 でも気づけば、“ただの冗談”では足りなくなっていた。


 影山涼太は、たぶん特別だ。


 話していると落ち着く。

 ちゃんと見てくれる。

 その時の自分だけを見てくれる。


 だから、冗談みたいに始まった言葉が、少しずつ本気の入口へ近づいていく。


「……まずいなあ」


 空を見上げて、小さく呟く。


 でも、その“まずさ”を嫌だとは思わなかった。


 むしろ、少しだけ楽しい。


 元気系女子の“ただの冗談”は、たまに本気の入口だったりする。

 そしてたぶん、自分はもうその入口に片足を突っ込んでいる。


 それを認めた瞬間、みずきは一人で少しだけ顔を赤くした。

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