第2話 ブリーフィング
「いつ見てもきれい!」
”巣”の小惑星の外殻が青白い光を放ちながら爆散する様子を見て、第2小隊のフェリスはうっとりと声を上げた。
エリーゼがブリーフィングルームに入ろうとしたとき、正面のスクリーンには蜘蛛型宇宙生物の巣にZ3411から放たれた多数の大型対地ミサイルが一斉に着弾する様子が映し出されていたのだ。50名ほどが入れる大きな部屋には、総勢約20人のフェルギエ達が思い思いの席に座ったり、後ろの壁に寄りかかったりして集まっていた。
部屋の正面スクリーンの前に中隊長のハワード大尉が立ち、隣には先任フェルギエのアリカがいた。ハワード大尉は精悍な顔つきで集まったフェルギエ達を見渡した。鍛えられた体が連邦宇宙軍のライトグレーの制服の上からでもよくわかった。
アリカは中隊のフェルギエの中でも一番年上だが、フェルギエは外見上は年を取らない。ポニーテールの赤い髪と茶色の瞳、ベージュのブレザー姿(フェルギエの制服だ)は首星系のパブリックススクールの生徒のようにも見えた。
「でかいですね」
最前列の席に行儀良く座った、中隊本部付パイロットのカトー少尉が言った。短く刈り上げた黒髪の、まだ少年と言ってもおかしくはない童顔の青年だった。彼は士官学校を卒業し、第1055打撃群の機動歩兵中隊二人目の人間(一人目はもちろん中隊長のハワード大尉だ)として配属になったばかりの”新品”少尉だった。人間の搭乗するファランクスは複座になっているため、隣には少尉のファランクスに同乗するフェルギエのナタリアが座っていたが、彼女もまた先月納品されたばかりの”新品”だった。
ハワード大尉は言った。
「最大径が15kmある。X63型だが、サブタイプが・・・」
「A5、ですね」
ミサイルによって外殻を剥ぎ取られ、表面が露出した状態で宇宙空間に浮かぶアラネアの巣を見て、アリカが補足した。アラネアの巣は数十のパターンが存在し、その中でもいくつかのサブタイプに分類されていた。外観の特徴からタイプを特定すれば中の洞窟の構造はほぼ推定できるため、識別は重要だった。
アリカは部屋の後ろのドアに隠れたエリーゼを見て言った。
「エリーゼ、空いてるところに座って」
「はい」
エリーゼがおずおずと一番後ろの角の席に座ると、ハワード大尉が続けた。
「攻撃方法はX63A5の想定どおり。第1と第2小隊は私が指揮をとって先行し、兵隊蜘蛛を制圧する。第3小隊はアリカの指揮で重力子爆弾を設置。第4小隊……といっても少尉の他はタチアナだけだが、予備の重力子爆弾を持って、ここまで前進する。カトー少尉の指揮で待機だ」
大尉は正面のディスプレイにアラネアの巣の想定図を立体表示させ、グルグルと回しながら説明を続ける。
「推定される女王の部屋はここだ。第1小隊はその先の、ここまで前進して待機、第2小隊はここで残った労働蜘蛛を食い止める」
「次に装備だが第1、第2小隊はA兵装。擲弾筒4本。第3小隊は・・・」
作戦の説明が続いた。が、巣の攻撃はある程度パターン化している。ほとんどのフェルギエたちは退屈そうに聞き流していた。
「説明は以上だ。何か質問は?」
第1小隊のデイジーが艦内売店《PX》で買ったアイスクリームを食べながら、スプーンを持った手を上げた。
アリカが端末のペンで彼女を指すとデイジーが発言する。
「なんで第1小隊がいつも先頭なんですかー」
ハワード大尉が答えた。
「第1小隊だからだ」
「異動を希望しまーす」
「検討しておく。だが今日は我慢して一緒に来てくれ」
デイジーはスプーンで敬礼し、座席の背もたれから逆さに振り返ると、エリーゼに向かってウィンクした。
「私も第3小隊がいいな」
「えっ!?」
いきなり視線が合ったエリーゼはびっくりして胸に手を当てた。第3小隊のエリーゼは今回も重力子爆弾の護衛役だ。
「他には?」
「はい」
中ほどの席で手が上がる。
「パメラ」
アリカが指名した。
「ワンちゃんはちゃんと指揮できますか?」
「ワンちゃん?」
ハワード大尉は怪訝そうな顔をして聞き返した。
「・・・カトー少尉のことです。おそらく」
アリカが正面を向いたまま補足した。
「わんわん!」
後ろの方で誰かが茶化した。
エリーゼからは、カトー少尉の肩が心なしか震えているように見えた。
「少尉は宇宙軍士官学校で十分に訓練を積んできている、能力に問題はない。それからパメラ、階級には敬意を持って接するように」
「はーい」
ハワード大尉は部屋の中を見渡し、ほかに質問がないことを確認するとブリーフィングを終了した。
「では15分後に出撃する。解散」




