「これは友達の話なんだけどね?」と言われ早三年。いい加減バレバレなことに気づいてくれ
――三月。
小さな公園の、小さなベンチに座る宮地と小鳥遊。
「宮地って帰り道こっちだったんだ」
「いつも遠回りして帰るからさ、坂崎たちと」
「ほんとそこ仲いいよね~、男子ってカンジ」
「あはははっ、なんだよそれ」
小鳥遊が卒業証書の入った筒を空に掲げる。
「もう中学も卒業かー。早かったなー」
「早かったなぁ」
風が吹き、桜のつぼみをかすかに揺らす。
まだ冷たい、三月の春風。
「……あ、あのさ」
「ん?」
「これは……友達の話なんだけどね?」
小鳥遊が、ゴクリと喉を鳴らす。
「その子の好きな人が一緒の高校に入るみたいで」
「それはめでたいな」
「そう! そうなんだけど……これを機に仲良くなりたいっていうか? 中学の時は話せるけど、すっごい仲良しってカンジでもなくて……どうしたらいいかな?」
「どうしたらって?」
「つ、つ…………付き合う、には」
背もたれに深く体重を預ける宮地。
「そうだな……中学が一緒ってことは、地元が同じってことだろ?」
「う、うん。家も結構近い……みたい」
「だったら、それだけで高校だと相対的に仲いい部類に入るだろうし、かなりチャンスだと思う」
「ほんと⁉」
「そのアドバンテージを初めから生かして、んー……一緒に帰るとか、いっそのこと同じ部活に入るとか」
「な、なるほど」
「参考になりそう?」
「なりそう! ありがと宮地!」
「どういたしまして」
穏やかな時間が、二人の間に流れる。
春風がそっと吹いていた。
「そういえば、小鳥遊も二高だろ?」
「えっ⁉ あっ、そ、そう! 二高!」
「これから三年間、よろしく」
「う、うん! よろしく!」
――七月。
高校に入って初めての夏。
ラケットをベンチに立てかけ、座る宮地と小鳥遊。
「あっついねぇー……」
「あっついなぁ……」
ゴクリと喉を鳴らしながら水を飲む宮地。
を、思わず見てしまう小鳥遊。
「ん?」
「いやっ! な、なんでもない! なんでも!」
セミの鳴き声が響いていた。
「あのさ宮地。これは……友達の話なんだけどね?」
「友達の話?」
「ほら、えっと……卒業式の日も相談した!」
「あー、あの子か。どうした?」
「その子がね? 部活も同じとこ入って、たまに一緒に帰るようにもなったんだって」
「へぇ、それはすごいな」
「そう、すごいの! でもそこからどう、その……イイ感じに持っていけばいいのかわかんないみたいで……どうしたらいいかな?」
「俺もあんまり恋愛のことわかんないけど……二人で出かけたりしたらいいんじゃないか?」
「なるほど……それはつまり、デートってこと?」
「デートってこと、かな。よく知らないけど」
「よく知らないんだ……ふーん……」
「ん?」
「あっ、いや! う、うん、わかった。ありがと宮地!」
「どういたしまして」
――二月。
高校に入って、初めての冬。
吐いた息が白くなることに少し感動しながら、ベンチに座る宮地と小鳥遊。
「これは友達の話なんだけどね?」
「あー、前に言ってた?」
「そうそう。その子がね? デートに行こうとはしてるらしいんだけど……な、なかなか誘えないみたいで」
「なるほど」
「ハードルが高いっていうかさ! 勇気とか……難しいし。どうしたらいいかな?」
「うーん……だったら、デートっていうテイじゃなくて何かしらの口実があればいいんじゃないか?」
「口実?」
「たとえば、共通の友達の誕生日プレゼントを買いたいから付き合ってほしい、とか。なんでもいいと思うけど」
「なるほど! そういう攻め方もあるんだね……ありがと宮地!」
「どういたしまして」
――九月。
高校に入って、二度目の秋。
いつものようにベンチに座る宮地と小鳥遊。
「宮地宮地! 大変だよ! 友達の話なんだけどね⁉ これは!!!」
「お、おう」
「その子の好きな人が告白されたらしくて! それも一年生の可愛い子に!」
「へ、へぇ……それで?」
「それで……だ、だから大変なんだよ!」
「今大変なのは小鳥遊だよ」
「私は大変だ……じゃなくてじゃない! 大変じゃないけど! その子が! あー……大変なんだよ!」
「落ち着け小鳥遊」
「どうしよ~~~!!!」
「落ち着け」
――四月。
高校に入って、三度目の春。
桜の花びらを摘まみ、ベンチに座る宮地と小鳥遊。
「もう三年生になっちゃったよ……どうしよう宮地」
「え、何が?」
「だって……あ、これは友達の話なんだけどね?」
「お、おう」
「まだ好きな人と付き合えてないみたいで……好きって気持ちをその人に伝えるというか、遠回しにでも言うのがやっぱり恥ずかしくて……あ、その子が!」
「そ、その子が……」
「どうしたらいいかな……」
「…………」
「宮地?」
「……いや、どうしたらいいんだろうな」
「どうしたらいいんだろうね……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……どうしたらいいんだろうね」
「どうしたらいいんだろうな……」
――十二月。
高校に入って、最後の冬。
かじかむ手をポケットに入れながら、ベンチに座る宮地と小鳥遊。
「これは友達の話なんだけどね?」
「……うん」
「今は受験に向けて頑張る時だし、告白するタイミングをずっと逃しちゃってるのは残念なんだけど……好きって言うのは色々終わってからかなって思ってるんだけど……あ、その子が。どう思う? 宮地は」
「…………まぁ、受験と恋は別というか」
「え?」
「いや、なんでもない。たか……その子のタイミングでいいと思う」
「そ、そうだよね! 今はとりあえず、受験だよね!」
「……そ、そうだな」
――そして、三月。
小さな公園の、小さなベンチに座る宮地と小鳥遊。
「もう卒業だね……」
「卒業だな……」
春の空を眺めるふたり。
宮地は感慨深い気持ちになって……いるわけではなく。
(いい加減「友達の話」って前置きがバレバレなことに気づいてくれッ……!!!!!!)
初めは宮地の鈍さもあって気が付いていなかった。
しかし、ただ「友達の話」という前置きがあっただけで、話の内容は完全に宮地と小鳥遊のことだった。
それに気づいてから、宮地は悩んだ。
本人に伝えてもいいのか、と。
もし本当に友達の話の場合、末代にまで恥という傷が残る。
が、その躊躇いのせいで後に退けないところまで来てしまった。
だって、今伝えてしまえばずっとわかっていたうえで小鳥遊の話を聞いていたということになる。
それはひどく小鳥遊を傷つけることだし、何なら嫌われる可能性だってあるわけで。
そんな状態で葛藤していたら……三年が経っていた。
(どうすればよかったんだ俺は……)
今更頭を抱える宮地。
小鳥遊もまた、感慨深い気持ちになって……いるわけではなく。
(どうしようもう卒業じゃんッ……!!!!)
シンプルに頭を抱えていた。
まさか「友達の話」作戦がバレているとも知らず、単純に告白できなかったことを悔やんでいた。
「…………」
「…………」
ゆっくりと時間が流れる。
春風が、三年前と変わらず吹いていた。
(……いや、気づいてくれだなんて情けないよな)
宮地が拳を握りしめる。
(真摯に思いを伝える以外に、このこじらせを解消する方法はない。だったら……俺は……!)
「…………その、さ」
口を開いたのは、小鳥遊だった。
「今まで色々相談して来たじゃん? 宮地に。恋愛のこと……ほんとに色々さ」
「あ、あぁ」
「すごく参考になってて……でも告白できてなかったでしょ? ずっと」
「そう……だな」
「でも、もう卒業だし……これ以上は四月に持ち越したくないって思ったんだ」
「小鳥遊……」
「だから……その……」
小鳥遊は宮地をまっすぐ見つめ、そらしたくなる気持ちをグッと堪え。
前置きを取っ払い、三年越しに――
「つ、付き合ってほしい……!!!! 好き……だから!!!!!!!!」
「ッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
胸を打ち抜かれる宮地。
ふたりの顔は桜の花びらのようにピンク色に染まっていた。
「えっと、その……」
もう「友達の話」という前置きはない。
だから……だから……!!!
「俺もす――」
「って友達がね⁉ 遂に言ったらしくて!!! あ、これ友達の話ね⁉⁉⁉ 友達の話だよ!!!!!!!」
「…………」
「…………」
・・・。
「あ、そう」
「そうそう!」
「よ、よかったな」
「よかったよねぇ……」
「…………」
「…………」
((アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア))
――十年後。
小さな公園の、小さなベンチに座る男女ふたり。
「これは友達の話なんだけどね?」
「うん」
「十代の頃から付き合ってた彼氏とそろそろ結婚したいなーって思ってるんだけど、あっちはどうなのかなーって悩んでるらしいんだよね」
「なるほどな」
「どうしたらいいと思う?」
「そうだな……」
「結婚したいけどな、俺は」
「……友達の話だよ?」
「友達の話だよ」
「…………もう、何それ」
おしまい。




