ピアノ
それはいきなりのことだった。ある日ピアノの音色が響き渡った。美しくも恐ろしい。背筋が凍るようで、どこか懐かしい。そんな音色が響き渡ったのである。誰が演奏しているのか分からずに。
だが、長時間聴くことはできなかった。聴きすぎると魂が震えてしまい、気絶して倒れる者が続出したから。
ピアノの音色が聴こえてくると人々は耳栓をしなければならなくなった。気絶して倒れた者は、皆目覚めることはなかったのだから。ゆえに恐怖が人々の間に駆け巡ったのである。
演奏者不明のピアノの音色。誰がいつ引いているのかすら謎めいている。それでいて、音色はしっかりと聴こえてくるのだから不思議なものである。作曲者不明の音色が響いている。
途切れれば良い。終わったままでいてほしい。そうすれば気絶して倒れなくて済むのだから。
だが、そのような希望は裏切られていく。打ちのめされるのだ。しばらくして、ピアノの演奏は響いている。お化けピアノならば襲いかかることで演奏は途切れるのだから。しかし、そうではないのだ。
響いているのに、どこにも見当たらない。それが怖さを増している。旋律は美しいのに。聴き惚れそうになるのに。最後に気絶して倒れ、目が覚めないということが無ければいいのに。
それはいつしかミステリーの1つにまでなってしまった。誰も謎を解くことが叶わないミステリーへと。
美しい旋律が聴いている者たちの魂を震わし、気絶の果てに目覚めないという。
今回もピアノは響いていく。人々は耳栓をして対処していく。魅力と恐怖を心の中の天秤に傾けさせながら。
ピアノの音色は響いていくだろう。これからもずっと。それが例え、目覚めぬものだとしてもーー。




