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勝ち気令嬢、年下の第二王子を育て上げます  作者: 松原水仙


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45.ユーゴとロジャー

「まさか君と仲間になるとはね」


 ユーゴが馬を走らせながらロジャーに笑いかけると、「そうだね」と素っ気ない返事がきた。相変わらず笑顔を貼りつけた狐のような顔の男は、前だけを見ている。

 家や店舗に囲まれた、普段は賑やかな通りを抜けているところだ。


 ロジャーが既に自分への興味を無くしている気がして、ユーゴはさらに話しかけた。


「俺の身代金が入らなくて残念だったね」


 ロジャーは、ちらり、と今度はユーゴを見た。やる気のない三つ編みが防具の上で揺れる。


「仕方ないね。騎士である以上は領主に従わないといけないから。でももし裏切っていたら、今度こそ容赦する必要はないよね」

「こわっ。じゃあ、なるべく裏切らないようにしないとね」


 ユーゴが意味あり気に目を細めた。

 街中を過ぎ農地を進んでいくと次第に道が狭まっていく。隊列が縦長になる、こういう場所は注意が必要だ。しかも眼前は森である。


「気をつけた方が良い」


 ロジャーの目が鋭くなった。

 森に足を踏み入れると、十メートルもある木々が鬱蒼と生い茂り、途端に視界が悪くなった。しかも左右が少し小高くなっており、騎士たちは低い谷にいるような状態だ。二列になるのがやっとの狭い道を、足場に注意しながら馬を走らせていく。


 突如、右側からドオオンという強烈な音が聞こえ、後方の隊列から「ぐわぁ」という叫び声が上がった。


 ユーゴが振り返り、小高くなった木々の間から黒煙が上がるのを確認する。木の枝が邪魔で相手の姿は見えない。


「敵襲だ!」


 その声を合図に、馬を走らせたまま騎士たちは矢を構えた。煙の上がった方角に向けて一斉に矢を放つ。

 しかし、今度は左側から銃声が鳴り響いた。同時に「うあぁ」という混乱した声が隊列から聞こえだす。

 相手は木の陰に隠れ、銃で左右からこちらを狙っている。四方から次々と破裂音が聞こえ、辺りはたちまち煙で暗くなった。


「駆け抜けろ!止まるな!」


 ロジャーが叫ぶ。銃などそう当たりはしない。ロジャーの声を合図に、攻撃を止めて隊が進みだす。


 何度目かの銃声の後、爆音により数匹の馬の脚が止まり始めた。馬の鳴き声と人の叫び声が聞こえてくる。後続がその影響で立ち往生する羽目になった。縦に広がった状態を横から狙われ、恰好の的になっている。


「ぐえっ」という音とともに、馬の興奮した声と足音が入り混じる。


「矢を放て!応戦する」


 ユーゴの合図で敵に向かって次々と矢が放たれた。黒煙のせいで状況を目視出来ない。それでも矢を放ち続ける。


 銃声が鳴りやんだ。銃弾を装填しているのだ。


「今だ!左右に分かれて矢を射ろ!」


 銃は一度打つと二発目を打つのに時間がかかる。騎士たちはここぞとばかりに弓を引き続けた。姿は見えないが喚き声と倒れる音が諸所からあがった。


 結果として死者三名、負傷者十一名を出したものの、それほど制圧に時間はかからなかった。

 捕らえた敵はサイファ軍に雇われた、僅か三十名程の傭兵だった。




 森を抜け、川辺で馬を休ませる。負傷者の傷の手当と矢の回収も必要だ。

 ユーゴは二メートルほど離れた場所で草の上に座るロジャーに近づいた。革製の水筒に汲んだ水で喉を潤して言う。


「馬の訓練が足りないんじゃない?」


 その声から呆れを感じとるが、ロジャーは意に介さず剣の手入れを続ける。


「王立騎士団の馬だから、僕に言われても困るよ。狙ってくださいと言わんばかりの進路取りにも問題があるんじゃないかな」

「でも、僕らなら駆け抜けられただろ?進路じゃなく軍の質の問題だよ」

「今、その軍を率いているのは君だけどね」

「文句があるなら、お宅の騎士団長様に任せれば良かったのに」


 ユーゴとロジャーは、背の高い赤毛の男を目に入れた。彼は離れた場所で騎士たちと話をしている。

 二人の視線を感じ取り、エイジがにこやかに片手を振った。

 エイジの隊は後方を任されている。もう少し敵の数が多ければ後方から回ってロジャーたちと敵を挟み撃ちにしたが、今回は必要ないと判断した。


 王立騎士団やユーゴの隊とも上手くコミュニケーションを取り、全体を纏めているのはエイジだった。


 エイジは振っていた手を下げ、遠目に二人を観察する。

 ユーゴはさっさと場を離れ、愛馬の頭を撫でている。ロジャーはその場に座ったまま水筒の水を飲み始めた。


 何ともマイペースな二人は人を食った者同士、似すぎていてお互い鼻につくようだ。だからこそ、もしユーゴが裏切っていれば、きっとロジャーは気づける。そしてあの位置ならば仕留めることも可能だろう。


 エイジは地図へと視線を落とした。ぽつり、とそこに水滴が落ちる。


「雨、か」


 この時期は雨がよく降る。もう少し早ければ今日の襲撃はなかっただろうに。上手くいかないものだ。




 少し進んだ先で拠点を作った頃には、外は暮れなずみ肌寒くなっていた。雨がテントを打ちつける音が絶えず響いている。他の者は食事の準備や警備などで出払っており、テント内にはユーゴとロジャーしかいない。

 テントに凭れるように座るロジャーの前で、ユーゴがあぐらをかいた。


「ねえ、君ほどの腕があるのなら副団長じゃなく他でトップになればいいのに、どうしてしないの?」


 片足を伸ばしたロジャーが、毛先の濡れた三つ編みを解きながら答える。


「今で十分満足しているからかな」


 顔を上にして頭を振ると、髪の先についた水滴が落ちた。

 その長い髪を目で追いながらユーゴが声を潜める。


「ねえ、うちで団長をやらない?今以上の報酬は約束するよ」


 甘い囁きに、ロジャーがクスリと口角を上げた。


「そんなことをするくらいなら傭兵にでもなるよ」


 トップに立てば嫌でも人を纏めないといけなくなる。他人になど興味がないのだ。


 ユーゴは「えー」と残念そうに肩を竦める。

 ちょうどその時、「ユーゴ様」とテントの外から呼ばれ、ユーゴはロジャーを未練たっぷりに見ながらテントを出て行った。



 漸く一人になり、うーんと両手を上で組んで伸びをする。両手で緩い三つ編みを作りながら呟いた。


「つまらないな。早く終わらないかな」



 雨は一晩降り続いた。


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