大通りの交差点
下手くそながら、精一杯書かせてもらいます。
歩行者用の信号が、赤から青に変わる。同時に車の排気音や建物から流れる音楽、それに囲まれながら沢山の人が一斉に横断歩道を進み始めた。
連なる人の波は、個人個人が確認出来ないほどで、あらゆる物を飲み込み一つのうねりへと成る。まるで、巨大な一個体で有るかの様に、意思を持ち、そして蠢く。
当然の事ながら、一人一人は違った目的を持って、この道をひた進んでいる。だが、形成された現代社会の怪物は貪欲なまでの食欲を備え、大都市のど真ん中、十字型の魔法陣上に確かに顕現している。
そんな化け物の腹の中から外れた場所、一人の男性が何か思い詰めたような表情をしながら、重い足取りで横断歩道を渡っていた。
サラリーマンなのだろうか、糊がはげ落ちヨレヨレになったスーツを纏っている。
顔付きはそれ程格好良いと言えるものではない。掘りが浅くのっぺりとしているが、度重なる苦労のせいであろう、所々に影が差していた。
そんな絵に描いたような企業戦士は、今まさに堕ち武者へと身を貶めようとしていた。
仕事では上司にこき使われ、部下は下から自分の位階を虎視眈々と狙っている。これといった才能も無く、ただ我武者羅に働き続け、やっとの事で今の自分がある。しかし、それは大変儚い証であった。
しかも、これからリストラが始まろうとしている。自分はこれからどうなるのだろうか。吹けば飛ぶような将棋の駒、そのような物に身を捧げてきたのだろうか。何とかして変えてやりたい。しかし、それを成す為には「何か」が足りなかった。
男の心の中にはネットリとして、かつ重苦しい物がへばり付いている。自覚はあるが容易に根絶出来るものでなく、今の自分では土台無理であった。
そうこう考えている内に、男は横断歩道を渡り終えていた。さあ、生き地獄の始まりだ、と皮肉っぽく思いつつ、職場へと足を引きずるようにして向かおうとした。
そう思った直後、男は胸騒ぎを感じた。嫌な事が起ころうとしている、直感した男はそれに従って後ろを振り向く。
一つの光景が男の目に光と同等の速度で飛び込んできた。振り返った先―横断歩道には老女が取り残されていた。
既にお馴染みの鳥の声は鳴り止み、彼女はオロオロとしている。信号は点滅しているが、杖を持った彼女では渡りきることは不可能に近い。
「だ、誰か気付いてくれるひとは居ないのか?」
そう呟くが、他の人達は我関せずといった態度で流れに身を任せている。ならば、自分も従った方が波風立たないだろう。だが、男にはちっぽけなプライドがあった。そのプライドが、彼女を捨て置く事を良しとしなかった。
「どれだけ皆さんは薄情者なんですか!ええい、頼むから間に合ってくれよ」
男は交差点の方へと足を向け、自分の後から迫り来る人達を躍起になって掻き分けながら老女の元へ急ぐ。途中で躓いたり、心無い人に突き飛ばされたりしながらも男は進み続けた。
やっとの事で老婆の元に辿り着く。そうして男は彼女の耳元でこう声を掛ける。
「早く私の背中に乗ってください。このままでは車に轢かれてしまいますよ。さあ早く」
「でもねぇ………私ゃ重いんじゃあないのかい?」
「今はそんな事を言っている場合じゃ無いでしょう!もう信号が変わりかけてます」
そう言うや否や、男は老婆をひょいと担ぎ上げ、杖を腋に挟み込むと、背中に乗せた。そうして元来た道を信号が変わらぬ内に、20メートル位の距離を全力で駆け抜けた。今まで自分が出したことも無い速度、それが老婆の危機に直面して今現れた。
男が渡り終わった直後に信号が変わった。別車線の車が走り出す。それと同時に、また人が奔流に巻き込まれる。何とか無事に横断歩道を渡り終わった。息が切れているが大丈夫。
老婆を人が居ない場所に優しく降ろす。すると、彼女がお礼の言葉を紡いだ。
「助けてくれてありがとうございました。あなたが助けてくれなかったら、どうなるか分からなかったわ。本当にあなたは優しい心を持っているのねぇ」
「いやいや、これ位当然の行いですよ。それに、私にはこういう事位しか行動出来ませんから……ハハハ」
「まあ、そんな謙遜なさらなくてもよろしいのに……あなたがそれだけお優しい方で、こんなヨボヨボの婆さんを助けようっていう勇気をお持ちになっているではないですか」
勇気、そうか勇気か。今まで持っていることに気付かなかっただけで手の届く所にあったんだ。自分自身で変われる事が出来る大切な物だったんだ。
男はそこに気付いた。そして荒んだ心の中にへばり付いたわだかまりが、石鹸を使った後のように取り去られるような気がした。
「どうしたのですか?そんな神妙な顔付きで黙り込んで」
老婆が何やら可笑しいといった様子でコロコロと笑いながら、男に問いた。
「いえねぇ、自分でもこんな事が大切なのかなぁと不思議に思いましてね」
「あらまぁ、可笑しな事をおっしゃいますね」
こう言うと、老婆はクスクスと笑い、杖を突きながら歩いて行ってしまった。
さて、そろそろ私も先を急ごうとしますかね。こう思い、その後男は以前より軽い足取りで、まるでスキップをするかのように、その場を後にした。
はい、短いですね……
自分でかいて「何だコレ」と思ってしまいました。
やっぱり自分の実力ではこんなもんか。はぁ~、もっと良い文章を書きたいorz
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