第10話:影を追う者──揺れる心、迫る真実
秋の終わり。木枯らしが街を吹き抜ける。
私は堂本家の書斎にいた。司と並んで、資料を広げている。
「ここにあるのは、過去の事件報告書や怪しい人物の記録だ」
司の指先が資料をなぞる。彼の表情は真剣だった。
「真犯人は、必ず足跡を残しているはずだ」
あの日の結婚式。
香澄が毒を盛った証言は変わった。
だが、誰かが背後にいる──
私たちは二人で捜査を始めた。
司は冷静だ。
けれど、その目はどこか優しい。
そして、確かな覚悟が見える。
調査を進めるうちに、浮かび上がったのは一人の女性だった。
堂本家の古くからの使用人、桐島美咲。
彼女は表向きは控えめで献身的だが、影で何かを隠している気配があった。
ある夜、私はこっそり美咲の部屋を訪ねた。
「……何か知っているなら、話してほしい」
美咲は一瞬ためらったが、やがて小さく息を吐いた。
「実は……私はあの日、あの式場にいた。香澄さんが不自然な行動をしているのを見た」
その告白に、私の心はざわついた。
次の日、司とその話をした。
「美咲が言うなら、調べる価値はある」
だが、その後ろに見え隠れする彼の不安を、私は感じ取った。
「僕も、君を守りたい。だから君に真実を話す」
彼はゆっくりと口を開いた。
「実は、僕には“隠していた過去”がある。君に知られてはならないことだ」
私は静かに聞いた。
「……それは?」
司は視線を落としながら言った。
「かつて、僕は“精神操作”の実験に関わっていた。成功例も失敗例も。その記録はすべてあの部屋にある」
私は息を呑んだ。
「でも、あれは過去だ。今は君を愛している」
その言葉に、私は何かを感じた。
調査は続く。
だが、時間が迫っていた。
ある晩、真犯人からの不気味な電話が鳴った。
「お前はもう逃げられない。すべてを知った者が、消えるのだ」
声は冷たく、無機質だった。
その夜、私は司の腕にしがみついた。
「怖い……でも、あなたがいれば大丈夫」
彼は私を抱きしめ、囁いた。
「これからは、二人で戦おう」
外の風はますます強く吹き荒れていた。