極楽セン
あれから数刻、日は陰る。パチパチと音を立てる薪を前に男女で暖を取る。
「ちったぁ落ち着いたかい?もう辺りに敵の気配は感じない。安心してもいいぞ。」
「ふん、貴方に助けられなくても自分で対処出来たわ。余計なお世話よ。」
「おーこわ。そりゃ失敬。腹も減ってきたし寝床も探さないといけないし、そろそろ行くわ。元気でな。」
「待ちなさいよ!待って…」
「うわっ、なんだよ急に。」
「行かないで。」
「さっき助けは要らないって言ってたじゃねーか。」
「それは言葉のあやで!美女といられるんだから喜びなさいよ!」
「それにお腹空いたならコレをあげるわ。せめてものお礼よ。」
渡されたのはみたことのないバー状のものにフルーツのようなものがチラホラと入っているものだった。前世で言う非常食のようなものに近いのだろう。
「なんだこれは?」
「エルフの里の携帯食よ。味は保証するわ。」
「へぇ、それじゃ。いただくとしますか。」
一口、齧ってみた。その見た目からは想像していないほどの美味。一瞬、自然の爽やかな匂いが鼻を抜け、まろやかな食感と芳醇なフルーツの香りが口に広がる。作り手の優しさを感じる。
これが携帯食?嘘だろ?前世で食べたものと比べても相当上位に来るだろうレベルだぞ?この世界のメインディッシュ級が出て来たら本当に昇天するのでは?いや、そもそもここが天国だったのか。死して初めての、否。前世含めても久しぶりに体に血が巡るような多幸感を得た。
「美味すぎる!」
無意識に口から漏れた。更に続ける。
「こんなに美味いもんは初めてかもしれねぇ。毎日でも食いてぇよ。」
エルフが一瞬ビクッと反応する。
「ななななな、何よ。泣いちゃって。こんなんでよければ幾らでも作ってあげるわよ。てゆうか、ちゃんとした材料と場所があればもっと美味しいのだって作れるわ。」
何故か、顔を赤らめながら料理上手アピールをしている。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私の名前はエルリン・ロッゲンブロート。リンでいいわ。貴方は?」
「オレか?俺の名はセン。極楽センだ。よろしくな。」