道化の悪戯
客席は荒れ、間抜けの殻になってしまった闘技場にヒカルは入ってくる。検死に運び出される筈だったロナルドの遺体を見つめる。
「魔薬使用時のデータを収集しに来ただけだったんだけどね。まさか海の王の残滓の罹患者だったとはね。思わぬ収穫だよ。君のカラダはとても貴重だ。保護させてもらうよ。」
ヒカルは遺体に手を伸ばす。
「そうはさせん。」
タモンがヒカルの顔を殴る。ヒカルは吹き飛ぶ。
「邪魔しやがってクソが!」
ヒカルは見た事ない形相でタモンを睨む。
「ウチのモンのタマ取った借りを返させて貰うぞ。」
「迷惑だよ。偽善者風吹かせちゃってヤクザ風情がさ。」
「お前も充分サイコ野郎だろ。」
「この演出が理解出来ないなんて感受性が足りないね。」
「虎紋励起、"白金虎“。」
タモンの背の虎の紋は光輝く。その光がタモンの背中から右腕にも巡る。それを溜め一気に放つ。ただの高密度の魔力の塊を放っただけの正拳突き。ヒカルは思い切り吹き飛び、身体にヒビが入る。
「なんだ。随分と身体脆いんだな。このまま砕いてやるよ。」
タモンは一気に距離を詰め殴打する。
「脱皮はさっきもしたばかりだからなぁ。あまりしたくないんだよねぇ。」
ヒカルも身体を硬化させタモンを殴り返す。
数秒、殴り合ったがヒカルは硬化させたはずの身体のヒビがさらに酷くなる。
「総帥、助太刀致します。」
戦闘音を聴き部下が駆け着ける。
「あるぇ?一対一の時間はもう終わりかい?王虎會は弱い者虐めがやり方なんだネ。」
ヒカルは戯けて見せる。
とは言え分が悪い。
「紋活性、"海蛍の発光線"、更に"酩酊の甲羅酒"」
強い光を放ち、それと同時に周囲にゆっくりとピンク色の煙が蔓延していく。
「吸うな!」
タモンは咄嗟に口を覆ったが部下達は吸い込んでしまったようだ。
ガスが無くなるとヒカルの姿も消えていた。




