幕引き
闘技場に場面は戻る。
「受肉してしまったのか?海の王が?」
「いや、流石に完全顕現ではない筈だ。恐らく権能の一部と肉体の限定的な再現。その程度だと信じたい。でなければここにいる殆どの人間はもう死んでいる。」
「だが仮にも海の王の力の一端だ。まずい
状況である事には違いない。」
「さて、龍はどうでる?」
「随分と姿が変わっちまったみてぇだな?」
センは変わり果てたロナルドと対峙する。警戒状態は怠らない。
ロナルドはセンの言葉に特に反応を示さない。
ロナルドに自我は無く目の前の敵を排除するという目的だけが残り、それを実行する機構になっていた。
ロナルドは腕を前に構える。すると腕の形が大筒のような形へと変化する。
「なんだ?」
センは一瞬戸惑う。
ロナルドの腕から白い弾丸が撃ち出された。
"カロシティブレッド"
硬質の弾丸を高速で撃ち出すシンプルな技。だがその破壊力は凄まじく…。
結果から言おう。センは一瞬の迷いから完全には避けきる事が出来なかった。
センの脇腹は抉れ、端的に言うなら致命傷に近い。
「こりゃいい。痛みのおかげで意識がトぶ事はなさそうだ。」
センは全身の筋肉に力を込める。切れた血管を筋肉で無理矢理止血させた。
しかし休む間もなくロナルドは弾丸を多数同時に撃ち出す。
「おい待て待て待て待て待て。それショットガンにも出来んのかよ!!!」
先程の攻撃で目が慣れたセンは全ての弾丸を辛うじて避ける。
この攻撃が通じないと判断したロナルドは即座に銃撃を止め、巨大な肉体の巨大な尾鰭を叩きつけるという質量に任せた攻撃を繰り出した。
「龍の顎!!!」
センは尾鰭に合わせ渾身の右ストレートを放つ。尾鰭は弾け飛び四散する。しかし即座に再生を始めていた。
「さっきまでは殴りは通じず、今度は殴った側から回復とは厄介極まりねぇ。」
「ならやっぱ捌くしかねぇか。龍紋励起・抜刀、飛龍剣。」
先刻までは一刀の構えだが攻撃回数を増やす為にニ刀の構えにする。
一撃の威力は下がるが速度も回数も上がる、理に適った構えだ。
センはロナルドの攻撃を躱し近づく。
ロナルドの巨大な体躯の全身に斬撃を浴びせる。
「なます切りはお好きですかい!」
確かに斬撃は通る。だが切った先から回復されてしまう。
「切っても切っても回復されるんじゃ埒があかねぇ。」
「そうだ。いい事思いついたぜ。」
センは腕の筋肉に力を更に込める。かと思ったら緩める。これを数え切れぬ速度で繰り返し意図的にシバリング現象を引き起こす。
シバリングによって腕の周囲には陽炎が見える程の熱気が帯びる。
「切った先から回復されるなら切り口を焼き切っちまえば再生はできねぇだろ。」
「さあ、そろそろ幕引きにしようかい。」
ロナルドは応える様に咆哮する。
「龍紋活性、火竜剣。」
センは手刀に炎の龍のオーラを纏わせ、ロナルドを切り刻む。
ロナルドを覆っていた海王の肉を削げ落とし、核が剥き出しになる。
センは手刀を一刀に戻し居合の構えを取るとそのままロナルドの核に突っ込み腕を振り抜く。
ロナルドは徐々に人型に戻る。
だが、意識は戻らない。それどころか体から目に見えるほどに魔力が流れ出ている。
「魔薬を使った代償だろうな。もう助からんだろう。」
観客が呟く。
「妹さんを守るんじゃなかったのかよ。いいのかよ!こんなトコで寝ちまって。」
「バカな…に、兄ちゃんを…許し…して…くれ…ロー…デシア…。」
ロナルドの目から光が無くなった。
「馬鹿野郎。」
「つ、ついに!決着ぅ〜。」
MCハンマーが試合の終了宣言だけが会場に轟いた。




