龍と虎(タイガー & ドラゴン)
「では、改めてこんにちは。」
「王虎會総帥、タモン・チャン。此度の訪問アポ無しの非礼で申し訳ない。」
「先程申した通り君と少し話がしてみたくてね。」
「別に構わねぇが話をするってのに頭数揃えて中々穏やかじゃなさそうなんだが?」
そう答えると隣でリンがヒソヒソ耳打ちしてきた。
「ちょっとアンタ!王虎會といったら西側地区の覇権を握っていて、最もネオカブキ統一の王手に近いとされる超巨大組よ。そこの総帥が直接来るなんて。アンタ何したのよ?」
「いやぁ、俺は別に何もしてねぇんだが?」
「私達まだ組を立ち上げてすらないのにイチャモンつけられてもうお終いよー!」
「そこのお嬢さん。お話の最中にすまないね。別に彼に何かされた訳ではない。いや、正確には違うか。」
「それはいいが確かにこのままでは無駄に威圧してるみたいだね。」
「おいお前ら、少し表出てろ。ここは私1人で構わない。」
「しかし、総帥!」
周りの護衛が声を荒げる。
「私は1人で構わない。そう言った。」
「はい。」
憤り立っていた近衛は彼の一言で勢いをうしなう。
「先日はウチの組の名を騙った輩が君たちに迷惑をかけたそうだね。その件に末端とはいえウチの組のモンも関わっていたらしい。私の監督不行だ。勝手ながら此方でケジメはつけさせておいた。」
「そりゃどうも。」
「で、それだけで組織の長がこんなとこまで出張ってきたからにはそれなりの理由があるんだろ?」
「"カエシ”とか。」
「大方、組の看板に泥をつけた報復だな。真偽はともかくな。」
「おお。中々筋はいい。」
「正解だ。半分はな。」
「で、もう半分は?」
「言っただろう。私は君と少し話をしに来ただけだと。」
「"龍"を背負った男とね。」
「それ次第では今回の件。水に流そうかと思っている。」
「別に俺、悪いことした覚えはねぇんだが?」
「君もわかるだろ?私たちの仕事は肩で風切ってナンボ。舐められままだといけないってね。」
「おっしゃる通りで。」
緊張感が更に高まる。
「ま、腹芸はこの辺にして。本題に入ろう。」
「近くウチがシノギでやってる地下闘技場があるんだが大口のタニマチが来るんだ。そこで特別ゲストとして君に出て貰いたい。」
「なんで俺なんだ?言っちゃなんだが俺は無名だぞ?」
「無名?君は一体何を言っているんだい?もう既に新しい龍の登場に街中噂でもちきりだよ。」
「そんな龍を特別ゲストとして呼ぶ。これ以上の興行はないさ。」
「この話は君にとってもそう悪いものではない筈だ。勝てば賞金、出場して貰うからには報酬も勿論支払う。更に君がこの大会で勝利すれば名を売ることだって出来る。どうだい?悪い話ではないだろう。」
「そうだな。悪くない。」
刹那、静寂が走る。
「その話乗った。」
「そうしてくれるなら我々のメンツも潰れずに済む。それでは契約成立ということでよろしいかな。」
「決まりだな。」
センは笑いながら手を差し出す。
タモンは一瞬迷ったがそれに応じた。
「それじゃ、邪魔して悪かったね。」
「詳しい日程や内容はおって連絡を寄越すとしよう。」
そう言うと組から出ていった。
タモンが出て行った後もしばら静けさに包まれたままだった。
「アンタ本当に良かったの?闘技場なんて命の保障もないのよ?」
「仕方ねぇだろ。あんなのに睨まれちまっていたら商売アガったりだ。だったら清算して互いにWin-Winで行った方がいいだろ。」
「意外だわ。ちゃんと考えてるのね。」
リンが少し驚いた口調で言う。
「いいわ。折角、舞い込んで来た話だもの。ピンチをチャンスに変えるわよ!」
「いや、そもそも個人戦なのかチーム戦なのかすらわかんねぇぞ?詳細は後日って言ってたし。」
リンは一瞬固まった後、顔を真っ赤にする。
「そそそそそんなことわわわかってるわよ!意気込みよ!」
「へいへい。」




