プロローグ
初めまして。
とっても遅筆ですが、ちょっとずつ更新していけたらと思っています。
よろしくお願いします。
どうかあなたの進む道が辛く厳しいものではありませんように…
たどり着く未来が光り輝くものでありますように…
◆◇◆
暗闇の中、突然意識が自分の中に戻ってくる。
身体中が燃えるように熱い…頭がズキズキする…
何かがそっと顔に触れた。
冷やりとした感触が、熱くなった頬に心地いい。
誰かの…手…?
誰だ?俺はまだ眠いんだ…
振り払いたいのに、腕が鉛のように重くて力が入らない。
正体だけでも確かめようと、無理やり瞼を開けてみる。
まぶしい光が、瞳を突き刺した。思わず目をすがめると、光の中に小さな人影…?が見えた。
「…生きてるんだね。」
「……」
何を言ってるんだろう。当たり前じゃないか…そう思ったけど、声を出そうとした口からは乾いた空気が漏れていくだけだった。口の中はなんだかジャリジャリしている。口を開けた時に唇でも切れたのか、鉄の味が流れ込んできた。
…ああ…気持ち悪い…
「話さなくてもいいよ。もう一度、目を閉じて…。何も心配しなくていいから。」
そう言って瞼の上に乗せられた手のひらの冷たさに、俺はなぜか懐かしさを感じていた。
───あぁ帰ってきたんだ。
再び薄れていく意識の中で、そう思った…なんて、今考えるとおかしな話だけど。
◆◇◆
人が倒れていた。
そう珍しい事でもないから、特に驚きはしなかったけど、やっぱりいい気分じゃなかった。
そりゃあそうだ。
生きてればいいけど、大抵はそうじゃない。
酷い時にはもう、人の形をしていない事もある位だ。
その時も、近づいていくにつれて『あぁ、ダメだな』って思った。
倒れていたその人は、人の形はしていたけど砂漠にいるには似つかわしくない…っていうか、自殺行為としか思えないような服装だったから。
もしかしたら、砂賊にでもあってみぐるみ剥がされた人なのかもしれない。
傍にしゃがんで、そっと頬に触れてみる。
まだ熱い。
腕をとって脈を調べようとしたその時、かすかに腕が動いたような気がした。
もしかして。
顔を覗き込むと、うっすらと目を開けてこっちを見ていた。
「…生きてるんだね」
声をかけると、何か言いたそうにゆっくりと口を開こうとするのが見えた。乾き切った唇が割れて、赤い血が一筋、口の中に流れ込んでいった。
「話さなくていいよ。もう一度、目を閉じて…。何も心配しなくていいから。」
そう言って、傷だらけの顔に手をかざし、そのまま瞼にそっとのせた。
手のひらから熱が伝わってくる。
その人は安心したのか、短く息を吐き出すとそのまま眠ってしまったようだった。
助けなきゃ。
あたしはその人の腕をつかむと、うちへと飛んだ。
◆◇◆
どこか遠くの方で何かが崩れ落ちる音がした。
きっともうすぐ、ここも崩壊が始まるだろう。
…結局、僕はなにもできなかった…
僕の中の何かが失われたかのような空虚感…何も考えられない。
さっきよりも大きく、崩壊の音が鳴り響く。
細かい振動と共に、天井からパラパラと破片が落ちてきた。
あれから僕の腕の中で目を閉じたままの、君の金色の髪がサラリと一筋滑り落ちていくのが目の端に映った。
ふと…君の最後の言葉が甦る。
───そうだ。行かなければ。
急に力が体の中に戻ってきた。
君をゆっくりと床に横たえて、まだほのかに温かい頬にそっと短いキスをした。
「ごめん…君は連れて行けない。だから…」
懐から小さな折りたたみ式のナイフを取り出して、君の髪を一房切り取ると、僕はそれを布に包みナイフと一緒に懐にしまいこんだ。
「せめてこれだけは…一緒に行こう。これからはずっと一緒だ」
君がふわりと笑ってくれた気がした。
僕はなんとか立ち上がると、そのまま歩き始めた。
少しずつ近づいてくる崩壊の音を背中に聞きながら。
君の思いを届けるために…。