2話-4「お勉強」
あれから俺は初級の詠唱を繰り返した。
やはり無詠唱が使えるのと使えないのでは大きな差があるらしい。
例えて言うなら……水泳で四泳法が使えるか使えないのかみたいなものだ。
わかりにくいな。
ということでずっとやっているのだが、特に変化はない。
だがアイナは少しずつ成長していた。
無詠唱、というわけではないが、詠唱の短縮に成功していた。
やっぱりアイナはすごい。あと可愛い。
詠唱をしているだけの俺達に、ヌトスさんは少し話をしてくれた。
彼女が王子の護衛隊長を勤めた時や、その更に前に戦争の軍隊長だった時の冒険譚。
ファンタジーモリモリの話でめっちゃ面白かった。
それから、アイナとも少し話をした。
前回のことですこし仲良くなり、そこまで嫌がった態度はしてこない。
まあ彼女こそ無口だったが、質問には答えてくる。
話によれば彼女も名家の生まれなんだそうだ。だから同じく貴族の俺と組まされたのか。
納得。
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俺は魔術の訓練が無い日は家でお勉強をしている。
主に歴史と地理について、社会科だな。それと魔法。これは……魔法科?
そういえばこの世界に学校っていうものは存在するんだろうか。
聞いたことはないが。
まあとにかく。最悪の悪魔とかについて調べて、状況によっては髪を染めなきゃいけない。
家にはいくつか教科書があった。
さすが名家。
それでわかったことだが、俺がいるここはシルバーレイク、という国らしい。
俺が見とれたあの湖が語源なんだそうだ。
銀色の湖。そのままだな。
それを囲うように貴族の家が並び、それを更に巨大な森が囲んでいる。
それらを全て合わせ、リンデルヴェール大陸となる。
さらに規模を広げて見ると、この惑星は2つに分かれているらしい。
人界と魔界。文字通り人族と魔族の住む二つの世界。
二つの世界と言っても、ちょっとバリケードで隔てているだけで、許可があれば比較的簡単に出入りができる。
だが侵入は完全に取り締まっていて、不法に侵入すると殺されてしまうとか。
普通に怖い
それと、最悪の悪魔。実名はオーデン・オスバード。今から千年ほど前に生まれた黒髪の人族。
その頃、人族は独自の剣術と特有魔術しか戦う術がなかった。
彼の特有魔術は俺と同じ闇。
だが彼はそんな力から独自の魔術を創造し、人々に伝えた。
そんな簡単に作れるのか、と思ったが『闇』が魔の物であるかららしい。
当時完全に塞がれていた魔族と人族の結界を打ち破り、彼は戦争を仕掛け、数十年続いた戦いは魔族の敗北で終わった。
だが彼はそれだけでは満足せず、魔族に何度も戦争を仕掛けた。
そして幾度となく大戦争を起こした後、失踪した。
オーデン・オスバードは、狂った戦闘狂だ。
話によれば今俺達が使っている魔術は、彼が造ったものらしい。
闇。魔の物であるらしいが、魔族の暮らす環境は真っ暗なのだろうか。そういうわけではないな。
ていうか俺も闇の能力だが魔術の創造とかできるんだろうか。
いや、ヌトスさんにも忠告されたし、使わないでおこう。
髪は……とりあえずはいいか。
そして最後にマホウ。
水、火、土、雷、風、そして治癒。この六つが基本的に習得できる魔法。
特有魔術の能力を加えればもっとたくさんあるが、普通は習得できない。
そして初級、中級、上級の三つ。その三つを下段魔術と呼び、それらを基礎とした応用の魔術が、氷、炎、岩、雷、嵐であり上段魔術と呼ぶ。これらにも三つの級がある。
……わかりにくいな。つまり、水火土雷風が初段<氷炎岩雷嵐が上段ってことだ。
更に上に神段魔術という、クソムズ&クソ強な魔術が存在するらしいが、普通の人間には習得できない領域にある。
この階級が上に上がれば上がるほど魔力の消費量も上がり、使い果たすと体の力さえも奪われていくそうだ。
だが魔法を使っていくことで体に秘める魔力の量は増えるらしい。
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そんな感じで詠唱とお勉強を繰り返し、また1年が経過した。
3歳、幼児期後期と呼ばれる年齢だ。
ちなみにアイナは6歳らしい。
3年も違うんだな。
一応謙っておこうかな。
アイナは最近、少しいきいきとしてきた。
まあ俺が前まで嫌われていたから元気じゃなかったのかもしれないが、それはきっと俺への警戒が解けてきた証拠だろう。いい傾向だ。
なのでアイナとはいつも会話をしている。
「アイナの好きな色は?」
「うーん、白、かな。私の髪の色だし」
「朝ご飯、何が好き?」
「パン、かな。美味しいよね」
とか、別段意味のない話をしている。
だがこんなしょうもない話が友情を作っていくのだ。
どっかの友達専門家が言ってた。
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ある日、いつも通り無詠唱の練習をしていると。
「火球」
アイナの手から小さな火が生まれた。
何が問題か。詠唱をまだしていないということだ。
「おお」
「やったー!」
あまり感情を表に出さないアイナだが、今回は大きく喜んでいた。
飛び跳ね、飛び回り、空を飛び……。
「ふっ。やったな。一度無詠唱が発動できれば後は楽なもんだ」
そう言われるときにはアイナは手からポンポン炎を出していた。
ヤバいな。完全に追い抜かれた。
落ち着け、集中するんや。
詠唱の時の感覚を思い出すんや。
少し魔力を込めて、脳に詠唱を……
「はあああああああああ! 水球!!」
その瞬間、頭、脳に水が流れてきた。
正確には、水のイメージが流れてきた。
体に何かがみなぎっていく。それは身体全体を巡り、手へ。
「おらぁっっ!」
俺の手には、野球ボールくらいの水球が生成されていた。
詠唱をしていないのに、だ!
「できた……」
ていうか何だ今の感覚は。脳に水が流れてきた?
じゃあ火魔術使ったら脳に火が?
「二人共できたか。よくやった」
もう一回感覚を思い出してやってみたら、無詠唱は簡単にできた。
火魔術を使っても、火は頭に流れてこなかった。
アレはイメージだ。
詠唱のイメージが頭に流れてきたのだ。
これが体が慣れるってことか。
「よし、初級の無詠唱も終わった。次の段階を始めよう」




