2話-3「ハジメテの魔術」
魔術の上達に必要なのは、経験。これは何事にも当てはまる。
学校の勉強だってやらなければ頭は良くならない。
運動だって沢山練習しないと強くはなれない。
スマ◯ラのメテオだって沢山練習しないと成功しない。
因みに俺はこの三つどれもすることができなかったので、一番説得力があるだろう。
そんな教訓を踏まえ、魔術を行使する。
ヌトスさん流の授業で使う魔術は、火と水と土と風。これを上級まで。
治癒魔術はヌトスさんが使えないんだそうだ。
今は水の初級だけ。これを無詠唱ができるまで繰り返すそうだ。
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「さて、今日は座学は無し。あんなもの楽しくないからな。今日は実習だ、たのしいぞ」
二日目の訓練が始まるとヌトスさんは昨日の倍くらいはウキウキしていた。
でも実習か。俺もやっぱり楽しみだ。
「あ、あの。私とヤクシャ……さんって魔術の進行状況が違うじゃないですか」
「ああ、そうだな」
「私は何をしていれば……?」
アイナが俺の方をすこし睨みながら言う。
さん付けされた……俺もやっぱり呼び捨ては馴れ馴れしかったかな……やっぱアイナちゃんでいこうかな……。
「今言おうとしていた。アイナは初級水魔術の無詠唱を練習してくれ。ヤクシャは私とマンツーマンで授業だ」
「あ、わかりました」
アイナは胸を撫で下ろすようにこわばった肩をなだめた。
そして俺の事をちらっと見て……すぐに目を離した。
なんでそんなに嫌われてるんだろ……俺何もしてないのに……。
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「とりあえず使う魔術は五種類だ。
・『水球』水を生成するだけだが、大きさは自由自在。正直便利だ。
・『水流弾』水の玉を高速で飛ばす技だ。攻撃力はそこそこ。戦闘には向いているな
・『水覆』水を体に纏い、防御力を上げる。その代わり魔術消費量が高い。
・『水流矢』矢型の水を形成し、刺さった部分に数分間矢が刺さる。攻撃力はほぼ皆無だ。
・『冷水』冷水を手から発射する。形を形成することはなく、出ていくだけだ。
これらが初級水魔術の五つ。最初はこれらを覚えてもらう」
「うい」
色々あるらしい。特に水流矢ってやつなんかはまじで汎用性低そうだけど……。
「では詠唱を見せる。真似して使え」
「へい」
そう言ってヌトスさんは目の前に手を掲げる。
「……深淵より湧き出づる清浄なる水よ、我が手に宿れ。水流の力を解き放ち、敵を浸し涸れさせよ」
「シュオォォォー」
ヌトスさんの手からはすこしずつ水が生まれ、いつしかバスケットボールくらいの大きさになっていた。
「水流弾」
「カーーー……ドォォォン!!」
水の玉は真っすぐ飛んでいき、近くにあった叢に入り込み、見えなくなった。
「やっぱり、魔法って凄いですよねぇ……」
「ん? そうだな。便利だ」
ヌトスさんが同意してくれるが、きっと意味がすこし違うだろう。
地球の人たちがきたらみんな驚くだろうな……。
「よしヤクシャ、やってみろ」
「ほい」
詠唱を思い出す。
魔術を使うのは二回目だし、どうも緊張してしまう。
いや、今からすることは簡単なことだ。手から水を出し、飛ばす。簡単な工程じゃないか。大丈夫だ。
「フゥー」
「深淵より湧き出づる清浄なる水よ、我が手に宿れ。水流の力を解き放ち、敵を浸し涸れさせよ!! 水流弾!!」
体から何かがみなぎるのを感じる。同時に手からは水色の何かが生まれていく。
それはすこしずつ寄せ集まり……。
飛んだ。
「グォォォーーン!!」
大きな轟音を立て、これもまた叢へと飛んでいった……。
「どう、でしたか?」
興奮を抑え、尋ねる。
今心の中で『うわーーーー』とか『すげええぇぇ』とか 『ぷおぉぉぉーー』とか叫んでいる自分がいる。
「まあ、初めてにしては上出来だろう。よくやった」
褒められた。
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「よし、今日はこれくらいでいいだろう。よくやったな、二種も使えるようになったぞ」
「は、はぁい。ありがとう、ございました」
謎の疲労感に体を襲われている。
だるい……眠い、さっきまでの興奮は何処に……。
「じゃあ、アイナを呼んできてくれ」
「……はい?」
「奥の方でアイナが水魔術の訓練をしている。行って、来るように伝えてこい」
え、アイナには嫌われてる気がするから行きたくないんだけど……まあ、しょうがないか。
「わかりました」
「ああ、ありがとう」
そうして俺は歩き出す。
それにしてもきれいな庭だ。
色とりどりの花が続いている。ちなみに草も変な色をしている。
庭なのにこのデカさ。きっと一つの大きな公園くらいだろう。
数分歩くと、アイナが見えた。
手からは巨大な水の塊を出しているように見える。すげえ。
「アイ――」
「うわあ!」
アイナに話しかけると、彼女はバランスを崩し……。
「ごゔへぇっ!」
「バシャアーー!」
アイナが制御していた水の巨塊が、俺の方に落ちてきたのだ。
「あ! え? だいじょう、ぶ?」
アイナは俺の顔を見て一瞬顔をしかめたが、すぐに手を差し伸べてくれた。
まあ水をぶっかけた手前、手を差し伸べないわけにもいかないんだろうな。
「あ、うん大丈夫だよ、ありがとう。おかげで綺麗な花達に水やりができたし」
「え? そ、そうだね……」
ちょっと上手いこと行ったつもりだったんだがウケなかったようだ。
でもアイナの顔のこわばりがすこし緩んだ気がする……かな?
「あ、で、ヤクシャ……さんは、どうしたの?」
「ん……ああ、こっちの魔術の訓練は終わったから、ヌトスさんが呼んでこいって」
「あ、分かった今行くよ……」
アイナは納得したような顔をして頷いた。
あ、あともう一つ行っておくか。
「あと、ヤクシャでいいよ?」
「え? ああうん、じゃあアイナでいいよ?」
「あ、うん、ありがとう」
「フッ、フフ。こちらこそ!」
アイナはニヤッとはにかみ、俺の方を見ていた。
こうして、俺は魔術とアイナとの仲が一歩前進したのだった。