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7-1話「加藤」

 あの後、屈強な男たちに連れられ、控室のような場所に入った。

 争いの渇望に満ちた者、不安そうに震える者、それらを観察する冷静な者。


 俺等が部屋に入ると同時に、戦いを控えた者たちがギロリとこちらを覗いてきた。

 女性が珍しいのか、口から唾液を垂らしながらニヤついている輩もいる。

 どうやら俺等は場違い、異色な存在みたいだ。


「お前らはあそこだ。部屋に入って少し経てばスタッフが来る。そいつに話を聞け」

「あ、ありがとございます」


 屈強な男はそう行って去っていった。

 彼が指を指していた先にはカーテンに囲まれた個室が。


 中に入ると頭上に合ったなにかから「ピー」という音が聞こえた。

 警報かと思ったが、どうやらセンサーの一種だろう。これで人を感知してスタッフが来るに違いない。

 椅子に座ると開口一番ソフィアが口を開いた。


「私達を見る目が気持ち悪いのが少し不快だが、戦いは楽しみだな」

「そうだね! 始めてきたけどこんな面白いことになるとは!」


 最初はアイナと二人きりのデートのつもりだったのに。

 いつの間にか3人でむさ苦しい男たちと戦う羽目になるとは。


「みんなと戦って強くなるチャンスだし、がんばろう!」

「ヤクシャ、私達は私の母親に勝ったんだ、あんなやつら楽勝だろう」


 すると、スタッフが控室に入ってきた。

 彼は背が高く、少し怖い雰囲気を持った男だったが、目は優しさを感じさせるものだった。


「お前たち、初めてか? ここではリラックスして、楽しい戦いを楽しんでくれ。」


 スタッフがルールを説明し始めると、俺たちはその言葉に注意深く耳を傾けた。彼の声は落ち着いていて、緊張感を和らげてくれるようだった。


「試合は二対二対二で行われる。参加者はそれぞれのチームに分かれ、リングで戦う。魔術は禁止で、剣術のみが許可されている。」

「え、二対二対二!? どういうことどすの!?」

「お前らは相手のチームのメンバーとペアを組み、戦う」


 オイマジカヨ、てっきり三対三かと思ってたよ。てか普通そうだろ。


「え、え、え、ちょっと待って。ってことは、俺とアイナとソフィアが戦うってことぉぉ!?」

「ああ、さっきからそういっているだろう。しつこいぞ」

「だってさ、男たちに絡まれたから、『じゃあ戦ってやる!』っていう話じゃないの? なんで仲間同士で戦うことに!?」

「相手も三人でちょうどよかったからだ。」


「え、てか、剣術だけ!?」

「あ、ああ。教えていなかったか?」


 と、アイナとソフィアを見ると、『当然』『知っていた』『しつけえな』と言わんばかりの顔をしていた。

 アイナって剣術苦手って言ってなかった? ねえ。

 俺だけ仲間はずれかよ、グスン(T_T)


「リングに入ったら即試合開始、木刀と真剣は選択可能だ」


 いや怖えよ、そんなの一発で胴体とサヨナラじゃねえかよ。嫌だよ、意外と愛着在る横の体に。

 やべえよ、一話前の自分を殴りてぇよ、もう鬱だよ……。


「それと、勝ったチームには特別な報酬が約束されている。ここでの戦いは、ただの戦闘ではなく、戦略が重要になる。しっかりと連携を取って、相手を出し抜いてくれ」


 その言葉に俺は自分の背筋がピンと伸びるのを感じた。報酬、だと? 

 変装を繰り返して学校の募金をし、赤い羽根を大量に手に入れていた俺に、報酬?


「やってやろうじゃねえかああぁぁ!!」


 俺の闘志は燃え上がった。『予選敗◯でーす』くらいには燃え上がった。


「さっき聞いたんだが、黒髪と白髪は剣術初心者だってな。だから青髪には悪いが、在る魔法を会場に施してある」

「何だそれは」


 ソフィアが訝しげに顔をしかめ、スタッフを見つめた。


「ここの支配人の特有魔術で、お前らの身体能力を底上げする結界がある。その効果範囲内であれば、反比例の要領でお前らの力は上がる」


 また特有魔術。

 反比例……。要は、弱ければ弱いほど与えられる力は少なくなり、逆ならほとんど与えられないってことか。

 確かにいいアドバンテージに聞こえるが……。


「それって鍛えてる人たちが可哀想じゃないですか?」

「フッ、ここの闘技場に慈悲なんていらない。弱い奴らがすぐやられたら客引きにもならないだろう」


 俺等はあくまで材料か。まあ、完全初心者の俺達にそんな力をくれるのはありがたい。

 遠慮なら使わせていただこう、ククククク……

 あ、でも……。


「真剣を使うんですよね、怪我とかって……」

「ああ、それを言うのを忘れていた。安全装置でこれがある」


 そういってスタッフさんがポケットから取り出したのは、三つの小さなリングだ。


「これにはある治癒魔術の『魔素結晶(エレメントクリスタル)』が入っている。手足の欠損程度なら一瞬で治る。痛みも感じないようになっている。」


「魔素結晶……ってなんですか?」


「ここの支配人の特有魔術によって作られた石だ。もちろんただの石ではなく、脳からの信号を受け取ると自動で設定した魔術を行使してくれる。もちろん魔力を使わずに」


 随分便利な魔法だ。

 さっきの次元拡張といい、身体能力の底上げといい、便利な特有魔術が多いな。羨ましい。

 痛みを感じないようになっているなら少し安心だ。


 俺達はスタッフからリングを受け取り、腕にはめた。

 アイナも不思議そうにリングを見つめている。魔法に詳しい彼女だが、珍しいものなのかな?

 すると、アイナが口を開いた。


「脳からの信号というのは具体的にどのようなものなんですか?」

「お前が今、『回復したい』と願えばすぐにでも上段上級魔術が発動される」

「思考に干渉するということですか?」

「詳しくはわからない。が、干渉できるのは「痛み」と「願い」だけだろう」


 「痛み」と「願い」。なんかかっこいいな。


「説明は以上だ。分かったら用意された別の部屋に移動して、ペアと合流しろ」


 彼がそういった瞬間、三つのドアが現れた。

 まさかこれも特有魔術……。


「じゃ、二人共、手加減しないから頑張ってね! 絶対勝つから!」

「あ、うん」


「ヤクシャ、アイナ。魔法無しでの勝負、楽しみにしている」

「お、おう」


 そういって彼女たちは自分のドアに入っていった。

 それを見届け、自分もドアノブに手をかける。


「報酬はみんなで山分けしよう。そうすれば……」


 そんな下心を心にしまいながら、俺はドアを開けた。


~~~


 中には、ニヤニヤした屈強な男Cが居た。


「よう、お前がヤクシャ・シュアールか。これからの試合、頑張ろうな」

「おうす!」


 名前は知ってるんだな。まあペア同士だし、そりゃそうか。


「聞いてなかったんですけど、お名前って教えていただけますか?」

「ん? ああ、俺はパン・ロビンソンだ。忘れんな」

「優しそうなお名前ですね」

「そうか? ……バカにしてんのか?」

「いえいえ、メッソンもございませぬ」

「……」


 部屋の中には様々な装備が置いてあり、中には筆や団子のようなものも在った。モ◯ハン……??

 そんなネタ装備とは逆に、パン・ロビンさんは本気装備で挑もうとしていた。

 金色のヘルメット、金色の甲冑、金色のタイツ。

 装備がピチピチなのはきっと彼の筋肉のせいだろう。頼もしい。


 ていうか、レアーさんにも協力してもらっておしゃれしてきたのに、装備なんかつけなきゃいけないのか、なんか悪いな。

 それいったらアイナとソフィアもだけど……まあ、あの二人、特にソフィアには抵抗なんてないか。


「僕ってどんな装備つけたら良いんでしょうね?」

「あ? 知らねえよ……お前の背丈ならこの辺で良いんじゃねえか?」


 彼が指さした先にあったのは、軍で使うような戦闘服。色は銀。


「これ、強いんですか? ただの服に見えるんですけど」

「お前は魔術師だろ? なら動きやすいものがいい」

「でも、布はちょっとさすがに耐久性に掛けるんじゃないですかね」

「は? お前が選べって言ってきたんだろ?」

「それはすみません」

「それと、これはただの布じゃない。A純度のタングステルだ」


 まーたまた知らない単語が出てきた。異世界転生ってほんとすごいんだね!

 タングステルってなんだよ! タングステンだろ!


「それなんですか?」

「……はあ、お前少しは勉強しろよ……。タングステルはここの支配人の特有魔術で作れる金属だ。硬さもあの人がイジれるし、上限硬度なら通せるものは少ない。まあそれをつくるんにゃ代償がいるけどな」


「次元拡張とか魔素結晶(エレメントクリスタル)とかタングステルとか。ここの支配人は特有魔術がすごいんですね」

「ああ、ここの支配人は人王の血が直接繋がってるらしくてな。特有魔術も濃いみたいだ」


 人王……?

 この世界の歴史は未だ疎いが、そんなのがいるのか。

 元の世界でいう大統領に近いものかな? それとも総書記……。

 でも、「人」の上に立つ王なのだから、よっぽどだろうな。


 それにしてもこいつ優しいな。これからは屈強な男なんかじゃなくてパン屋のロビちゃんって呼んであげよう。


「早くしろ、さっさと着替えねえと遅れるぞ」

「あ、はい」


 俺はパンさんに教えてもらった紺の戦闘服を着用し、近くにあった木刀を手に取った。

 屈強な男たちは別にいいが、アイナたちを傷つけるわけにはいけない。

 剣術なんてほとんどしたこともないし、真剣のほうが精神的には嬉しいが、しょうがないだろう。


 俺が準備を終えたのを確かめると、パンさんは無言で進んでいった。

 俺もついていく。闘技場へと続く道は静かで、どうも激烈な緊張感に襲われそうな場所だ。


 まあそうだろう。自動治癒機能があるとかいうリングはあるが、殺し合いをするというのは事実だ。


 ドアの前に立つと、観客のざわめきや興奮の声の響きが伝わってきた。

 大勢の興奮を感じ、自分の鼓動が速まっているのを感じる。

 すると、パンさんが振り返って言った。


「もうすぐだな、ヤクシャ。緊張してねえか?」

「ふっふっふ、我が辞書に緊張なんて二文字はない……」

「まあ、楽しめんならそれがいいや。プレッシャーに負けるようなやつは、この場所には向いてねえ」


 そうだ、遊びの気持ちで行こう。

 これはじゃんけんだ、勝っても負けても特段何かが失われるわけじゃない。

 「ナンデモカテル」を出せば良いんだ。


 一応、勝とう(加藤)



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