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1話-1「黒髪のヤクシャ」

 目が覚めると、目の前は真っ黒。俺は死んだんじゃないのか?

︎︎てことはここは天国……地獄? ってか水の中だ。

 水の中なのに呼吸ができるし、俺は魚になったってことか……。

 転生したら魚でしたみたいなことかな? ……普通に嫌だな。

 魚だったとしたらなぜか手がある。いやヒレか。

 ヒレにしては指の感覚があるし、足もある。

 魚人ってことか……? 転生したらマーメードでしたってことだな。

 ん? マーメードって人魚? まあいい。 


 ……触って気付いたが、目の前には膜があった。

 目は見えないが、手に感覚を感じる。柔らかく、少し弾んでいる感じもある。きっと俺の人生で触ったことのないものだろう。

 こんなものを触ったことがあったらきっと忘れない。壁一面に飾っておきたいくらいだ。


 いや、とにかくこの場所から出たい。


(おおぉぉぉーい!!)


 叫んでみるも、声が出ない。それでも俺は諦めない。

 諦めたらそこで人生終了だ。


(出してえぇぇぇぇぇぇ!)

(ここどこおぉぉぉっぉぉ!?)

(うわああぁぁぁぁぁぁ!!)


 いくら叫んでも、俺の喉から返事はない。もうダメか……。

 力が抜け、永遠の眠りにつこうとしたその時。


 足のあたりに引きずられる感覚。下の方へとどんどん引きずり込まれていく。

 まずい、こういう時はさっきの場所に留まって居なければいけないのがお約束だ。

 それでもどんどん下へ流れていく。周りにあった水も、俺も。


 いや、無理だ。これ、ブラックホールだ。


~~~


 次に目覚めたときに見えたのは、光。急激に入ってきて、前が見えない。

 もしかしてブラックホールの先が天国だったのか? 衝撃の事実。日本に戻ってみんなに伝えたい。

 いや、違う。あれはブラックホールじゃない。


 光の次に目に入ったのは、人間だ。いや、天使?

 俺を導きに来てくれたのか。地獄じゃなくてよかった……!

 ここは病院なのかな。だとしたらさっきは麻酔中だったとか……?

 麻酔の感覚は魚か……こんど誰かに教えてあげよう。魚好きの友達とか、さ◯なクンとかに……。


 目が光に慣れていき、少しずつ周りが見えてくる。

 目の前にあったのは、顔だった。顔があるということは、こいつは人間だ。

 手術、終わったのかな? 手術中に麻酔が切れてバッドエンドとか、ないよな……?


 ていうかこの人の髪色おかしいだろ。

 赤、いや、この色は真紅というべきか。

 赤髪の人なんて漫画でしか見たことないから分からんが……


 服は真っ白でドレスのようにも見える。少なくとも白衣ではない。

︎︎顔は少し童顔。だいぶ若く感じるな。俺のタイプだ。

 てか何か呆気にとられてるけど俺のほうが今の状況がわからん。

 まあ、話してみれば良いんだよな……。


(手術、失敗しましたか?)


 あれ? 口は開いても声が出せん。しかも手も足もろくに動かない。

 どうなってんだ。


︎︎口をパクパクさせていると、前の女性が口を開いた。


「◯△▢✩♡」

 

 ん? 何言ってんだ?

 これでもいじめられる前までは必死に勉強してきたから、英語は少しでもわかるつもりでいたんだが、全くわからん。

 地方の民族とかなのか? それとも本当にこの人が天使なのかだ。


 とにかく、何か体がだるい。寝よう。


~~~


 数日が経っても、特に変化(アクション)はない。

 正直、することもなく、俺はいつも天井を眺めているだけだ。

 まだここが病院という説も否めないが、もう違うと断言してもいいだろう。

 もしかしたら手術後に患者を放置するブラック病院とか……本当に手術に失敗して意識だけが残った生首状態とか……。


 いや、そんなことはない。でもなんか怖いので、状況を整理してみる。


 俺が家に帰ろうとすると隣の部屋のドアが空いていた。

 悪気はない。悪気はないんだがちょろーっと覗いてしまった。

 中では、下着姿の女性がベランダに立って飛び降り自殺をしているような謎の状況。

 俺は咄嗟に走り出し、飛び降りた女性を捕まえ、抱きつくのだが……マネキンだった……。


 いや、思い出すのもよそう。

 あれはマネキンじゃない。本物の人間だ。体温がなかったのは恐怖のせい。顔がなかったのは……きっとパックを付けていたのだろう。

 うん。そうだ、俺は人の命を助けて死んだんだ。俺って良い奴じゃないか。誰か褒めてくれよ。


 ……まあそんな事を考えても気休めにはならない。

 体の力を込めて体を動かす。


(うおぉぉぉぉ!!)


 ……首が……動く! 手が……動く! 足も……動く!!

 俺の体は無くなってなんかない! 俺はまだ完璧な……


(え?)


 違和感。

 そう、スタイル完璧の俺の手足はもう存在していなかった。

 ……いや、存在していた。存在はしていた。

 だが、前までのような機能性も、俊敏性もない。

 まして細く、短く、きっと俺の息子よりも小さい。

 違和感の正体はもう分かっている。正直認めたくはない事実だが……。


 俺は、赤子の姿だった。


 すなわち赤ちゃん。生物を愛し、生物に愛される生物。

 俺はそんな高貴な存在なのだ。


 ……なぜか。これもまあ分かっている。

 俺はマンションから落ちて死んで、気が付いたら赤子の姿。

 なんどもこの状況(シチュエーション)妄想(シュミレーション)してきた俺には分かる。


 俺は、赤子として、異世界に転生したんだ。


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